07 白い獣竜


 まるで山のような大きさ。

 ぼさっとした羽毛で包まれた、真っ白い姿。


 よくわからない。鳥のような。鳥ではない何か。

 まるでお伽話に出てくるような巨大な何か。

 角が生えたヒナ鳥みたいな姿。


 ……いや、アレを的確に表現しろと言われたら言葉にならない。

 だけど、ただひとつ言えるとしたら。

 それは————


「——おい、逃げるぞ」


「え?」


 服をひっぱられ、それにつられて走る。


「待て! ここへきて逃げるのかよ!」


「当り前だ! あんなものどう倒す」


「いや、お前騎士がどうのって——」


「よくみろ。追ってくる気配がない。アレのまずさは見ればわかるが、ひとまずこの森を出ないならそのままでいい」


 確かに、白い何かはその場から動かない。

 ソレに表情など無いが、ぼーっとただ立っているだけのようだ。


「なぁ、あれはなんだ⁉」


「わからん」


 走りながら振り返る。


(なんだ? あの化物。なぜ動かない)


 全く、微動だにしない。逆にそれが恐ろしい。


(よくわからないけど、害がないものならまぁ)


 走る。走る。もうすぐ森の入り口へ着く。

 すぐに王都へ行って、このことを伝えなければ。

 再度、振り向いて敵を確認する。


「————!」


 思わず足がとまる。


「——⁉ おい! 何をやって——」


 エドルも止まり、この光景に気がついたのか息をのんだ。

 

 ソレはヒナ鳥のような姿から、獣、いや竜のような姿に変貌しつつあった。

 仮に、それを——獣竜じゅうりゅうとでも名付けておこうか。

 その獣竜からは、体毛から形どられた、いくつもの触手が生えていた。

 ゆらゆらと揺れる触手が、森の生き物たちを捕らえはじめた。

 捕獲し、口に運ぶ。

 その場にあった魔獣たちの死肉も喰らう。


 そこから動くこともなく、ただ黙々と作業のように周りのものを片付けていく。

 そして——


「伏せろ! エドル!」


 ゼノはエドルを突き飛ばし、襲い来る魔の手から間一髪で逃れる。

 だが、その行動は無意味だった。


「ゼノ!」


 一瞬で足を取られ、逆さまにるされ、すぐ目の前には獣竜の口があった。


 ——あ、これ死ぬ。


 そう思ったときには既に口の中だった。

 真っ暗で何も見えない。ぬめっとした感触が気持ち悪い。


〝喰われたのか〟


 何もわからない頭でわかったのはそれだけ。

 だからそのあとは無意識。


「——ラ……ス・オヴィ……ン」


 たぶんそう呟いたあと、完全に意識がなくなった。

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