番外編:20XX、受け継がれるモノ


天野川市、天野川学園付近に立つ外には店の名前が書かれた小さな看板と花壇のある一昔前のアンティークな雰囲気を持つ店『nasuka』、その地下には近代的なてデザインの部屋がいくつか存在していた。


部屋の中央に大きなモニター、中央に置かれた大きなテーブルとは別に設置された多くの机にはパソコン等の機材が並び、椅子に座った人物がパソコンのキーボードを打ち込んでいる。


「これより各人員は組織に勧誘する手筈の人物へと向かってほしい。君は■■■■■■■の元へ向かってくれ」


そう話すスーツを着た40代前半くらいの容姿を持つ男性の言葉に、近くに佇んでいた片腕のない茶髪でポニーテールの女性が口を開いた。


「分かった。でも、彼女が答えてくれるかは知らないからね?彼女は二人失っているんだ、戦いたくないと言う言葉が出ても可笑しくないよ」


「分かっている」


女性の言葉に男性は何処か悔しそうに拳を握りしめていた。


「再び奴らが現れたのなら声をかけられる範囲で声をかけた方が戦力が増える。と、思っているんだろうな上は………」 


氷翠ヒスイさん」


「もう、彼女らには戦って欲しくない……彼女達の戦いは終わったんだ。彼女達には自由に、平穏に過ごして欲しかったんだがな」


そう話す男性に女性は何も言わなかった。


「例の家族だが、一人で行こうと思う。」


「たぶん、いや絶対に良い返事は返ってこないだろうね」


「あぁ」


「せめて彼女を連れていきなよ、その方が良い」


「良いのか、お前はその……腕が」


「構わない、この状態でこれまで生活して来てるんだ。心配は要らないよ」















朝、ベッドから降りて着替えた私は鏡を見ながら青い髪留めを付けて部屋を出る。一階のキッチン朝ご飯の味噌汁の匂いがして、急いで階段を降りてリビングへと向かう。


リビングへと入るとお父さんがテレビのニュースを見ながら朝食を食べていた。


「おはようお父さん」


「おはよう、今日も学校かい?」


「うん、歴史が難しくて大変なんだ。でも色々と学べて楽しいよ」


お茶を飲みながら話す父さんにそう返すとコトと言う音と共に私の前に朝御飯であるご飯とお味噌汁、卵焼きが置かれる。


「はい、ご飯出来たわよ」


「ありがとうお母さん」


そう言いながら手を合わせて朝御飯に箸を伸ばす。いつも通りの朝だ、大学に行くバスが出る時間はまだ先だからゆっくり食べられる。


『次のニュースです、先日の緊急ニュースで報道した施設の襲撃ですが───』


ふとニュースの画面が変わった瞬間、テレビの電源がブチりと消えた。横をみればお父さんがテレビのリモコンをテレビへと向けていた。


「お父さん?」


「あはは、ごめんよ。チャンネルを変えようとしたんだけど間違って電源のボタンを押してしまったみたいだ」


「もう、おっちょこちょいなんだからぁ~」


まただ、チャンネルを変えるならリモコンの位置的に絶対に間違えるのはあり得ない。どうして明らかにわざとであるそれを、お母さんも知らないふりをして笑ってる。


いや、知らないふりをしたいだけなのかもしれない。私たちの家族にとって、あのテレビに映っていた内容は……。


「ごちそうさまでした、じゃあ私は部屋に戻るね」


「あぁ、遅刻しないようにね」


「お父さん流石にそれは子供扱いしすぎー、私も来年で二十歳なんだからね!」


二階にある部屋に戻り、リュックに大学に持っていく物を纏める。


私達家族はみんな引きずっている……10年前のあの日亡くなった、姉のことを。


、今やこの国の誰もが知らないであろう少女。十年前まで続いていた魔法少女事件を終わらせると同時に力尽きた英雄として祭り上げられ、何度でもテレビに放送され、様々な映画の題材にもなった魔法少女セルリアンを名乗っていた……私の姉だった人だ。


お母さんやお父さんは、お姉ちゃんがテレビに映る姿を見ない。いや、見たくないのだろう。


最後にお姉ちゃんと話したのはいつの事だっただろうか……たぶん、お姉ちゃんが軍に所属すると言って家を出ていく時だった気がする。


時計を見ると、そろそろ出発しないといけない時間だ。リュックを背負い玄関に向かう、靴を履き玄関のドアノブに手を掛けて開いた瞬間、目には行ったのはスーツを着た40代後半くらにの男性と穏やかなイメージの女性の二人組だった。


「すいません、佐久魔さんのお宅で間違いないないでしょうか?」 


「そう、ですけど………」


「突然の訪問、謝罪致します。私達は……」


「お父さんとお母さんに話があるなら、私は学校があるので失礼させて──」


そう言って二人の横を通って外に出ようとしたときだった。


「いや、我々が用があるのは君だ。佐久魔 琥陽サクマ コハルさん」


男性の口から私の名前が出た、私の個人情報を持っている?だとしたらこの人たちは警察?それとも市の人たち?


