拝啓、マネージャーさん。友達作りは失敗しました。後悔はしていません(水無瀬志希視点)

「水無瀬さん、校長室まで来てもらえますか?」


「は、はい」


灯織さんが来てくれてから数日後、本当に私と彼女たちの話し合いの場が設けれることになった。


むーちゃんには先に帰っておくように伝えてある。


校長室には校長先生と担任の先生、生徒指導の先生が待っており、少ししてからくだんの女子グループ3人がやってきた。


「なんですかせんせ〜、ウチらこれからカラオケ行こうと思ってたんですけど」


「…君たちが、いじめ紛いの行為を、そこの水無瀬さんに行っているという報告を受けてね。少しそのことで話がしたいんだ」


「はい?そんな事してませんよ」


リーダー格の子が当たり前のようにしらばっくれる。


「おい、しらばっくれても後々苦しくなるだけだぞ。何人かの生徒が水無瀬の教科書をお前たちが捨てているところを目撃している」


生徒指導の先生が厳しい声を挙げた。


「その子達の勘違いですよ。ウチたちはそんな事していませんって」


あまりにも白々しいので段々イライラしてきた。


「……そうですか。他にも、明らかに水無瀬さんをいじめているような行為をしているという証言が何個かありますが……一先ずそう言った追及はやめましょう。問題は、水無瀬さんがあなた達の振る舞いに何を思っているのか、それを話してもらえますか?水無瀬さん」


彼女たちの視線が突き刺さる。自分たち二つ語の悪いことを言ったらどうなるかわかってるんだろうな、みたいな目。


しかしながら私も腹が立ってきたのだ。ここは言いたいことを言わせてもらおう。


「……上靴を隠されたのが今までで3回、教科書を隠されたのが5回、そのうちゴミ箱に捨てられていたのは2回、休み時間、私の周りを両脇のお二人で囲み続けてむーちゃんに話しかけにくい雰囲気にしたのが8回、特に悪質だったのがそのうち1回。今までこのように意地悪されるのはとても辛かったのでこうして先生にこの場を設けさせてもらい、話し合いで解消しようと思ったんですけど、あなた達の態度があまりにも横柄なので許す気はなくなりました」


