【7500フォロー&120万PV突破感謝!】VTuberを支えるためにマネージャーとして事務所に入社したら公式スタッフとして会社の顔になってしまったんだが?
前略、事故発生! 灯織、行きます! ズササァーッ!(スライディング)
前略、事故発生! 灯織、行きます! ズササァーッ!(スライディング)
火ノ川先輩に連れられて向かった先は、いくつかある収録スタジオの1つ。
そこではこれから行われる収録の準備が行われていた。
「私達公式スタッフはスタジオの機材運びとかもしないといけないんですよ」
「そうなんですか」
火ノ川先輩が機材を見回って他の人に指示を出す。
「照明さん、もう少し明かり強くしてもらっていいですか? あ、その機材は始めは引っ込ませておいてください」
テキパキと指示を行う様子は彼女が本当にスタッフであることを証明していた。配信時のようにのんびりしたような雰囲気ではなく、真剣に指示を飛ばしている。
「……窓ちゃん、頑張ってる所悪いんですだけど、灯織くんはマネージャーだから機材設置の仕事はしないと思う」
「え゛っ……」
「PONだね」
「…ごめんなさいごめんなさいっ! 私ったら後輩の前でかっこいい所見せたくてっ……あうぅ、穴があったら入りたい…」
頭を抱えて火ノ川先輩がしゃがみこんでしまう。
「いえいえ、普段見る配信とは違ってかっこよかったですよ。顔を上げてください」
「ホントですか…?」
「はい、流石俺の先輩です」
「…温水さぁん…」
「なんですか窓ちゃん」
「後輩がすごい優しいです…」
「そうだね。良かったね窓ちゃん」
「良かったです…」
氷見さんが火ノ川先輩の頭を撫でて慰めている。
そう言えば二人は日常でも配信時の名前で呼ぶんだな。
そんなことを二人の仲睦まじい様子を眺めながら考えていると、ギシッ、と金属が軋む音が耳に入った。
「ん?」
上を見上げても、特になにかがあるようには見えない。
「氷見さん、何かギシギシ言ってません?」
「え? そうですか? 私には特に――」
ギイィィ――…
「っ! 先輩危ない! 避けて!」
収録スタジオには、タレントの動きをトラッキングするためのセンサーが立体的に設置されている必要がある。それは直方体の骨組みに設置されているのだが、その骨組みが何故か軋んで倒れてこようとしていた。
その丁度真下に火ノ川先輩が座り込んでいる。彼女はその異変に気づいていない。
「え?」
「っ!」
俺は全力で床を蹴って、そのまま火ノ川先輩を抱きしめる。間一髪のところで俺たちはゴロゴロと床を転がり回避することができた。
「氷見さん! 怪我は!?」
「私は大丈夫です! それよりも窓ちゃんは大丈夫ですか!?」
突然の事故に場が騒然となる中、氷見さんが俺たちのもとにすぐに駆けつけてくれた。
「俺は大丈夫です。火ノ川先輩、怪我はないですか?」
「え、あ、う、うん。大丈夫、です」
「「よかったぁ〜〜」」
火ノ川先輩の返事に、俺と氷見さんのつぶやきがハモる。
「なんで急に崩落が? 整備を怠ってたわけじゃないんでしょう?」
「ええ、そう思いたいです。ボルトは型番ごとに検品されてますから」
俺は倒れた支柱に近づき、どの部分が弱っていたのかを調べる。
「んー、ここのボルトか」
支柱と支柱を繋ぐ消えかかった赤い線の入ったボルトが、2つに折れてしまっている。
見たところ破断面には貝殻状のビーチマークと呼ばれる模様が認められるので、金属疲労による破断なのが分かる。
「とりあえず火ノ川先輩に怪我がなくてよかったです…火ノ川先輩?」
「んっ!? な、なに?」
「いえ、怪我がなくてよかったと」
「あ、ああうん。大丈夫ですよ。私、こう見えて昔は陸上部だったので!」
「それ今関係あるの?」
まだ動揺して話す火ノ川先輩に、氷見さんが冷静にツッコミを入れる。
「この件は後で上に報告しておきます。灯織さん、窓ちゃんを助けてくれてありがとうございました」
そう言って氷見さんが頭を下げた。
「いえ、先輩が無事で良かったです。それで、研修はどうしましょう」
「もうこれ以上特に教えることはないので、これで終わりでもいいですよ」
「そうですか。じゃあ、俺はこれで失礼しますね。今日はありがとうございました」
「はい。また明日」
氷見さんに挨拶をして帰ろうとすると、急に後ろから手を掴まれた。
振り向くと火ノ川先輩が俺の手を握っている。
「あ、あの…助けてくれて、ありがとう…灯織くん」
「……はい。怪我がなくてよかったです、先輩」
うーん、これがタレントに匹敵する人気を持つ公式スタッフの力か…
なんか周囲がキラキラしているように見える。
このまま居ると陽のオーラに消し飛ぶことになりそうだったので、陰属性の俺はすぐに退散した。
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早めに研修が終わったし、やることもないのでとりあえず気になったことを大野先輩に聞いてみる。
「大野先輩、ちょっと良いですか?」
「んあ? どした漣」
「撮影機材とかの予備って、どこで保管してるんですか?」
「んーっとな、多分それは照明とかの担当の人に聞かないと…あ、火ノ川さんは普段そういう仕事してるから分かると思うぞ」
「ありがとうございます。火ノ川先輩に聞いてみます」
「おう。何かあったら言えよ」
アドバイスの通り、すぐに火ノ川/窓辺先輩に確認してみた。
漣『急にすみません、収録の時に使う機材の備品置き場とかってどこにあるかわかりますか?』
光璃『備品室はそれぞれのスタジオの隅っこの方にありますよ。なにかお探しですか?』