「あの、貴方達は一体……」


「それも込みで御両親共々、お話させて頂ければと」


そう話す男性に取り敢えず、ただ事では無さそうだと感じた私はお父さんやお母さんへと二人の事を知らせると、お父さんは二人を部屋に案内した。そして二人を部屋に案内すると私達三人が二人と向かい合うように座る。


何処か緊張感のある空気に思わず身構える、すると女性とアイコンタクトをとった男性は懐から名刺入れを取り出すと名刺を取り出し、女性も同じように取り出してテーブルへと置いた。


「改めて突然の来訪、謝罪いたします。我々はビースト対策特設組織C.I.E.Lの総督を任されている氷翠 真司郎ヒスイ シンジロウと申します」 


「同じくビースト対策特設組織C.I.E.Lの指揮官補佐をしている小暮 御菓子です。」


その言葉に両親の顔が強張ったのを感じた。ビースト対策って、どう言うこと?


「なんの、用ですか」


そう口を開いたのはお母さんだった、いつもの穏やかなイメージのあるお母さんから出たとは思えない何処かトゲのある言葉に、男性は持っていた鞄から小さな四角のケースを取り出すとケースの蓋を開けて私達に見えるようにテーブルに置いた。


そこには、青い剣の装飾が繋がっているネックレスがあった。何度もニュースや学校で見たカタリストと呼ばれる魔法少女への変身に必要なアイテムだ。


「佐久魔 琥陽さん、貴方に魔法少女となって我々と戦って欲しい。2代目の魔法少女セルリアンとして」


「え……」


男性から紡がれた言葉の意味が分からなかった。なんで私が魔法少女に?魔法少女事件は終わって、もうビーストは現れない筈なのに?


「なんで、家の娘が魔法少女に?既に魔法少女事件は終わった筈ですが」


困惑して言葉が出ない私とお母さんに対してお父さんは冷静で、そう返事を返した。


「魔法少女並びにビーストに関する情報を奪取された日を境にビーストと思われる目撃情報が多発しています。政府はシンに近い何者かによって情報が盗まれ、再びビーストを開発している可能性を考慮し、魔法少女と関わることのあった軍人や元魔法少女を集め捜査、討伐する組織を設立しました」


「なるほど、それがあなた方シエルと言う訳ですか」


小説家だからなのか、頭の回転が早いお父さん早いお父さんに対して私はようやく事態が飲み込めた。また、魔法少女事件みたいな事が起ころうとしている。それを止めるために、私にお姉ちゃんと同じように魔法少女になって欲しい。と言う事のようだ。


「何を、何をやってるんですか貴方達はッ!空良が、娘が取り戻した平和をそんな簡単に……そして今度はコハルまで……」


「母さん、落ち着いて……」 


だんだんと声が震え涙を流し始めたお母さんの背中を擦るお父さんの疑問に私も同じように考えていた。


以前にテレビやニュースで見た話しによれば魔法少女への変身に使うカタリストと呼ばれるそれは、他の少女には使えないはずだ。


「すいません、僕が知る知識であればコハルは魔法少女に、ソラと同じセルリアンにはなれないはずですが?」


父さんの疑問に答えたのは男性の横に座っていた女性だった。


「魔法少女事件の終結前に、カタリストに関する実験でカタリストを所持している変身者に近い人物、例えば妹や友人が使うことが出来る事が判明したんです。すぐに終結したので、この研究は発表されませんでしたが」


「なるほど……わざわざ来ていただいて申し訳ありませんがボクは反対です。ソラ以外にも魔法少女がいるなら、彼女達に任せれば良いんじゃないですか?」


お父さんの言葉に二人はやはりと言った様子の表情を浮かべている。


そんな中で私は考えていた。


もし、またビーストがもし現れたら学校の友達やお父さんにお母さんが危険な目に会う、そんなの、絶対に嫌だ。


そんな思いが心の中で生まれ、ふとお姉ちゃんが使っていたカタリストが目に入った。きっとお姉ちゃんは、私やお母さん達を守るために魔法少女になったのかな?