「は?急に何なの?勝手に被害者ぶって」


「被害者ぶっているのはどちらですか」


今までの態度で、この子達が簡単には非を認めようとしないのは明らか。


普段の人見知りの私なら、ここまで毅然と言い返すことはできなかっただろう。



『あなたの伝えたいこと、全部ぶつけてきてください。水無瀬さんならできます』



あの人の言葉が、私の背中をここまで押しているに違いない。


とはいえ先程の発言は彼女たちの態度にムカついた向こう見ずな言葉。


ボロを出さず、相手を調子付ける暇を与えない。


「このまま私に対する態度を変えないつもりなら、法的措置も検討します」


「は、はあ!?な、なによ、自分の主張を認めないからって、脅してるの?」


「脅しているわけじゃないですよ。単に、事実を述べているだけ、です」


うぐっ、とたじろいだところで、思わぬ援護が右から飛んだ。


「お熱くなっているところ悪いんだが、君たちについて興味深い通報が、入っているんだ」


校長先生からだった。


「1年の9月頃、駅構内のプリクラで他校の生徒といざこざがあったようだね。しかも非があるのはこちらだということだ」


「なっ……あれはウチらがプリクラを早く取りたかったのに前の子たちがあまりにも長かったから…!」


万城ばんじょう麻里まりさんは、誰かな?」


「わ、私です」


取り巻きの一人が手を上げた。


「君は数週間前、近所の野良猫を餌でおびき寄せ、その猫を蹴り飛ばしたそうだね。近隣の保護者の方が目撃して学校に連絡してくれている」


「い、いやあ、それは…」


「それから、伊藤いとう愛海まなみさんは?」


「う、ウチですけど?」


「最近22時を過ぎても外出している女子高校生がいるらしいのだけれど、その特徴が今の君にピッタリ当てはまるんだが、後で親御さんの方に連絡をしておきます」


「え、は?なんで」


「こっちに注目!」


パン、と手を叩いて逸れていた注意を引く。ここまでの援護射撃があれば十分だ。


「私が望んでいるのは一つだけです。これ以上、私に関わるのをやめて。それだけ」


簡潔に短く。私はそう締めくくった。


「ちなみにもし私の欲しい返事がなかった場合、もしかしたら来週にでも裁判所から書類が届くかもしれませんね」


「…っ」


今まで大人しかった子の高圧的な態度と、校長先生から直々に後ろめたい行為を話題に出されたことで、彼女たちは少なからず動揺しているはず。


このまま肯定の一言を引き出すだけでいい。


「どうするんですか?私に関わるのを止めるか、いじめまがいの嫌がらせを継続するか」


「いや、その、ご、ごめんなさい」


「話を聞いていましたか?私はあなたたちのことを許しません。故に謝罪は受け付けない。さっきの質問に、『はい』か『いいえ』で答えなさい」


「わ、わかったから、もうあんたに関わったりしないって、約束する」


その言葉が聞きたかった。


私が生徒指導の先生に目配せをすると、その意図を汲んで解散の合図を出してくれる。


「話はついたようだな。万城と伊藤については、追って連絡する」


「し、失礼しました…」


3人が退室すると、緊張が解けてどっと疲れが襲ってきた。


「水無瀬、大丈夫か」


「先生、すみません、少し、疲れが」


高級そうな革張りのソファに腰掛けて呼吸を落ち着ける。


あんなに一気に話したのはいつぶりだろうか。


「感動したぞ水無瀬。いじめの被害者というのは報復なんかを恐れてなかなか声を上げにくいものだ」


「私も、謝罪させてください。君のマネージャーさんが話してくれるまで、この事態を全く知らなかったんだ。教育者として、心から謝らせてください」


そう言って生徒指導の先生は私の肩を叩き、校長先生は頭を下げた。


「そ、そんな、校長先生、頭を上げてください。私だって灯織さんに…マネージャーさんに背中を押されていなかったら、さっきもあんなに話せなかったと思います。それに校長先生が彼女たちの後ろめたいことをあのタイミングで話してくれたから動揺で引き下がってくれたんです」


まさかあの女たちがそんなことを学外でもしていて、校長先生がそれを把握しているなんて思いもしなかったが。


「ああ、あれは…彼があの後少しして画像とともに送ってきてくれたものでね……どうやら興信所を雇って集めたらしい。使い方は『水無瀬さんに任せます』とのことだ」


灯織さん……そんなことまでしてくれてるなんて。本当に頭が上がらない。


「だったら……校長先生が持っていてください。あの子達は私に関わらないと約束してくれました。私はそれを信用します」


「彼女たちのことはしばらく教師全員で見守っていく。何かあったら遠慮なく報告してくれ」


「ありがとうございます」



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「おはようございます」


「おはよー」


翌日、私とむーちゃんはいつものように一緒に学校に登校した。


「昨日は珍しく学校に残ってたけど、何かあったの?」


「うん。少し先生と授業でわからないところの話をしてて…」


教室の中にはもう半分くらいの生徒が思い思いに雑談をしていた。


私は自分の席の前で雑談をしていたグループに声をかける。


「すみません。一限目の授業って何でしたっけ?」


「え、ああ確か現代文だよ」


「ありがとうございます、樋口ひぐちさん」


「どういたしまして、えっと…」


「水無瀬です。水無瀬志希」


「水無瀬さん」


一限目の教科を聞き出し、授業の準備に入る。


「急に他の人に話しかけに行くからびっくりした。人と話すの苦手じゃなかったの?」


「うん。前までは怖かったんだけどね」


実は昨日の一件があってから、他人と話すのにそれほど抵抗がなくなった。完全初対面の人に話しかけに行くのは難しいが、さっきのはいつも前の席にいてそれとなく面識のある子だったのでうまく行った。


「むーちゃん。次の打ち合わせって、いつだっけ」


「忘れたの?今週末だよ。歌みたの後」


「そっか」


あの後、フィスコードで灯織さんにしっかりと感謝の気持を伝えた。でも実際にあって、ちゃんとお礼が言いたい。


あれ、でもお礼ってどうやって言えばいいんだろう。


なにかお菓子とか……果たし状?みたいなものとかいるのかな?


ふとした疑問に悩まされ、その日は灯織さんにお礼をすることで頭が一杯になってしまった私なのだった。



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《本日のまとめ》


水無瀬志希はいじめっ子三体を墓地に捨て、クラスメイトを特殊召喚!


さらにいじめっ子の特殊効果発動!墓地に捨てたとき、使用者のコミュ力を1000向上させる!

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