第3話 彼女の記憶

彼女が死んだ。


僕が隣にいれば助けられたかもしれないのに。


車に引かれた彼女は原形をとどめていない。


彼女から流れ出す血は赤黒く、雨でも洗い流せないほど大量にあふれ出ている。


どうしてこうなった。


少し前から彼女の様子はおかしかった。


俺はそれに気づいていた。気付いていたはずなのに…気付かないふりをしていた。


彼女の友人が死んだ。俺もクラスメイトだから知っていた。


いつも一人で、いつも暗くて、いつも自分だけが不幸そうな顔をしていた。


そいつの事情は知っているつもりだった。だけど、深く入るつもりもなかった。俺には関係ないから。


でも彼女は違った。いつも友人を気にかけて、俺のことは後回し。


俺は知らない間に嫉妬心を膨らませていたんだ。


そして友人が死んだ彼女に俺は言葉をぶつけた。


友人が死んだのに涙の一つも流さないのか、と。


その言葉が引き金だったのかもしれない。


それからの彼女は学校帰りにいつもその場所へ行った。


友人が飛び降りた場所。


僕も彼女の後を追っていた。


そして今、彼女は血を流し車の下敷きになっている。


声をかけたときにはもう遅かった。


雨の音と車の音にかき消され、俺の声は彼女の耳には届いていなかった。


隣にいれば、俺が彼女の手を引いて止められたのに。


隣にいれば俺が犠牲になってでも彼女を助けられたのに。


後悔ばかりが俺の胸に刺さっていく。


冷たい雨が彼女の体を覆いつくす。


それとは真逆で俺の体は心臓が血液を運ぶたびに熱くなっていく。


冷たいはずなのに、体は熱く燃え盛りそうで…


俺は彼女のもとへ駆け出した。


その瞬間、強い衝撃を受けて視界が歪み、気付けば彼女と同じ目線で俺の視界は真っ赤に染まっていった。

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