……私ならビーストを倒せて、皆を守れるんだよね。なら、私も……お姉ちゃんみたいにお母さん達を守りたい。お姉ちゃんの作った平和を乱そうとする奴を絶対に捕まえて今度こそお姉ちゃんの願った平和な世界にしたい。


「私、やる」


その言葉に、その場にいた四人が目を見開いた。


「コハル、貴方何を言ってるのか分かってるの!?」


「他の魔法少女だっている、彼女達に任せてコハルが戦う必要なんて何処にもないんだよ。」


私の肩を掴んだお母さんは、悲しそうな苦しそうな必死な様子で私にそう怒鳴る。肩を掴む手に少し痛みを感じていた時、宥めるように私の肩を掴むお母さんの手をお父さんがそっと外し、私へと問いかけてくる。


「お父さん、お母さん。私はね、お姉ちゃんが作った平和を乱そうとする人達が許せない、それにビーストのせいで悲しむ人達を増やしたくないの」


その言葉に、お母さんが黙り込む。恐らくお姉ちゃんの死を知った時の事を思い出しているのかもしれない。私達のように家族が、友人や知り合いが死んじゃって悲しむような人達を増やしたくない、ビーストの被害をこれ以上は増やさない。


「お姉ちゃんの作った平和を、私が守る。だから私がシエルに入ること、魔法少女になることを許してお母さん、お父さん」


そう言いながら私はお父さんとお母さんに頭を下げる、暫くするとお父さんが口を開いた。


「……分かった」


「お父さん!?何を言って……」


「母さん、コハルはもう大人みたいだ。たぶん、僕らが引き留めたとしても、きっと意見を曲げないだろう」


そう諦めた、いや分かっていた様子で話すお父さんにお母さんはゆっくりと俯いた次の瞬間、いつもの穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。


「………なんで、そんな所ばっかりそっくりなのかしら。ソラが軍に入ると言ったときみたいね」


そう言いながらお母さんは、指で涙を拭うと仕方ないと諦めた様子で私を見つめてきた。


「コハル、一つ約束してちょうだい。絶対に生きて帰ってきて」


「………うん」


頷くとお父さんは二人に向き直ると深く頭を下げた、それに続いてお母さんも深く頭を下げる。


「どうか、娘をお願いします。」


「責任もって、預からせて頂きます」


二人より深く頭を下げそう返すヒスイさんは数秒後にお父さんのお母さんと一緒に頭をあげた。


「それじゃあこれを……」


すると、ヒスイさんの隣に座っていた小暮さんがケースに入っていたカタリストを手に持って私へと近付いて来た。恐らく着けてくれようとしてるのだろう。


「じ、自分でつけれます」


「そう?じゃあ、これを」


そう言いながら掌に乗せられたカタリストを見つめる。


思ったより軽い……、これで私も魔法少女なのかな。


「えっと、魔法少女ってどうなるの?」


「えっとね、カタリストに触れて念じれば変身するの。ソラちゃんは『オラシオン』って言って変身していたわ」


小暮さんの口から出た姉についての情報に私やお母さんとお父さんは目を見開いた。


「え、小暮さんはなんでそんなこと……」


「私も魔法少女なの、十年前から。あなたのお姉さんも良くお世話してあげてたわ」


懐かしむよう様子でそう話す小暮さんが魔法少女で、お姉ちゃんと接点があったと言う事実を本当だと、嘘ではないと感じた。


「オラシオン、とある国の言葉で祈りという意味よ。ソラちゃんの平和への祈りが込められてたのかもね」


カタリストの装飾である剣に触れる、藍色に淡く発光していてまるで生きているようだ。


お姉ちゃん、私は魔法少女になる。


お姉ちゃんみたいに、悲しむ人を増やさないために戦うよ、だからお願い……私に力を託してね。


深呼吸をしてから口を開いた。


「………オラシオン!」


次の瞬間、私は黒のドレスの上から青いドレスを身に纒っていた。部屋の窓に反射した自分が、以前テレビで見た姉の服装を身にまとっていた。違うのは私の髪型がツーサイドアップな点だろうか。私の姿にまた涙を流しているお母さんと懐かしむ様子で私を見つめる小暮さんやお父さんを他所に、何故かヒスイさんは悲しそうな顔をしているように見えた。


この日、私は魔法少女セルリアンとして戦うことを決めた。見ててねお姉ちゃん、私はビーストを殺して平和な世界を守ってみせるよ。

























天野川市の外れにある幼稚園の出口でエプロンを着た女性は手を振る子供へと手を振り返す。


「ばいばーいミクせんせー!」


「気をつけて帰るんだよ~」


ミク先生と呼ばれた彼女はふと視線を感じて振り返る。そこには彼女にとって見覚えのある片腕のないスーツを着た女性が立っていた。


「久しぶり、青木 未来アオキ ミク


「……赤心さん」


「私は、君を勧誘しに来たんだ。」


「私はまだ仕事中で、それに宗教とかは……」


戸惑った様子で笑いながらそう返すミクに赤心こころは、覚悟を決め即座に口を開いた。


「単刀直入に言うよ、アサヒやリオンのカタリストを継いで私達と戦って貰えないかな」
















『第3章、記憶を巡ってEVOLUTION』Fin.


    Next Episode,Unlock.


『第4章、別世界からのBLOOD SIGN』Start.

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