第2話 エメラルド

 今回は、「エメラルド」について取り上げます。


【エメラルドの歴史】

「エメラルド」は、ダイヤモンドよりも古くから人々に愛されていた緑色の鉱物です。紀元前4000年には、「バビロニアの人々がエメラルドの売り買いをしていた」という記録が残っているとのこと。つまりエメラルドと人類の関係は、6000年の歴史があるということですね。

 また、クレオパトラもこの鉱物を愛したことから、「宝石の女王」とも呼ばれています。



【名前の由来】

<通説>

 ギリシア語で「緑の貴石」(「緑の宝石」)を表す、「sumaragdus(スマラドグス)」が由来とされています。


<雑記>

 多くの書籍は上記に書いたギリシア語の「sumaragdus(スマラドグス)」が語源と書かれていますが、調べてみると「の『sumaragdus(スマラドグス)』が由来」としている説もあります。


〇ラテン語が語源の話〇

 ラテン語にも「sumaragdus(スマラドグス)」という言葉があります。意味は「精霊の色のエネルギー」。緑の宝石には、大地のエネルギーが秘められていると考えられていたため、このような名前が付けられていたそうです。

 そこからギリシア語、ペルシャ語を経由して、英語の「emerald(エメラルド)」になったのだとか。

 宝石関連の書籍の多くは、エメラルドの語源を「ギリシア語」としているので、もしこの説が正しいのだとすれば、ラテン語までさかのぼっていない可能性もあるかもしれませんね。


〇どっちが語源?〇

 ギリシア語でエメラルドを調べてみると「σμαράγδι/smarágdi(スマラグディ)」、ラテン語では「sumaragdus(スマラドグス)」となっています。ラテン語のほうが、語源のままの形を保っているところを見ると、通説になっている「ギリシア語が語源」というのはなんだか不思議な心地がします。

 しかし宝石の名前の由来を調べていると、複数の語源があることは結構あります。


 ダイヤモンドのときもそうでしたが、書籍の内容を比較してみると、語源の由来がいくつかの言語との間で揺れていることがあるのです。


 特にギリシア語やラテン語などのヨーロッパ系の言語は、「印欧祖語」といって、同じ言語を祖としています。そのため似通った言葉ができるのは想像に難くないでしょう。

 また交易をしている間にほかの言語で別の名が付けられ、それを語源としている学説もあるでしょうし、地域によっても語源の捉え方が違うのかもしれませんので、どの意見(名前の由来)も否定できないと私は思います。


 今後も、他の宝石(鉱物)を調べていくにあたって同様のことが起こるかもしれませんが、ここではどれが正しいと決めることなく、「いくつかの由来がある」と記しておこうと思います。(また、それらを含めて楽しんでいただけたら嬉しいです)


<和名>

 和名は「緑柱石」「翠玉すいぎょく」「翠緑玉すいりょくぎょく」です。どれも緑にちなんだ名前でエメラルドらしいですが、個人的にはちょっと学術寄りな印象があります。



【メモ】

 エメラルドは傷が多い宝石と言われています。しかし傷が付きやすいというのは、裏返せば「加工しやすい」ということ。

 ダイヤモンドは硬かったために、削る技術が確立するまであの輝かしい姿をみることはできませんでしたが、エメラルドは加工しやすかった分、早くから人々に愛でられたとも言えます。クレオパトラがエジプトを訪れた要人に、自分の似顔絵を彫ったエメラルドを贈っていたという話もあるくらいです。


 またエメラルドは、他の宝石と比べて「インクルージョン」が多く含まれています。「インクルージョン(inclusion)」とは「包括、包含」という意味。

 特別宝石だけに使われる単語ではないようですが、宝石のことで「インクルージョン」と言えば、宝石の結晶のなかに含まれる内包物を指します。別の鉱物や、空洞、小さなひびもそれにあたり、エメラルドはそれが多いのです。


 傷がなくインクルージョンも少ないエメラルドは大変価値が高いですが、一方で内包物によって木や草が植えられている美しい庭のように見えるものを、フランス語で「ジャルダン(jardin)」と言うそうです。他の宝石は、インクルージョンがあるものは価値が下がる傾向にありますが、エメラルドに限っては「ジャルダン」のようなものは希少なために価値が高いそうです。

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