人生の障害 (???視点)
この小説の星の数が900超えました! 1000の大台まであと少し! 読んで評価してくれた皆様に感謝を。
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私の人生は順風満帆だった。
容姿端麗、眉目秀麗、成績優秀、文武両道。
子供の頃から空手を習い同年代の男子を大会でコテンパンにして何度も優勝し、塾の模試では高得点を取って周囲にマウントを取っていた。
「本当によく出来た子ね」
「〇〇さんちの娘さんは本当に優秀だわ」
「皆も見習いなさい」
そう言った称賛の言葉が、常に私の心を満たしていた。
おまけにモデル顔負けの整った顔立ち。
中学、高校に入っても、常にスクールカーストの最上位に君臨し、女子からは羨望を、男子からは常に好意の視線を向けられた。
所詮この世は外見至上主義。宿題を忘れても先生に微笑みかければ笑って許してくれる。
サッカー部のキャプテンも、野球部のエースも。学校の人気所は期間に差こそあれど、ほとんど私と付き合ったのではないだろうか。
大学に進学すると、医学部の3つ上の先輩と付き合うことになった。実家が太いらしく、こちらが頼めば何でも買ってくれるし、私に尽くしてくれた。
これも私の美貌とスペックのお陰、人生の勝者、人生サイコー! いやっふー!
そんな私がVTuberに興味を持ったのは彼氏の影響だった。
研修医として働き出したとき、仕事の疲れを癒やすために彼はよくVTuberの配信を見ていた。
『ねえ、私よりもそんな絵畜生のほうが魅力的なの?』
きれいなイラストで隠してはいるが、どうせこういうのは自分の顔面偏差値が低いのに目立とうとする身の程を知らない女達だ。
キモいおっさんたちに媚を売ってまで自己顕示欲を満たしたいのだろうか。
『絵畜生って……たしかに彼もしくは彼女たちは自分のリアルの顔を表に出さないけどさ……』
『だってぇ〜…そんな画面の向こうの存在よりも、目の前の彼女のほうが可愛くなぁ〜い?』
『はは…たしかに君は世界一可愛いよ。でもね……なんていうか、他の配信者よりも、VTuberの方が頑張りが伝わるっていうかね…そう感じるんだ』
『ふ〜ん』
絵畜生に興味はないが、彼氏の好きなものには興味がある。
そうしてVTuberのことについて調べ始めた私は――
『いやああああ!! 今日も推しが可愛いいい!!!』
見事に沼にハマっていた。
いや、ほんと彼氏の言うとおりだわ。一回見たらすぐにハマってしまった。
画面の向こうでは推しが夢だったソロライブを開催することが決定したことを嬉しそうに語っている。
『いや〜ほんっとうにかわいいわ〜! 投げ銭投げ銭』
すぐにお祝いの赤スパチャを投げる。ふっふっふ、他にも赤スパを投げているけれど、天才美女たる私が投げるスパチャには金額以上の価値があるのだ。そこを退け。
赤スパに反応した推しがそれに対してコメントを返してくれる。
ふう、前までは絵畜生とか言ってたけど、やっぱりリアルよりバーチャルのほうがカワイイに決まってんだなぁ!
