前略、こちらも問題発生のようです
「お父様が?」
「うん」
鞍馬さんたちがカラオケに行った翌日。フィスコから火箱さんに悩みがあると言われ、うまく伝えられるかわからないからとわざわざ会社に来て細かな情報を共有してくれた。
知っての通り火箱さんのお父様は大変有名な建築家であり、アメリカに事務所を構えてあちらで仕事をしている。
そのため小学校の頃から行事ごとに顔を出す機会が全くと言っていいほどなく、寂しい思いをしていたようだ。
「本人はあんまり気にしてないみたいだけど、初配信はお父さんにも見てもらいたいなって。私のおせっかいがちょっと入ってるけどね」
「中学高校の入学式にも顔を出していないんでしょう?ちょうどいい」
早速彼の事務所宛にメールを送ろう。
「こちらでメールを送っておきます。お母様の方にも、連絡して見るように伝えてみます」
「うん。よろしくね」
「他には何かありましたか?」
「うーん…あ」
「何か?」
「学校の話を聞いたとき、志希ちゃんが少し暗い顔してた。でもそれはもう対処してるんだよね?」
「ええ、あとは水無瀬さんが頑張るだけですね」
「なら良かった。じゃあね〜」
「わざわざありがとうございます」
「ううん。今度は灯織さんもカラオケ行こうね!」
「はは……考えておきます」
さて、俺は俺の仕事をしなくては。
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最後にパパと会ったのはいつだろう。
中学校の運動会で、ちょこっと顔を覗きに来てくれたくらいだろうか。
いつも忙しくしていて、おまけにアメリカと日本じゃ時差が大きくて電話もできない。
クラスのみんなは親の存在をうざがっていたりしていかにも反抗期って感じだったけど、あたしは真逆でパパともっといろいろな話をしたかった。
今日はどんな事をした、どんな話をした。
明日はみんなであそこに行きたい。
昨日はこんなに面白いことがあった。
そんな話、今まで何回したことがあったかな。
スマホを買ってもらってからは何回も連絡を送ったけど、やっぱり忙しいみたいで簡単な返事しか帰ってこなかった。
『そういえばそろそろ課題の提出期限だけど、むーちゃんはもう終わらせたの?』
「もちろん。あの先生、提出物守らないと怖いからねー」
『私まだ終わってないやー』
「ふふん、特別に私の回答を送ってやってもいいぞ?」
『ううん。自分でやりたいから別にいいかな』
「真面目〜」
『VTuberになっても、いつまで仕事ができるかわからないから。私はむーちゃんみたいに器用じゃないし、通信制の学校行こうかな』
「うへ〜…去年高校はいったばっかりなのにもう進路について考えるの〜?」
『お母さんにも心配かけたくないしね。きっとお父さんだって、お母さんを困らせたらカンカンに怒っちゃうよ』
志希ちゃんのお父さんは彼女が中学生の時に病気で亡くなってしまった。そこから志希ちゃんのお母さんは女手一つで彼女を育てた。
だから志希ちゃんは謙遜しているが、あたしよりもすごいしっかりしてるのだ。
「…そういえば志希ちゃん、クラス内に私以外の友達って…いるの?」
そんなしっかり者の志希ちゃんは、人見知りであり友達がほとんどいない。流石に私以外の高校の友人を作っておかないと、後々社会に出たときに苦労することもあるだろう。
『……いや、今は』
「ダメダメじゃん」
『いや、でもあれだから。近々、できるかもしれない、から』
「おお、それはすごい」
『ひどい!私だってやればできるんだから』
「あはは〜」
こうやって今は毎日寝落ち通話してるけど、いつかはそう言ったこともなくなるのだろうか。
そう考えると、志希ちゃんも変わっていっているんだなとしみじみ思う。
そういえば、
『そういえば灯織さんが言ってたんだけどね』
「うん」
最近、志希ちゃんは灯織さんの話をすることが増えた。
『大学生になったら、絶対に花の名前を使ったサークルには入っちゃだめだって』
「なにそれ」
『なんか、危ないサークルらしい』
「それはだめだね」
人見知りの志希ちゃんにとって、どうやら灯織さんは話しやすい相手だったみたいだ。
『ふわぁ……じゃあ、課題終わらせて寝るね。おやすみ』
「うん、おやすみ〜」
電話を切る。
時刻は22時30分。パパのいるロサンゼルスとの時差は16時間だから、あっちは6時半くらいだろうか。
連絡を取ろうとして、やめた。
パパは忙しいから、アタシが邪魔をするわけには行かない。
「…はぁ」
あたしはため息とともにスマホを暗転させた。
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「すみません。灯織さんいますか〜?」
「おっ、火ノ川さん。どうしたんだ?」
「あ、えっと、少し今度の企画のことで話したいことがありまして」
「…あー、聞いて、無いみたいだな」
「?」
「あいつ、アメリカ行ってるんですよ。2泊3日で」
「え?」
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