死ぬほど朝日が見たかった

十余一

 死ぬほど恐ろしい体験をしたので、ここに書いて吐き出させてほしい。帰宅したばかりでまだ少し気が動転してるし、見苦しい文章になるかもしれないけど最後まで読んでくれたら嬉しい。


 昨日の朝、俺たちは男ばかり四人で登山に行った。登山といってもそんなに本格的なやつじゃない。最近キャンプとか流行ってるから気分だけでも味わおうと思って、山に登って弁当を食おうって話になったんだ。

 メンバーは俺の幼馴染のA、気弱でビビりなB、いかにも陽キャってかんじのC。


 どうやったって遭難なんかしようもないくらいの山で、難なく頂上まで行って無事に弁当を食った。問題は帰り道だ。

 順調に山道を歩いていたら、Cが足を滑らせた。つづら折りになってる道の、ちょうど曲がり角付近だったから、ほんのちょっと滑っただけだし怪我もしてない。そのまま斜面を数歩下ればまた山道に合流できるだろう。でも滑り落ちた先に、石で出来たほこらみたいなものがあって、それを蹴とばして崩してしまったようだった。


「何やってんだよ、大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫! でも何か壊しちゃったっぽい」


 Cはへらへら笑いながら返事をする。足元には、いかにも古そうな、風化した石がいくつか転がっていた。

 そしたら、いきなり怒鳴り声が聞こえてきた。


「何ばしよっと!」


 声のした方を見ると、知らないおじいさんがもの凄い形相でこちらに向かってきている。俺たちが降りてきた頂上からの道とも、下山していく道とも違う、獣道から草をかき分けて。うっそうとしてたから気付かなかったけど、三叉路になってたみたいだ。


 こういう時、頼りになるのはAだ。

「ごめんなさい! 友人が足を滑らせてしまって……、ちゃんと直しますから!」


 いきなりのことに驚いて動けなくなっていたけど、Aの言葉にハッとして、俺もAと一緒にCの元に向かおうとする。そしたらまた、おじいさんが怒鳴る。


「動きなしゃんな! わいが一人で直さんばいかん」


 俺もAもその声にビクッとなって立ち止まる。おじいさんは「わいが」のところでCを指差した。俺たちとCは顔を見合わせたけど、おじいさんの気迫が怖いし、どうしようもないし、シンと静まり返った中でCが一人で黙々と石を積み直し始めた。


 異変が起きたのはこの時からだ。風が吹いてる様子もないのに木が揺れて葉擦れの音がする。まるで何かが木の間を飛んで、渡っているみたいだ。でも生き物がいるようには見えない。午後になって少し日が傾いていたとはいえ充分に明るかったはずだ。なのに何も見えないなんておかしいだろ。


 何かは少しずつ地上に近づいてきて、とうとう落ち葉の上を駆けまわり始めた。何も見えないのに俺たちの周りをぐるぐる回るように音がする。音に合わせて落ち葉も踏まれたように動く。

 パニクったBが叫び声を上げるから更に怖くなる。オカルトとかそういうのは全然信じてなかったけど、目の前で起きてることが作り物だとは思えなかった。


「……、こっちゃん来い。早よせろさ」


 おじいさんはCが石を積み終わったのを確認すると、そう言って獣道に入っていく。

 俺たちは言われるがまま、ついて行くしかなかった。おじいさんが助けてくれる保証もなかったけど、こんな所に置き去りにされるよりかはマシだと思った。


 どのくらい歩いたのかはわからない。ただずっと足音らしきものだけは聞こえていた。ずっと俺たちのことを追いかけてくる。

 辿り着いた先にあったのはボロボロのお堂だ。屋根の一部が崩れかかっているし、石段には苔が生えている。お札を貼ったような跡もたくさんあって不気味だった。


「こけ入れ。四隅に一人ずつ座らんねえ」


 俺たち四人はお堂に入る。中には何もなくてがらんどうだ。歩くと床板がギイギイと音をたてる。古いせいか壁板にはところどころ隙間が空いていた。入口とは反対側に大きな窓があって、木の扉が閉まっている。


「朝になったらおいが窓ば開くる。そいまで静かにせろ」

 おじいさんは最後にそう言って、入口の扉を閉めた。


 扉も窓も閉まっているからお堂の中は薄暗い。壁板の隙間から光が差し込むから、お互いの姿はなんとなく見える。姿勢よく座っているのはたぶんAで、縮こまっているのはBだろう。普段だったら盛り上げ役になるCも、さすがに大人しく座っている。


 外から聞こえる音はやまない。ずっと枯れ葉を踏みしめるような音がしている。それが近づいてきて、お堂の周りにある縁側を歩く音になる。壁の隙間から何かが見えてしまうんじゃないかと思うと怖くて仕方なくて、三角座りした膝に顔をうずめた。そのうちに足音は壁から聞こえてくる。登ってるのか、何なのか。外から聞こえているのか内から聞こえているのかすらわからなくなってくる。


 一睡もできるはずがない。悲鳴を上げそうになる口を両手で押さえて、目もかたく閉じて、ひたすらに耐えた。


 頭がおかしくなりそうだった。必死に気を逸らそうとして、別のことを考えて。そうしていたら突然、ガタっと大きな音がする。思わずそちらに目を向けると、おじいさんが窓を開けていた。朝になったんだ。いつの間にか足音は聞こえなくなっていた。


「こっちゃん来い」

 おじいさんがそう言うから、俺たちは窓からお堂の外に出ることになった。俺は黒くうごめく何かのかたまりを尻目に、窓側にいたAとBの背中を追う。

 外に出ると、おじいさんは一言、「よか」とだけ言った。それでやっと助かった実感が湧いた。


「助かった……!」

「うん、無事だ、助かったんだ俺たち……」

「よかったぁ……本当によかったぁ……」


 俺たちはべしょべしょに泣きながら三人で抱き合って喜んだ。

 それからおじいさんはバス停まで案内してくれて、無事に帰宅したので、今これを書いてる。親には泣きながら叱られた。何度も電話したらしいけど全然繋がらなかったらしい。



 最後まで読んでくれてありがとう。

 一気に書いたから支離滅裂なところとか誤字脱字とかあるかもしれない。書いたら少し落ち着いたから仮眠を取ることにする。



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