第3章、記憶を巡ってEVOLUTION

私をイベントに連れてって

だんだんと日差しが強くなり、春から夏へと季節が移り変わり半袖で過ごす人も増えてきた。窓側の席や机が太陽光によって僅かに熱を持ち季節が変わっているのを感じる。


「ねぇねぇ!夏休み何する?」


「やっぱり夏だしプール行こうよ!」


後少しで夏休みと言うこともあり放課後の教室では夏休みの予定についての会話が溢れている。


「ふっふっふ、私はライコネのライブにいくのだ!」


「ええぇ!?もしかして当選したの!?」


「勿論!まさかの天野川市でのライブなんて外せるわけないっしょっ!」


そんなみんなの様子を横目に教材を纏めて教室を出て昇降口に向かう。正直、今更クラスの人達と仲良く出来るような気はしないししようとも思わないから構わない。


それにしても、ライコネとは何だろうか?何の略称なのか考えながら昇降口から外に出たタイミングで私の左肩へと何かが乗った感覚がして目線を向けるとメリアが肩に座るようにして乗っていた。


『ご主人、お疲れ様』


「メリア、反応は?」


『近くで魔力の反応はなかった、大丈夫』


「そう」


首を振り敵の出現を否定するメリアに返事を返して帰りの通学路を歩く。今日は課題もないし週末だ、明日は休み。クラスメイトがいつもより騒がしかったのはそれが原因だろうか?


そう考えながら歩いていると私側の道路に見覚えのある黒いスモークガラスの車が停車していた、間違いなく以前に乗せて貰う事のあった希代 望さんの護衛をしている神永さんが運転していた車だ。


周りを見るが近くにコンビニや公園はない、ノゾミさんがトイレに寄っていたり買い物に来ている訳では無さそうだ。なら、電話をするためにやむを得ず停車している可能性が高いだろう。


黙って通りすぎようとしていた時だった、車の助手席の窓ガラスが下がっていき見覚えのある金髪の男性が、希代 彼方さんが顔を出すと私へと手を軽く上げた。


「やぁ、久しぶりだね。セルリアンちゃん?」 


「………人違いです」


セルリアンとしては知っているが、佐久魔 空良としては初対面だ。初対面を装って返すとカナタはすぐに「ノゾミ、どうだい?」と振り返る。すると車の後部座席の窓ガラスが下がっていき、ノゾミさんが顔を出した。学校帰りなのか、開いた窓ガラスから、空いている席に鞄を雑に放っているのが見えた。


「その人がセルリアンさんで間違いないよお父さん!」


ノゾミさんに何故私がセルリアンだとバレた?今までの行動で彼女に私がセルリアンだとバレる要素は……。


「なんの、ようでしょうか」


「まぁまぁ、そう身構えないで。少し君に頼みがあってね、少しドライブに付き合ってくれるかい?勿論、家まで送るさ」


正体だけじゃなくて、私の住所まで知られて……いや調べたのだろう。相手はヤがつく人でそれも一番偉い立場だ、私の事を調べるなんて簡単なのだろう。


「分かりました」


もし断ったときはどうなるのかわからない、相手がヤのつく人達であると知っているから尚更だ。返事を返しノゾミちゃんが後部座席のドアを開けて乗ってとばかりに鞄を自分で抱えるようにして持つ。私は一度リュックを下ろして抱えてから車に乗り込む。どうか他のクラスの人達に見られてないといいんだけど、それに車と格好的に誘拐とかにも思われないといいな。


車に乗ると、運転席には神永さんが座っており軽く会釈されたので此方も会釈して返す。ちなみにメリアは先程私の肩から飛びって恐らく車の上を飛んで私達を追いかけているのだろう。


「どうして、私がセルリアンだと?」


「どうしてボクがセルリアンちゃんの正体である君を見つけたのか。それは簡単なことさ、たまたまノゾミが君の顔を見て、覚えていたから」


そう言いながら手だけこちらに向けてノゾミを指差すカナタさんに釣られてノゾミさんを見る。


「一体、いつ………あ」


思い出したのは、私が誘拐されたノゾミさんを助けたときの事だ。彼女の口に張られたガムテープを剥がした後、私は彼女に感じた既視感を確かめるため近付いて彼女の長い前髪をずらして、彼女が前の世界では魔法少女セブンスホープとして活動していたノゾミだと気が付き彼女を思い出した。確かにあの時なら彼女に私の顔を見られ、覚えられていてもおかしくない。


