03 騎士学校にて

騎士学校、門前。


「お、来たぜ。放剣ほうけんの騎士様が」


「おい、今日の訓練でも、うっかり剣投げんなよ」


「投げるっつうか、すぽーんって抜ける感じだけどな」


「「ぎゃははははは」」


(馬鹿が二人……)


 放剣の騎士。

 不名誉なあだ名だ。その名の通り、剣を握ってもすぐに手から離れてしまうから、そう呼ばれている。比較的軽い木剣や、木槍なら大丈夫だが、真剣となれば厳しい。それを面白がって、あのバカどもたちは笑っているわけだ。


「相変わらず、うるさい連中だな」


「エドル」


「ゼノ。気にするな。お前は魔法が使える。やつらはそれをやっかんでいるだけに過ぎない」


「やっかまれてもな。魔法っていったってアウルにもらった腕輪のおかげだし」


 エドルはゼノより一つ年上の訓練生だった。養父であるアウルに憧れを抱いているらしく、こうして時々話しかけてくる。


「いいや。十分だろう。そもそも純粋な魔法など、異郷に連なる家系しか使えない。一般の者が使うには魔導品を利用するほかないのだ。そしてそれは希少なもの。王に認められた騎士か、金を積んで手に入れるか、自ら遺跡を発掘するか……いずれにせよ、持っているだけで羨望せんぼうが集まる」


「羨望ねぇ」


 そう言われても、迷惑な話だ。


「アウル殿は俺の憧れだ。魔法を使いこなし、かつては一線で活躍した魔法騎士だった。お前はそれを受け継いでいる。なんとも羨ましい限りだ」


 うんうんと頷きながらエドルが話す。


「俺もいつかあの方の様に民を守り、主君とともに戦場を駆け抜けたい」


「いや……戦場っていつの時代の話だよ」


 戦争なら四十年も前に終わっている。いまは平和な時代だ。


「なにをいう。戦いは常に近くで起こっているものだぞ」


「……あ、そう。まぁアウルなら、怪我で今はシオン様の護衛長やってるけどな」


「なに。一線に立てずとも、王の御子を守る大役を得ているんだ。騎士の誉さ」


「そんなもんかね」


「そういうものだ——あぁ、教官がきたな」


 エドルの声に前を見れば、今日の訓練教官が歩いてきた。


(はやく終わらせて、はやく帰ろう——)

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