幕間-瓦礫のうえで

「あらあら、だらしないことだわ」


 ぐったりと倒れる少年の頬を、指でつつく女がいた。

 ローブを深く頭からかぶっている。女は立ち上がり、ため息をもらした。


「やっぱり、強すぎだわ、あの男。あんなのどう始末しろというのかしら。せっかく、お姫様と、アイツが使えるっていうから、この子を差し向けったってのに……あっさりなんだもの」


 あー、めんどくさい! と叫んでから、彼女は何か手紙のようなものを書きはじめた。


「——よしっと。これでちょっと待てば、お迎えがくるでしょ」


 どうやら手紙を書き終えたらしい。

 一緒にいた、面をかぶった男に手紙を渡している。


「これ、フローラ宮の庭にでも投げておいて」


「庭園にですか?」


「どこでもいいのだわ。玄関でも台所でも。あぁ、でも人目につくところ希望。こっちのほう、時間が経ったらマズいから」


 かかとの高い靴で、ゼノの腕を小突き、女は「さっさと行って」と男に指示を出した。

 男は一礼すると、闇へと消えていった。


「はぁ……さてさて。お迎えがくるまで、お星様でも見ていようかしら」


 女は崩れた瓦礫のうえに座った。

 ちょうどそこに、かげっていた月が差しはじめた。


 闇色のローブ。そこから覗く、一本の太いみつあみ。

 被ったフードをおろした拍子に、ちりんと音がした。鈴の音だ。

 彼女の髪には、鈴の飾りがついていた。


「今夜も綺麗なのだわ。あの人も、この星を見ているのかしら」


 鼻唄混じりに、女は星空をみあげた。


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