「もしかして、あの時……」


「ノゾミの件で少し君に頼みがあってね、君を探していたんだ」


「……ですが、私の顔がわかった所で何故天野川学園の生徒であることが分かったのですか?」


「君の外見から年齢を想定してこの市内にある学校の運営するサイトで在籍生徒の顔写真を調べたところ、ノゾミが覚えていた君の顔が見つかった、そんな感じ」


此方を振り返りながら笑顔で説明するカナタさんに、なにも言えず下を向いて俯く。迂闊だった、今までならウィザーズとは至近距離で話すことは少なかったからフードで誤魔化す事が出来ていたけど、近距離やもしもの時にフードが取れた時を想定していなかった。だが、仮面を着けて戦ったりするのは、戦闘において視界が悪いし……いや今はその事はいいだろう。


「あぁ、別に君の正体をバラそうだとか……そう言うのじゃないから安心してくれ。お!神永、あそこ寄ろう」


私の正体をバラそうとしているわけではなく、私個人に用がある?だとしたら、なんだ?まさか私にヤのつく人達同士の戦いに参加してほしいとかではないよね?


「了解です!」


暫く考えていると、何故かカナタさんの言葉に神永さんが車のハンドルを曲げ近くにあったハンバーガーのファーストフード店である『BURGER Z』のドライブスルーに入る。


ヤのつく人達がファーストフード店にドライブスルー、なんだか現実味がない光景だ。晩御飯にでも買うのだろうか?いや、カナタさんの言葉から単に小腹がすいたから寄ったのだろうか?


「話をするのに、何か摘まめるものが欲しくない?」


「え、あの?」


「お父さん!私は期間限定のラムネ味のシェイク飲みたい!あとポテトも!!」


「りょーかい、りょーかい。神永、お前も適当に頼め。ボクの驕りだ」


「ありがとうございます!兄貴!!」


先程までの真剣な様子から変わっていきなり雰囲気が軽くなり困惑していると、カナタさんが私を見ながら軽い様子で口を開いた。


「セルリアンちゃんも好きなの頼んでいいよ、学生なんだし小腹空くでしょ?この時間帯、なんならウルトラZバーガー頼んじゃう?」


流石に会ってまもない人に奢られるなんて、あんまり慣れない事に少し戸惑ってしまう。流石に何も頼まないのは失礼だろうし、ジュースだけにしよう。


「えっと、それじゃあコーラで……」


「オッケー、神永は決まった?」


「決まりました!」


車が進み、窓を開けるとカナタさんが少し体を少し乗り出して外の店内に聞こえるマイクへと近付く。


『いらっしゃいませ!ご注文がお決まりでしたらお教え下さい!』


「コーラのMサイズにシェイクのラムネ味Mサイズ、ポテトは一番大きいサイズで。あとウルトラZバーガー単品でオレンジジュースSサイズ、神永は?」


「カフェラテMにホットドッグで!」


注文が終わり、店員さんの案内音声にしたがって神永さんが車の窓を閉めて車を進ませる。


「セルリアンちゃん、本当にコーラだけで良かった?遠慮せずにバーガー頼んじゃえば良かったのに」


「お父さんは食べ過ぎ!お母さんのご飯までもうすぐなのに大丈夫なのー?」 


「あはは、これでも大食いだぞノゾミ?これくらいおやつだおやつー」


そんな会話をする二人を取り敢えず静かに見守っていると、車が進んで会計をして注文の品を受け取り車が元の道路へと戻る。


「さてと、まずセルリアンちゃんのね」


……会計をしてた店員さんの目に私達ってどう映っていたのだろうか?そんな考えを止めてカナタさんがそれぞれの注文した物を配り私はコーラを受け取る。


「ありがとうございます……」


「次はノゾミのだぞ~」


「やったー!」


飲み物を受け取ったノゾミさんや神永さんを他所に結構な大きさのハンバーガーを紙袋から取り出したカナタさんに思わず目を見開く。結構な大きさですけど?これをおやつと言いはるカナタさんって一体…。


「いただきます」


そう言いながら買って頂いたコーラに口を付ける。隣では期間限定のラムネ味のシェイクを飲んだノゾミさんが瞳を輝かせているのが見えた。


「さて、飲み物も飲んだ事だし本題に入ろうか」


そう言いながらバックミラー越しに此方を見つめるカナタさんに身構え彼の言葉を待つ。彼の頼みによっては即座にこの人達から距離を取るようにしなければならない……。


「ほら、ノゾミ。自分の口で言いなさい?」


「うぇ!?お父さんが言ってくれるんじゃないの!?」


え?もしかしてカナタさんではなく、ノゾミさんから私に何かあるのだろうか?