『あー、今日も生活に潤いをありがとう』
配信が終了した後、私は天を仰ぎそう呟いた。
配信を見ているときは嫌なことを忘れられる。そう、例えばほとんど展望を考えていなかった就職活動とかね。
鬱屈とした気持ちをなんとか鼓舞し、興味のある就職先を何個かピックアップしていると、突然数日前の会話を思い出した。
『ねえ、私がVTuberになったら嬉しい?』
少し前に、私はそんな事を彼氏に聞いた。
『えー? そうだなぁ…君がVになってしまったら僕はもう……』
『もう?』
『毎回配信でクレカの限度額までスパチャしてしまうかもなぁ』
『も〜! スパチャなんていらないから、このバッグ買ってよ〜』
『リアルスパチャの方!? も〜、仕方ないな』
その時はそれで会話を終えたが、家でVtuberとして配信をするのも良いのではないだろうか。リアルでもバーチャルでも美女とか、もう無敵やろ。
ただ、軽く調べてみてもイラストレーターにバーチャルの姿であるガワの製作を依頼してもらったり、背景やコメ欄の表示のデザインなども依頼しないといけない。
機材も高く、質の良い配信には普通に数百万を掛ける必要がある。
いくら研修医の彼氏がいると言っても、こんなに高価なものは買わせてはくれないだろう。
『じゃ、VTuberの会社で働いてみるか』
VTuberというカルチャーの規模は年々増加していっており、グループを運営する企業も増えてきた。
その会社に就職することができれば、少なくとも他の会社でやりたくもない仕事を延々と行ってつまらない生活を送るよりもいい生活ができるだろう。
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そうして私は新興のVTuber事務所、「ホロウエコー」で働くことになった。
仕事の内容は配信アプリのプログラミングなどのIT系。
タレントの皆が快適かつリアルな配信を出来るように、日夜改良を加えていく
裏方事業であるから、タレントなんかと関わる機会は全然ないんだけど、まあ毎日が充実しているし、大学で得た技術を存分に発揮できるから文句は殆ど無い。
顔がいいおかげで大体の男性社員は私に色々(意味浅)やってくれたし、女性社員も私のハイスペックさに比肩する子はいなかったので、あっという間に私は人気者になった。
飲み会とかもスタイル抜群の私に魅せられたオジサンたちや、度々用事をつけてアプローチをしてくる顔面偏差値中の上といった若手社員が奢ってくれるし、仕事のミスも他の社員が庇ってくれるし。
正に順風満帆な人生だ。
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会社で勤務を始めて数年が経ち、ホロウエコーも大きくなった。
そしてそんなある日、社内の女性社員全員に一斉メールが飛んだ。
『ホロエコ二人目の公式スタッフについて』
たしか、そんな件名だった気がする。
通常の業務に加えて、タレントの公式企画で司会として出演したりするらしい。
何だそれは、私がやるために生まれてきたような仕事ではないか。
この才色兼備な私が、タレントのためにその才能と手腕を遺憾なく発揮する未来が見える見える。
――そんな時に後輩として会社に入社してきたのが、火ノ川光だった。
プログラムの腕は私より少し劣る、顔面偏差値も私が70なら彼女は65くらい。
さらに決定的な違いが、彼女はポンコツだった。仕事も気づかないうちに何処かでミスをするし、普通に考えて思っても見ないようなミスをする。
社長が様子を見にこちらに来たときはなぜか湯呑みに紅茶を淹れて社長が大爆笑していた。
ドジをするのは勝手だけれど、私に迷惑をかけないでほしい。
社長も私の魅力に気づいたようで、気さくに話しかけてくれた。
火ノ川と違い、出来る女であると立ち振る舞いで示したので、おそらく今後ある公式スタッフの選考でも色々良くしてくれるだろう。
という感じで選考の開始を待っていたのだが、どこを気に入ったのか、社長が彼女を公式スタッフにスカウトした。
そして、あんなメールを送り付けておいて公式スタッフは火ノ川光に決定してしまった。
社内では賛否両論様々な意見が噴出した。まあそうでしょうね、選考をするって入っておきながら勝手に決めてしまうんだから。
私もその一人だった。火ノ川のことは職場もいっしょで後輩としてよく見ている。私よりも魅力のあるキャラを演じることは出来ないってのは自明で、私のほうが公式スタッフにふさわしい、と社長に熱弁した。
社長は興味深そうに私を見ると、
『たしかに、君ほど仕事ができて完璧な女性はそういないだろう。大学の出も一流で、顔立ちも整っている。まだまだ学歴主義や外見主義が根強い日本において確かなアドバンテージを持っているね』
『そうでしょうそうでしょう? ですから、私が公式スタッフに――』
『しかしね、私が求めているのは「面白い人材」だ。極端な例を言えば、神ゲーよりもバカゲーが欲しい。ツッコミどころ満載でプレイヤーを混沌の
社長は子供のように瞳を輝かせる。
『たしかに君は完璧で、社会でやっていくうえではとても重宝する人材なのだろう。でもね、面白くない。完璧であるがゆえにミスがなく、トラブルがなく、アクシデントが起こらない』
そして、これがとどめの一撃だった。
『火ノ川くんは君よりも優秀というわけじゃない。でもトラブルメーカーという才能は、君よりも火ノ川くんのほうが優秀だ』
は?
は?
優れている? あの女が? 私よりも?
この、頭脳明晰で、容姿端麗で、柔能制剛な私が?
ドジで間抜けでちょっとプログラミングが出来るくらいの女に?
その瞬間から火ノ川光は私の憎悪の対象になった。
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正直このキャラは名前つけるの面d……いえ、つける価値もないので名前は無しです。
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