前略、タレントさんがすごい褒めてくれます

「あばばばばばばばば…」


皆さん、いかがお過ごしでしょうか。私こと灯織漣は家に帰り、ベッドの上で全身を痙攣させて居るところです。


ふう……現実逃避をしたら少しだけ落ち着いたぞ。


あの収録から1週間程が経った。今日はその歌ってみたの動画が公開される日なのだ。


「あぁ…俺の一言で鞍馬さんが炎上してしまうかもしれないいいい……あばば、思いついたことを口に出さなけりゃよかった……」


後悔の念に苛まれながら俺はアスチューブの橙瞳さんのチャンネルを開く。


そこにはプレミア配信の歌ってみたの動画が待機状態になっていた。


「……やめよう。メンタルガッタガタになる」


もしこれでコメ欄が荒れでもしたら。


もしこれで鞍馬さんが心に傷を負ってしまったら。


「……そうだ、叩かれて一番辛いのは鞍馬さんじゃないか」


あれ? つまり俺の一言で鞍馬さんが叩かれるかもしれない……そのままVTuberを引退という流れに……


俺の脳裏には涙を流しながら引退配信を行う橙瞳さんの姿がはっきりと想像でき……


「うぼろろろろろろ」


痙攣が悪化した。


もうその日はネットを一切見ずに眠りについてしまった。



======================================



「おはようございます…」


翌日、若干重い気分で出勤。大野先輩に今日の予定を確認する。


「おう! どうした! 試験前に最後の追い込みをかけて死にかけた俺みたいな顔だな!」


「後輩の俺に助けを求めてきた時は驚きましたよ」


「下手すれば留年の危機だったからな。あの時は助かった」


そう言って肩を組んでくる。


「そういえば、昨日の鞍馬さんの歌みた動画見たか?」


ピシッ、と俺の表情筋がひきつるのがわかる。


「その様子だと、リスナーの反応が気になって見れなかったって感じか」


「いやもう…まじで胃が痛くて」


俺のその言葉にニヤニヤと笑みを浮かべ肩を組んでくる先輩。はたから見るとキモいっす。と言うのをギリギリで堪えた。


「そんなストレス過多の漣くんに、これを見せてあげよ〜う」


そう言って先輩がスマホの画面を見せてくると同時に背中に衝撃――


「やっほう! なにしてるの?」


慌てて飛び退ると、件の鞍馬さんが元気に手を降っていた。


「おはようございます! 今日は収録が1件あったよね?」


「おー、鞍馬さん。そうですね。というか、ちょうどいいところに。コイツまだ歌みたの反応見てないらしいんですよ」


「えっ! そうなの? じゃあいますぐ見てよ! さあほら! すぐ見なさい!」


「ウッウワアアアアアアアアアアアア……」


やめ、ヤメローー!! という俺のささやかな抵抗は通じるはずもなく。


「はい! これがコメント欄ね!」


ついに阿鼻叫喚となったコメント欄が姿を――



==コメント==


・なんかもう。すごいしか言葉が出ない


・なんとなくおすすめに出てきたから聞いてみたけど聞き始めにえってなって聞き終わった後にえってなった


・原作小説読んだけどそれからだとこっちのドロッとした狂愛がしっくり来る。


・琥珀ちゃんのカワボで狂気を押し隠してる感じ……しゅき


・この解釈歌いきった琥珀ちゃんやばすぎ。一生推す


などなど、概ね好意的な意見で埋め尽くされていた。


「この動画、今までで一番伸びたんだよ。……ありがとう」


俺がコメント欄を思わず見つめていると、横から鞍馬さんがそうお礼を言ってきた。


「い、いや。俺は感謝されることなんて何もしてないですよ? 全部鞍馬さんのおかげです」


「そんなことないよ。君があの歌の歌詞の意味に気づいてくれたから、私はあの歌を歌えたんだ。君の歌詞の理解力は、私よりもすごいよ」


「いや、でも俺は……」


「おいおい! 天下のホロエコの歌姫に認められてるんだからよぉ! それに文句を言うなんてちょっと調子に乗ってるんとちゃいますかぁ!?」


俺が否定しようとすると先輩がエセ関西弁でガラの悪い人になって脅迫してくる。


「いやあの…わかった、わかりましたから! 近いです! 口がバッドスメル! 先輩昨日歯磨きました!?」


「げっ…」


「大野さん……それはないよ」


「……先輩。これ、口でぐちゅぐちゅするだけで歯磨けるやつです。流石にやってきてください」


「はい……すぐ戻ります」


先程の威勢があっという間にしぼみ、肩を落としながら廊下に出ていった。


「大野くん、昨日家帰ってないのかな?」


「一回家には帰ってると思いますよ。スーツ新しくなってますし。でもカバンから居酒屋の匂いがするので多分夜遅くまで飲んでたんでしょうね」


「その観察眼……君ってもしかして探偵?」


「は? 前職は貿易会社に勤めてましたけど…?」


急に探偵とか言われて驚いてしまう。たしかに他人を観察してしまう癖は着いてしまっているが…


「そうなんだ…なんにせよ、ありがとね。じゃあ私は収録の準備があるから!」


そう言って手を振り外に出ていってしまう。


「…あ、そういえばもうここに勤務し始めて1週間か」


なんかあっという間だったな。前の仕事の繁忙期のときとちょっと似てる。


めちゃくちゃ時間が早く進むのにもっと早く時間が過ぎてほしいとあの時は思っていたけれど、今はこの時間がもっと長く続いてほしいと願っている。


「ん。やっぱりこの仕事に就いてよかったな」


もう一度、自分のスマホで橙瞳さんの動画のコメントを見る。


・この歌聞いてこの人の歌聞けてよかったと思った。これから推してくわ


俺の夢は、『VTuberがリスナーとの繋がりを作る手助けすること』


これからもっと、こんな言葉をリスナーの皆が思ってくれるように、精一杯ここで働こうと思えた。


しかし、ここで一つ。重大なことに気づく。


「……ん!? 鞍馬さん! 適当に歩くと迷子になりますよ! 鞍馬さーん!?」


俺は急いで廊下に飛び出し、おそらく鞍馬さんが言ってしまったであろう方向に向けて早足で歩き出した。

















「…ん? 初めて見る顔だなー…だれだろ?」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


いや、なんか終わりみたいな感じだしてるけど、まだ終わりませんよ? これはまだプロローグに近い。ここからが本題なんですから!


背景前略、作者の梢葉月です。初めて私の小説を読んでくださった方も、他の小説を読んでくれている方も、ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。


ここまで書くのに結構時間がかかってしまいまして…青い彗星を追っていたら、時間が亡くなってしまって。仕方ないシカタナイ。ワタシワルクナイ。


この小説の更新ペースですが、他の小説との兼ね合いもあるので私の気が向いた時になると思います! この小説がオモシロイと思った人、漣くんの活躍がもっと見たい人は遠慮せずにフォローよろしくお願いしますね!


では、敬具早々、梢葉月でした!

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