「だって、ノゾミが言い出したんだよ?自分でお願いしなきゃ」


そう話すカナタさんにやがてノゾミちゃんは覚悟を決めた様子で頷くと横に座る私へと向き直る。


「セルリアンちゃん、お願いです!私の護衛で魔法少女マギナのスペシャルイベントに着いてきて下さい!!」


「……………はい?」



















あれから話を聞くに、どうやらノゾミちゃんは以前に電気屋で見た『魔法少女マギナ』と言うアニメが大好きで、部屋が魔法少女マギナのグッズでいっぱいになるくらいのオタクらしい。今回、天野川市で『劇場版』についての情報やイベント限定のグッズや入場者特典があるらしく、絶対に行きたいらしいのだ。


でも以前の誘拐の件もありカナタさんやカナタさんの奥さん、神永さんのようなカナタさんの社員さん……恐らくヤのつく人達が、前のように誘拐されないか心配らしい。当たり前だ、想像だけどもしカナタさん達を狙う人達がいればノゾミさんが誘拐されて人質になる可能性が高い。


人質になり、殴る蹴るの暴行を与えられる可能性や性的暴行を受ける可能性だってある。



最低でも前より多い人数の護衛をつけたい、そう考えたカナタさん達だけど、彼らが来るとさすがに会場の空気が悪くなってしまいそうだしイベント入り口で止められそうだと考えたノゾミさんは、一人でも護衛である神永さん達より強く信頼のある人物を考えた。


そこで白羽の矢が立ったのが私らしい、彼女と近い年齢でありながら大人であり銃を持つ男性二人を制圧する武力があり、バレずにそこまで移動できた潜入能力もある。更には撃たれた銃弾を掴み取る事ができて、セルリアンの服装でもギリギリコスプレと思われそうだという事からノゾミさんはカナタさん達に私に護衛を依頼すればと提案した。


当然だけど中学生の私が携帯電話を所持しているわけがなく連絡先等知らない。その後は私の知っているから通り、カナタさんがノゾミさんと共に私を見つけだしこうして護衛をお願いしに会いに来たらしい。


「と、いう訳で君にノゾミの護衛を頼みたいんだ。佐久魔 空良ちゃん?」


セルリアンではなく本名で呼ばれる、彼の顔を見る限り私が断ることも視野にいれている様な気がする。だが、断れるのだろうか?


名前がバレていると言う事はお父さんやお母さん、妹に危害を加えられる可能性も考慮しなければならない。だが、この人達はそんな事をしない。直感的なものだが、そう感じた。


「分かりました、お受けします。詳しい日時をお教えいただければ此方も準備します。」


だが、念のため家族に危害を加えられないよう私は彼らの護衛を受けることにした。すると、ノゾミさんは安堵した様子で、カナタさんは笑顔で頷き口を開いた。


「ありがとう助かるよセルリアンちゃん、お礼は今後で君が何か困ったりした事があればボク達で力になる事があったらすぐに協力するって事で。それと君からの当日についての連絡や僕たちへの連絡する手段が欲しいな……神永、近くで信頼できる携帯ショップは?」


「近くで十分です」


「向かってくれ、ボクは家の方からそのショップに電話するよう伝えてくる」


「え?あの?」


そう言いながら操作するカナタさんに思わず困惑の声が漏れる。え、もしかしてこの人達私に携帯を買い与えようとしてる???確かに電話する手段は私は持ってない、軍みたいに通信機があるわけじゃあないし、手段はこうして会うか公衆電話しかないけど……。


「安心してね、勿論携帯の電話料金とかは全部ボクが負担するから」


そう言いながら此方へと笑いかけるカナタさんに思わず何の声もでなくなってしまった。でもこうした方が私と彼らの繋がりが消えないために良いと思ったのだろう。


こうして私は今日突然に携帯電話……スマホを手に入れる事になりお父さんやお母さん、コハルに何と説明すれば良いのか頭を悩ませながらいつもより遅く家へと帰宅するのだった。

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