第4話 ルビー

 今回は、「ルビー」について取り上げます。


【ルビーとは?】

 ルビーとは、赤い色をしたダイヤモンドに次ぐ硬さを持った鉱物のことです。


 ……と、ここでピンときた方は鋭いです。実はこの一文、サファイアのときも同じように書いているのですが、それはルビーがサファイアと同じ「コランダム」という種類の鉱物だからです。


〇化学のお話〇

 鉱物の成分分析ができなかった時代、ルビーとサファイアは別物と考えられていました。そのため違う名称が付けられており、現代でもコランダムの赤いものは「ルビー」と呼ばれています。


 ルビーは、コランダムのなかにクロム(金属元素のひとつ)が入ることによって鮮やかな赤い色になったものを指します。しかしクロムが多ければいいというわけではありません。少なければピンク色、多すぎれば黒や灰色っぽくなります。美しいルビーが生まれるには、クロムは1~2%とこの微妙な量が含まれている必要があるのです。


 地中深く、何百万年という長い年月をかけて作り出される鉱物。そのなかに含まれる僅かな成分の違いで見た目が大きく変わることを知ると、より宝石の神秘性を感じるのではないでしょうか。


〇歴史〇

 この美しい赤い宝石は、古代インドでは「宝石の王」と呼ばれており、恐怖感を和らげ快楽を高めるための秘薬として飲まれていたこともあったようです。またそれ以外の地域では戦士のお守りとして使われたり、健康、富、知恵、愛を約束するものとして身に着けられていました。何故ルビーにこのような力が考えられていたのかというと、「赤」という色が「炎」や「血」といった、人が生きていくのに欠かせないものの象徴として捉えられていたからです。では何故そう考えられていたのか……と、この話をし始めると色のことを語らねばならなくなるので割愛します(笑)



【名前の由来】

<通説>

 ラテン語の赤を意味する「rubeus/ルベウス(ルベルス)」から、ルビーになったと言われています。


<雑記>

 ルビーは通説に書いた通り、基本的にラテン語の「rubeus/ルベウス(ルベルス)」が名前の由来です。同じくラテン語の赤という意味で「ruber(ルベル)」が語源であるという説もありましたが、どちらもラテン語の赤を意味するので、ここまでダイヤモンド、エメラルド、サファイアとご紹介してきましたが、最も名前の由来がぶれていない宝石だなと思います。

 とはいえ、他の言語の呼び方もあることにはあるので、合わせてご紹介いたします。


(*rubeusとruberの違いは私もラテン語のことが詳しいわけではないので定かではないのですが、調べた限りでは「rubeus/ルベウス(ルベルス)」は「赤」そのものよりも「赤味がかった」ことを言うようです。それを考えると色の「赤」そのものを表しているのはどちらかというと「ruber」なのではないかと推察しますが、あくまで私の推測なのでテキトウに聞き流してくださいませ 笑)


〇「燃える石炭」という意味〇

 ルビーは、古代ギリシアでは「アンスラック」、古代ローマでは「カルブンクルス」という名前がついてました。どちらも意味は「燃える石炭」。

 実際にルビーは紫外線を浴びると、燃えるような赤い色になる「紫外線蛍光性」という特徴をもっています。もしかすると当時の人たちは、ルビーのなかに炎のようなものを見ていたのかもしれませんね。


〇「rubeus/ルベウス(ルベルス)」のさらに前の言葉〇

 ルビーの語源はラテン語の「rubeus/ルベウス(ルベルス)」と書きましたが、もう一つ説があります。

「rubeus」という言葉の語源ともなった「ルーバイン」というものです。「ルーバイン」も意味は「赤」。(「ルーバイン」のスペルは分かりませんでした)

 この説明からすると「ルーバイン」→「ルベウス」→「ルビー」になったという過程が考えられるようですが、多くの書籍はルビーの語源を「ルベウス」としているので、「ルーバイン」が名前の由来としているのはあまり一般的ではないようです。


