前略、二人目の公式スタッフです

ヤアみんな、昨日はクリスマス! 楽しんだかな!? 私? 私はねえ……


普通に冬休みの宿題やってましたね。彼女とかいねーし。一緒に遊ぶ友達もいねーし。小説の更新もしないとでまあまあ忙しかったです。


というわけで更新頑張ります。



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社長から公式スタッフ就任の知らせを受け、それを承諾した後、俺はまず大野先輩と担当二人に集まってもらった。


「で、なんで俺たちを集めたんだ?」


「多分昼休みのことだよね?」


「灯織さん、何かあったの?」


「えーっと、はい。鞍馬さんが言う通り昼休みに関する件で……端的に言うと社長から公式スタッフとして働くように言われました」


「おっ、おめでと〜!」


「おめでとう灯織さん」


「え? ちょ? は? 公式スタッフ?」


タレント二人は俺の報告を喜んでくれていたが、唯一話についていけてない大野先輩が困惑の声を上げた。


「突然の報告ですみません先輩。えっとですね――」


俺は今までにあった経緯をかいつまんで話す。


「…なるほど、池谷さんは漣の才能を買ったってことか」


「才能はあるかは…わかりませんが…」


「なるほどな。うん、頑張れよ!」


「…意外と呆気ないね、大野さん」


「後輩が出世したんだからそれは喜ばないとだろ? 仕事量は増えるかもだけどな」


「一応どうしても公式スタッフ二人の予定が合わないときの最終手段的な感じで出演するみたいなので、あんまり仕事に支障が出ることはないと思います」


「そうか! そりゃめでたい! 拍手!」


パチパチと3人から拍手をもらう。何かこういうの照れくさいな。


「あ、でも灯織くんって女性苦手だよね? 私達とういちゃんは大丈夫みたいだけど他の子は大丈夫なの?」


「…それ、五味さんも言ってた。大丈夫?」


「……苦手だなって思うタレントさんはいます。一応、その人とはあまり出さないようにしてほしいとは伝えるつもりです」


収録中にフラッシュバックなんて起こしたら迷惑…多忙なスケジュールの中で収録に来ているタレントさんに多大な迷惑と負担をかけることになってしまう。スタッフさんにもだ。


「そっか…」


「…ふっふっふ、なら解決策がある」


その時、藍原さんが自信に満ちた声でそう言った。


「灯織さんが収録する時は、私かこはくが出演するようにすればいい」


「あぁ~確かに。それなら大丈夫そうだよね」


「たしかにそれならこっちもスケジュールの調整も楽だから良いな」


「いや、俺の仕事って多分突発的に入るんで出演の調整は無理だと思います」


「…」


あからさまに凹んだ雰囲気を醸し出し始める藍原さん。


彼女の人気の1つがこの凹みにあるが、たしかに小動物的な可愛さがあるな。


「まあ何にせよ、だ。これからも頑張ってくれ。俺たちも出来る限り協力するから」


「コラボ配信のときは私に声かけてね」


「灯織さんの初めては私がもらう」


「…皆さん、ありがとうございます…!」


藍原さんのは言葉に語弊を招くような言い方をしているが、皆祝ってくれてよかった。



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さて、その日の定時ギリギリに『翌日、公式スタッフの研修』が行われる旨が記されたメールが温水さんから届いた。


同時に、タレントさんたちが使っているチャットアプリ、フィスコードのアカウントを作って公式スタッフ二人の連絡先を登録した。


配信時に使う名前はまだ決めていないので、とりあえずユーザーネームは本名にして連絡を取る。



灯織漣『改めて、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします温水さん』


テスト代わりにそうメッセージを送ると、


温水暖美『厳しくビシバシ行きますから、覚悟してくださいね』


と返ってきた。怖っ…


暖美『あ、それと窓ちゃんにもちゃんと連絡しておいてくださいね。明日は私達が研修を行うので』


漣『肝に銘じます』


暖美『いい心がけです』



というわけで窓辺さんにも連絡を取る。



漣『初めまして。新しく公式スタッフになる予定の灯織漣です。明日はご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします』


