08 事件終幕


『みんなが笑って暮らせる国に』


 そんな国を作りたい。

 いつか自分が王になったとき、隣でみていてほしい。

 そう、語っていた。だから約束した。

 わかった。お前が王になったとき、オレはその隣にいるよと。


 それがもう──叶うことのない約束だったとしても。

 夢のように消えてしまった誓いだったとしても。



◇◇◇◇◇



 ゼノは頭上に手をかかげた。

 その瞬間、あたりに強い風が吹き荒れる。


「…………風?」


 エドルが驚き、目を見開く。


「腕輪は彼女に渡していたはず。魔導品なしで魔法だと……?」


 本来、魔法は異郷の血を引く者しか使えないといわている。

 その魔法を、とじこめた物が魔導品であり、それを使えば誰でも魔法を扱える。


 だからいま、腕輪を持っていないゼノが魔法を使えるはずなどない──とエドルは驚いているのだろう。


 自身を含めた全員の周りを、風がびゅうびゅうと音を鳴らし、渦のように変化していく。

 次第にそれは姿を変え、竜巻に、この場にいる者たちを風のおりへと閉じこめた。

 ほとんど嵐のような音しか聞こえない中で、唯一ゼノの声だけが響く。


「──使えるよ。そもそもあれは壊れてるんだ。フィーに貸したものは、オレ自身の魔力が込められてる」


「魔力を込める……だと? そんな芸当、異郷の血をひくものでさえ……」


「さぁな。オレは拾い子だからよく知らない。ただ!」


 走る。この状況に怯える男を蹴り飛ばし、王子の身を確保する。そして叫んだ。


「ちょっとコントロール効かないからっ、全員歯ァ、食いしばれ!」


 直後。ぶわっと風の塊が自身の後ろから押し寄せ、一気に渦の中心へと集まった。


「────っ」


 息ができない。目を開けることもできない。

 それほどにまで強く吹き荒れる風。だが、それもすぐに収まり、眼前がんぜんで敵へと襲い掛かった。

 悲鳴すら聞こえない、風の檻。

 そこへ飛び込む小さな影があった。旋風せんぷうの中で鎌を構える、その姿はまるで。


「──『鎌狼かまおおかみ』」


 ゼノの声が吹き荒れる風の中を抜ける。


「こんな旋風が吹く日、鎌狼が通るってアイツが言ってたっけ」


 次第に弱まる風壁ふうへきの中で、鎖鎌を持った少女が賊どもの身体を切りつける。

 まるで風刃にでも傷つけられたような跡を、その肌に残した。


「ナイスタイミング! フィー」


 かくして、ライアス王子誘拐事件は終幕を迎えた。

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