 しかし、1625年にイギリス人が出版した宝石の書籍には「ルーバイン」が登場します。また、まだ成分分析が行われていなかった当時は、「ルーバイン」というと、ルビーだけではなく、ガーネットやスピネルといった別の赤い宝石のこともまとめて呼んでいたようです。


<和名>

 紅玉こうぎょくです。サファイアが青玉ならば、ルビーは紅玉とは単純ですが分かりやすいですね。



【メモ】

 燃えるような美しい赤をたたえる宝石、ルビー。

 ルビーはコランダムのなかでも、赤い色に付けられた名前ですが、そのなかでもより特別なものには「ピジョン・ブラッド」という名前が付けられています。


〇「ピジョン・ブラッド」とは?〇

「ピジョン・ブラッド」は、その名の通り「鳩の血」を意味します。血の色に似ていることからこの名が付けられたと言われますが、色を表現するときは「深みのある赤ワイン色」と書かれている書籍が多いです(笑)

(しかし、何故「鳩の血」だったのでしょう。他にも例えられる血はあったと思うのですが……、今回調べた限りでは分かりませんでした。ちなみに「ビーフ・ブラッド(オックス・ブラッド)」という名前のものもあります。こちらは「牛」の血のことですね)


 さて、「ピジョン・ブラッド」がルビーのなかでは最高品質と言われているのですが、その条件が「ミャンマーのモゴックという鉱山で採れたものであり、2ctカラットを超える大粒で色が濃く美しいこと」と言われています。(*注意*サイズは、もしかすると宝石商の方によって若干異なるかもしれません)


「鉱物」は皆さんもご存じの通り、地球の色々なところで見つかるには見つかるのですが、鉱山によって色味や品質が微妙に違います。それはどの宝石も例外ではありません。そしてルビーの場合、ミャンマーのモゴック産は品質のいいルビーが採れることが有名で、そこで採れた大きくて色味が美しく、より深い赤のものが「ピジョン・ブラッド」と言われるのです。


 さらに難しいことを言うと、ルビーは特に「処理の有無」が気にされる場合があります。


〇「処理と価値」の話〇

「処理」と一口に言っても色々あるのですが、今後も宝石の説明をするにあたり、必ず出てくるであろう言葉が「ヒート」です。何となく意味が推測されるかと思いますが、「加熱処理」のことを指します。(サファイアの項目で触れませんでしたが、サファイアも加熱処理されているものもあります)


 エメラルドの項目で「インクルージョン」のことを説明しましたが、宝石というのは加熱することによって、中に含まれるインクルージョンが変化して色が変わることがあるのです。ルビーの場合は加熱処理をすることで、より鮮やかな赤に変化することが多く、その場合のルビーは「加熱処理をしたもの」として分類されます。


 石の状態にもよりますが、「加熱処理をしたルビー」よりも「無処理で美しいルビー」のほうが価値は高くなりやすいです。「ピジョン・ブラッド」ともなればなおさらで、人の手が加えられないまま、美しい赤い色を放つルビーを手にしたいと思うようです。

 しかし、だからといって「加熱処理をしたもの」に価値がないわけではありません。


「①何もせず美しくないままのもの」と、「②熱を加えて美しくなったもの」、どちらを手にするかと言えば、②を選ぶ人のほうが多いかと思います(見た目ではヒートしたかどうかの違いはまず分かりません。玄人くろうとでも顕微鏡を使ってようやっと見分けられるくらいの違いと言われています)。

 もちろん、①を選ぶか②を選ぶかはその人が何を求めているかによって変わるので、個々人の価値は変わるでしょうけど、宝石の市場でジュエリーの価値が高いのは、①と②を比べれば②なので、こちらもルビーとしての価値はちゃんとあります。


 ……さっくりルビーのことを語るはずが、だいぶ長くなってしまいました。すみません(汗)

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