漣『いえ、他にもああいった不良品があると危ないので型番を確認しようと思って』
光璃『熱心ですね!』
漣『あ、どこか痛むところとか無いですか? 一応先輩に負荷がかからないように転がったんですけど』
光璃『大丈夫ですよ!』
漣『なら良かったです』
光璃『すごく機敏な動きをしてましたけど、なにか運動されてたんですか?』
漣『大学の時にサバゲーをやってただけですけど、そこが軍隊式だったのでまあまあしごかれたんですよ』
光璃『そうなんですね!』
「先輩、俺ちょっと行ってきます」
「おう、後で仕事回しておくから」
「はい」
火ノ川先輩からアドバイスを受けた俺は、すぐに備品が置いている部屋に向かった。
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「失礼しまーす」
部屋の中に入ると、部品毎に仕切られた棚の中にボルトやネジが種類ごとに収納されている。
「えーっと、どのボルトだろ」
そう言えばあのボルトの型番がなにかわからない。ボルト自体に型番が彫られてたわけでもないし。
「……お」
とりあえず記憶を頼りに同じ大きさのボルトを探そうとボルトの棚を物色していると、あの時取り付けられていたのと同じ赤い印の入ったボルトを見つけた。
「この箱か…」
印の入ったボルトの入っている箱を取り出すと、他にも何個か消えかかった赤い印の入ったボルトが見つかった。
「同じ型番なのになんでこれらだけ印をつけてるんだ?」
俺は訝しんだ。
「…ふんっ!」
試しに印のついていないボルトに思いっきり力を入れる、当たり前だがボルトが壊れるとか折れるとかそういったことは起こらない。
「…流石に折れないか…じゃあこっち…」
今度は同じ箱の中に入っている印のついたものに思いっきり力を加える。
すると、ベキッと鈍い音が鳴ってボルトが折れてしまった。
金属なのでそれなりの力を加えないと折れないが、この程度――俺に折れられるくらい弱くなっている。
他の印がついたボルトにもやってみるが、全部折れてしまった。
「……冷静になってみれば、これ、普通に機材壊してないか?」
ボキボキとやってしまったボルトたちが無惨に俺の足元に転がっているのを見てそう思ってしまう。
「いやいや、きっと不良品に赤い印を付けているに違いない」
一応先輩に聞いてみるか。
俺はフィスコから火ノ川先輩に電話をかける。
まだ業務中だと思うのだが、出てくれるだろうか。
光璃『はい、なにかありましたか?』
「おっ、よかった……すみません火ノ川先輩、少し聞きたいことがあるんですけど」
『何でも聞いてください!』
「赤い印がついたボルトって不良品の目印だったりします?」
『そうですよ。何回も使ったものとか、金属疲労が溜まってる物は壊れるリスクがあるのでもしものときのために見分けられるようにしてるんです』
「じゃあ普通はないんですか?」
『そうですね』
「成程…ありがとうございます。参考になりました」
『いえいえっ、先輩ですからいくらでも頼ってください!』
通話を終了して俺は考える。
普通は不良品が設営に使われることはない。
では何故その不良品が混じっているのか。
目印の赤い印は消えかかっていた。
印が付けられて長い年月が経ったから?
いや、どちらかと言えば拭き取った可能性が高い。
ボルトを鼻に近づけると、かすかに洗剤の匂いがする。
つまり人為的に拭き取られた。事故を起こすためにこれが混入されている?
誰が、なんのために。
疑問が頭の中を駆け回るが、今の状況ではそれを類推する手段はない。
とりあえず不良品は全部回収してこちらで捨てておこう。
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「おや、灯織くん。公式スタッフとしての準備はどうだい?」
スタジオからの帰りに、丁度社長と鉢合わせた。
「ぼちぼちです。楽しみになってきましたよ。同時に胃も痛いですけど」
「……すまないね。君には苦労をかけるよ」
「でしょうね〜、どんなアンチコメが来ますかね?」
「…すまない。できる限りこちらがサポートするよ」
「ああいえ、別にそんなことは気にしてませんよ。空虚な拳で殴られるより、実体のナイフで刺されたほうが痛いですから」
「……そうか」
「あ、そうだ、少しお願いがあるんですけど」
「ん? なんだい?」
「火ノ川先輩…窓辺先輩の収録って近日中にありますか?」
「あー……ちょっと確認しないとわからないけど、どうして?」
「実際の収録の現場とかを見ておきたいと思いまして」
「成程、わかったよ。窓辺さんにもこちらから連絡しておく。本人の了承が取れ次第日程を送るようにね」
「ありがとうございます。では」
目的を果たした俺はそのまま社長の横を通り戻ろうとする。
「そうだ、風のうわさで聞いたんだが」
社長が最後に俺に向かって口を開いた。
「最近、窓辺さんの周りで事故が多発しているらしい。買ったばかりのシャーペンが壊れていたり、彼女が更衣室を使うときだけ電気がつかなかったりね」
「…なんというか、不運ですね…?」
「ああ、そうだね。君も気をつけなよ」
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4000字を超えて恐怖に震える作者です。
次回は多分窓ちゃん視点です。
これの他にも現代ファンタジーの小説をカクヨムコンに投稿してるので良かったらそっちも見てネ!
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