窓辺光璃『こちらこそよろしくお願いします! そんなに堅苦しい言い方しなくてもいいですよ!』


漣『いえ、先輩ですから』


光璃『先輩…いい響きですね…これからよろしくお願いしますね!』



窓辺さんとは初めてコンタクトを取るが、良好な関係を築けそうだ。


「よし、一応公式スタッフのチャンネルの動画でも見るか」


家に帰ってからやることを決め、その日はずっと動画を見ていた。


因みに一番面白かったのは公式スタッフ二人がホラゲ配信をするやつ。


普段落ち着いた態度の温水さんが喜々として突っ込んでいき、窓辺さんがそれに怯えるのがとても面白かった。



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「本日はよろしくお願いします。灯織漣です」


「あっ、あなたが灯織さんですね。窓辺光璃として出演させてもらっている火ノ川ひのかわひかりです。よろしくお願いします!」


「よろしくお願いします。火ノ川先輩」


「…ふふっ、先輩…」


俺がそう窓辺先輩に挨拶すると、本人は嬉しそうな声を漏らした。


「あっ、すみません。ホロエコの中だと私が一番の後輩なので先輩って呼ばれるのが新鮮で…」


「あー、そうですもんね」


「光ちゃん? 灯織くんも。研修始めますよ」


「あ、おはようございます氷見さん。よろしくお願いします」


「そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。じゃあさっさと始めちゃいましょうか」


そうして始まったのが配信機材の操作方法の説明である。


通常1週間掛けてタレントに行う研修のようなのだが、前回の如く1日でやることになった。


どうなってんだ新人教育と思いがちだが、氷見さんも火ノ川先輩も忙しい予定の中なんとか時間を作って俺なんかのために説明してくれているのだ。


コンマ1秒も無駄にする理由はない。


研修開始から数時間。今は配信のコメント透過やらBGMの調整やらを実際にやらせてもらっていた。


俺の後ろでは先輩二人が時折アドバイスをくれながら俺のことを見守ってくれている。


「…温さん、この人の学習速度なんなんです?」


「すごいよね、私もナレーションの研修のときには舌を巻いたよ」


「去年の私の苦労が」


「――よし、これをこうして…氷見さん、コメント透過できました」


「もう私から教えることはなにもないよ…」


「ああっ、温さんが悟った表情に……」


「? あ、あと音量の調整とかおすすめあります?」


「あ、えっとね、私は声が小さめになるからBGMを下げてます。そこは自分の声質とかを考えないといけないから、配信しながら探っていく感じになっちゃいますね」


「なるほど、了解です。…氷見さん?」


「…若いって…いいなぁ…」


なにか諦めたような雰囲気を醸し出している氷見さんがパソコンの画面をただただ見つめていた。


「いや普通に若いでしょ氷見さんも」


ホロエコの設立年と彼女が新卒採用されたことから考えて俺より年上と言えども若いんじゃないだろうか?


「アラサーだよ私? なんだ? 嫌味か? 嫌味なのかぁああ!!!」


そう言えば氷見さんは配信でも年齢ネタにされるとキレ散らかす人だった。


マズイぜ。この状態になると非常にめんどくさくなって宥めるのが大変というのを俺は配信知識で知っている。


「だ、大丈夫ですよ温さん、人生長いんですから。日本人の女性平均寿命は87歳ですよ?」


「火ノ川先輩、それフォローなんですか? ……えっと、年齢だけがその人の魅力ではないと思います。配信見てるだけでも、氷見さんは魅力あふれる女性だと思いますよ?」


「…ほう?」


瘧のように震えていた氷見さんがピタッと止まり、ゆらりとこちらを向く。


「具体的には?」


俺は考えるより先に瞬間的に話す。


「まずタレントのコントロールですね。個性豊かで暴走しがちなタレントをきちんと公式番組の尺内に収録が終わるように進行を行うのは氷見さんの魅力だと思います。また配信ではなかなかキワモノ揃いの視聴者の性癖を否定することなく笑いに変えていくトークスキルも魅力的ですねそして何と言っても――(以下略)」


話し続けるんだ灯織漣! これはそう、昔取引先のお局様がヘラったときの対処法と一緒だ! 褒め続けることでメンタルを回復させるんだ!



「――というわけで温水さんは魅力に詰まってるんですよ! わかりましたか氷見さん!」


長々と話し続けると迷惑なので端的(当社比)にまとめた解説を言い終えて俺は氷見さんの方を見る。


「お、おう、もうわかった、分かったからもう止めて…」


「ならいいです。……で、何の話でしたっけ?」


「灯織漣…恐ろしい子…」


「わあ、温さん顔真っ赤ですよ!」


「言わんでいいわ! 顔あっつ…でも不思議と嫌じゃない…」


「えーっと、何かまずっちゃいました?」


「いや、何か今なら5徹できそうだなってくらいに気力がみなぎってるだけ」


「はあ…?」


「と、とりあえず今度はスタジオの研修行きますか! 灯織さんは私に付いてきてください」


よくわからないが氷見さんのヘラは治ったようだ。てか次はスタジオか、ついていかないと。


俺は次の研修場所に向かうため、火ノ川先輩に付いて行ったのだった。



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犬の散歩中に突如溢れ出した作品のアイデア…もしかしたら1月に新作を書くかもしれんな

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