第4話 友人の記憶
友達が死んだ。
雨の日に車の前に飛び出したそうだ。
あいつとは幼稚園の頃に出会って、そのまま友達になった。
幼い頃の友達なんて高校生ぐらいになれば忘れてしまうものだと思ってた。
実際あいつとは小学校の頃に俺が転校してからあまり会えていなかった。
親同士がたまに連絡を取っていて、近況を聞くことはあったがどこかへ遊びに行ったりなんかはしたことがない。
どうしてるかなと思うときもあるけれど、会えば普通に話ができると思っていた。
でも、もう会うことすらできなくなってしまった。
俺は抜け殻のようになった。
勉強に身が入らなくなり、誰かと話していてもその喋り声は耳から耳をただ通り過ぎるだけ。
あいつが死んだと聞いて俺の中には思っていたよりも深い穴が空いてしまったみたいだ。
話したいことがあるわけじゃない。
ただ、何気ない話をしたかった。
ただ、話したかった。会いたかった。
あいつがいなくなって俺はそう感じた。
人は無いものねだりが好きなんだろう。
あいつが死んだと聞かされなければ、俺はそう思うことすらなかったんだろうから。
いなくなって気づく。
駅のホームで雑音と共に響く足音が俺の頭に届く。
この中に友人を亡くした人はどれくらいいるのだろうか。
何か話したいことがあるわけじゃない誰かを失くしたことのある人はどれくらいいるのだろうか。
涙で滲む目は人混みを通るには少し不便だ。
記憶の中にいるあいつと話をしたいけれど、それは俺の妄想。ただの自己満足。
あいつと話をするには俺も死なないといけない。でも死んであいつと話ができる保証もない。
なら俺はあいつ以外の誰かのために生きる選択をしなきゃいけない。
母でも、弟でも、今いる友人でも、誰でもいい。
俺は俺を失くしたくない人のために生きるんだ。
あいつにはもう少しだけ待っててもらわないといけない。
電車がホームに付くアナウンスが鳴る。
俺の背中は誰かに押され、視界の中には電車のライトが大きく映し出された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます