光を掴んだ少女達
荒廃した町の建物やビルの間を装甲服を着た少女が背中で大きく広がって展開された機械でできた翼の間から生えた光の羽、彼女の持つ魔法『イカロス』を使い飛行している。少女の手には大きなガトリングガンがあるというのに、その重さを感じさせないほど軽やかに動き回るその姿はまるで戦闘機のようだ。
少女は慣れた宙に浮く体の感覚と同時に、凄く重たいソレを持って荒廃したビルや建物の間を飛び回り嵐のような突風に髪が暴れる事も気にせず滞空し、地上を見下ろす。
そこには沢山の狼のような顔が三つある、伝説やお伽噺に出てきそうなケルベロスのような見た目をしているビーストの大群が見えた。
『サンダルフォン、ビーストは?』
自身の魔法少女名を呼ばれた少女は耳につけたインカムから聞こえてきた声に、静かに現状を報告する。
「大型のケルベロスみたいなのが沢山!地上の魔法少女が対応しても少し厳しそうかも……」
悔しそうにそう呟く少女は脳裏に二人の少女を思い浮かべた。
こうして第二部隊である私たちが進めなかったら、前線で戦っているのであろうセルリアン達を手助けできない。もし、あの二人がいたら壁を作って閉じ込めて纏めて一掃出来るのにと、そんな解決方法を想像し頭を横に降ってそんな妄想を払う。
今、そんな事を考えたって仕方ない。
『貴方なら、数を少しは減らせる?サンダルフォン』
「任せて、少しとは言わず全部纏めて撃ち抜くよ!」
『なら、今から三分後に地上の魔法少女達をそっちに向かわせるわ。それまで自由に撃って!でも死なないでね!』
「オーライ!セルリアン……お願いだから生きて会おうね、私は貴方を含めてみんなを笑顔にするのが望みなんだからッ!」
いつも笑顔を浮かべず苦しそうな、悲しそうな顔ばかりする彼女を絶対に笑顔にしたい、そんな思いを言葉で叫び両手で持っていた私の武器であるガトリングガンを地上のビーストへ向けて構えて持ち手にあるトリガーへと指をかけ引く。
自身より大きなガトリングガンの撃鉄が高速で回転し始める。
「ガーディリア!!」
飛行しながらビーストの大群へと銃口から発射された弾丸が地上のビースト達を次々と撃ち抜いていく。耳を貫くような機械の擦れる音と弾丸の発射される発砲音。
「これもいっちゃえ!『ライトニング』!!」
彼女の言葉と共に撃鉄の先から銃弾の他にも雷が向かいビースト達を感電させ地に倒していく。宙を飛行しながらガーディリアを撃ち続け、ビーストの数を減らしていく。
「リオン、アサヒ……これで、この戦いで全部終わらせるからッ!」
そんな彼女の元にセルリアンによるシンの討伐、そして魔法少女セルリアンこと佐久魔 空良の戦死が伝えられるのは、一時間後の事だった。
カナタさんから最新型のスマホを買い与えられ、携帯電話の入った紙袋を持った制服姿で教材の入ったリュックを背負って返ってきた私は妙にご機嫌なお母さんに出迎えられた。
「偉いわねぇソラ、会社の社長さんが困っていた所を助けたなんて!」
「いいなぁ、お姉ちゃんもうスマホを持てるなんて……」
驚いた事に、社長さんという事になっているカナタさん達を助けた事で私はそのお礼として携帯電話。スマホを頂いた、と言う事になっているらしい……。
「それにしても、今後の通話料やらも支払ってくれるなんてずいぶんと太っ腹よねぇ」
そう笑いながら良かったわねぇと頬に手を当てて笑うお母さん、お父さんは「事実は小説より奇なりって本当なんだなぁ」と驚いていてコハルは私がスマホを手に入れたことを羨んでいる様子だった。
そんな訳で家族に怪しまれる事なく携帯電話を手にした私は、自分の部屋に戻り早速スマホを使ってノゾミさんが行きたいらしいイベントを調べることにした。
そんな私を横目にメリアは自分のベッドに座りながら私の持つスマホを見つめている。
『ご主人様、それは?』
「スマートフォン、えっと遠くの人と話したりインターネット上に上がっている情報を調べられる機械かな」
『なるほど、スカイレイスでも似たようなのあった』
調べてみると、イベントでは『魔法少女マギナ』の劇場版である映画についての予告と、アニメの新シーズンでのオープニング曲を歌うアイドルグループ『Light Connectors』によるオープニングが歌われるLIVEがあるらしい。
ライブのあるイベントだし、かなりの数が来ることだろう。恐らく私が魔法少女の姿で護衛しても怪しまれる可能性は低そうだ、それにしても『Light Connectors』、Lightは光でConnectorsは繋ぐ者達……光を繋ぐ者達か。凄く壮大なグループ名だけど、こういうネーミングは火守さんやあの人達が喜びそうだ。
そう思いながら、当日のイベント予定時刻をスクリーンショットで保存する。取り敢えずこれでイベント当日で何時に何が起こるのかを把握することが出来る。事前の下準備が大事だ、過去に習った通り事前に可能な限り起こり揺るトラブルを想定しておこう。
そう思いながら、ふと『Light connectors』がどんな人達なのか気になった私は検索エンジンに情報を入力する。
「ッ!」
『ご主人様?』
表示された検索結果に私は驚きを隠せなかった。
そこに映っていたのは、見覚えのある三人の少女達の写った画像だった。青空の元で三人の少女達が集まり三人でピースして笑っている。
ショートボブの白い髪に青い瞳が特徴的で優しい笑顔を浮かべてピースする
彼女達も前の世界では軍所属の魔法少女だった。ミクさんはガトリングガンを持ち空を飛び雷を操る魔法少女サンダルフォン、アサヒさんは相手を氷らせ銃剣で敵を屠る魔法少女ネクスター、リオンさんは拳に炎を纏わせ敵を穿つ魔法少女サンライズ。三人組でチームを組んで戦っていた事が多かった人達だ。
でも、最終戦時にはもう私はあの人達と会うことはなかったな。どうかこの世界で三人はオトハやユズキのように平和に生きていて欲しい。
それにしてもリオンさんとアサヒさんがアイドルだなんて少し不思議、でもミクさんならあり得そうだなと思う。
あの人は凄く優しい人だ、もし魔法少女じゃなかったらあの人はきっと良い保育士や幼稚園の先生になったのだろう。だってあの人は敵の魔法少女も気にかけるような、そんな人だ。軍に所属する魔法少女になった理由も、あの人がビーストによって沢山の人の顔が曇るのを止めたい、皆を笑顔にしたいと思ったからだと言ってた。
それにしても、前の世界でも同じチームだった三人でアイドルか。ユズキやオトハ、こころ先輩達と同じように魔法少女だった人達があの時のように友達で、集まって平和に生活しているのは凄い縁なのだと感じる。
だからこそ、私はそんな彼女達をあのフォールエンスから守り抜かなければならない。
そんな事を考えつつイベントの日程と集合場所を確認してスマートフォンの電源を落とすのだった。
イベント当日、セルリアンの姿へと変身した私は神永さんの送迎でノゾミさんとイベント会場へと来ていた。既に会場からは入場客と思われる人達の声で騒がしく、思わず耳を押さえそうになるが耐える。
隣では初めて会っときと同じようマスクをしてジャージを着たノゾミさんがリュックを背負って立っていた。気合いが入っているのか、彼女が少し凛々しく見える。
神永さんが心配そうな表情で「どうかお嬢をお願いします」と話しかけてきたので頷いて答えると、神永さんは車を発進させ近くの駐車場へと向かっていった。
「さて!セルリアンさん行きましょう♪イベント会場が私達を待ってます!!」
ウキウキした様子でそう語る彼女の横に並び歩く、今回は護衛だけど一般のコスプレイヤーだと思われるためにフードは浅く被っている。
「あ、良ければ入場者特典の缶バッチなんですけどぉ」
「大丈夫、私はいいから貴方にあげる」
「やった!後はランダムで三つから被らないで入っていたら完璧です!!」
嬉しそうに話すノゾミさんと共に何とかイベント会場内へと入ることが出来た。会場の警備員も私の姿をコスプレイヤーだと思ってくれているようなので、護衛は大丈夫そうだ。
「まず、何処に?」
「最初に会場のグッズ販売スペースに行きましょう!売り切れる前に限定タペストリーを手に入れるんです!この時の為に貯金をしてきたんですから!!」
「そ、そう……」
彼女の厚に若干引きながら彼女と共に会場内を移動する。どうやら、私の考えていたよりも『魔法少女マギナ』は人気だったらしい。沢山の大人や学生が闊歩する中で何とか販売スペースにたどり着いたノゾミさんは全く疲れた様子を見せずに楽しそうにイベントグッツを見聞きしている。
「ァァァ、魔法少女マギナのグッツが可愛よすぎるぅ、浄化されるぅ」
そんな風な台詞を吐きながらグッツを眺めどれを買おうかと悩む様子の彼女が少し可笑しくて声に出さずに笑っていた時だった。
「ッ!」
一瞬だか、真っ直ぐ私を見てくる視線を感じたようなが気がして振り向くが既に視線は感じなくなっていた。今の視線、確実にノゾミさんではなく私を?だとしたら何故?
「こっちも良いし、このカプも部屋に飾りたい………セルリアンさん!どっちが良いと思いますか!!」
「その、私に言われても……いっそのこと二つとも買うのは」
「わっかりましたぁ!」
そう言って悩んでいたノゾミさんは手に持っていた両方を持っている籠にいれ別の種類のグッツコーナーへと向かうのを後ろから追いかける。彼女の籠には既にぬいぐるみにタペストリー、限定ポスターに単行本と沢山のグッツが入っている。彼女の持つリュックに全て入るか不安だが、大丈夫なのだろうか。それにしても、本当にこんな数を買えるのだろうか?そんな私の疑問を覚えた。
そう言えば、前に読んだ本ではオタクの買い物は凄く長いと書いてあったけど本当にこんなに長いものなんだね。会場へと入場してから既に一時間も立っている事実に思わずスマホの時計が壊れてしまったのかと思ったぐらいだ。
「ノゾミさん、そろそろライブの時間だよ」
「もうそんな時間!?急いで買って来ますぅ~!」
ちゃんと回りにぶつからないように小走りで会計へと向かったノゾミさんを追いかける、無事会計を済ませ荷物をリュックに詰め込み万年の笑みを浮かべるノゾミさんと共にライブステージへと向かう。
「ふぅ、買った買った!あとはライブを全力で楽しむだけ。あれ?何か配ってる?入場者特典はさっき貰ったし……」
見ると、ライブステージの会場入り口にはスタッフさんが立っていて入場する人へとカードのような物を配っているのが見えた。どうやらノゾミさんもあのカードについては知らないらしく首を傾げている、取り敢えずスタッフさんからカードを受け取りつつノゾミさんとライブステージのあるスペースへと入り先に座る。
今のところは、殺気や悪意のある視線は感じないから大丈夫だろう。スマートフォンを取り出してマナーモードに設定しつつ時計を確認する。
「良い席を取れましたねセルリアンさん、真ん中でステージもモニターも見やすいです!!」
「そうだね」
ノゾミさんにそう返した時だった、ステージ上に恐らく進行を勤めるのであろう男性がマイクを握ったまま口を開いた。
『本日はお集まりの皆様、会場へとご来場の事、誠にありがとうございます。これより魔法少女マギナイベントステージを進めさせて頂きます』
みんなを笑顔にしたい。
そんな事を考えるようになったのは幼稚園に通っていた幼い頃だ。お家のテレビで見ていたアニメ、後の『魔法少女マギナ』へとつながる作品である魔法少女シリーズの一つ『魔法少女シャイン』の最終会を見ていた私は主人公の言葉に、まるで身体中が痺れるような何かを感じた。
『例え、奪われても!何度でも私が……みんなの笑顔を作るよ!みんなの笑顔は、絶対に途絶えさせない!』
ピンチの筈なのにそう笑いながら立ち上がる魔法少女シャインを見て、私も彼女の様に沢山の人を助けて笑顔にする、そんな人になりたいと考えるようになった。小学生になっても、そんな思いは変わらなかった。将来の夢はみんなを笑顔にするような存在になりたい、そんな夢を叶えられるのはアイドルだと思った。
歌と驚りで沢山の人に笑顔を作る、そんな夢を追いかけて私は二人の友達と出会った。
私と同じようにアイドルを目指し、何度もオーディションに参加し諦めずに夢を追いかけた強い心を持つ
私たちがアイドルグループ『Light Connectors』となったとき、最初から仲の良いという事はなかった。
「ねぇ、さっきから笑ってないで真剣に練習してくれない」
「なぁ、お前さっきからそんなムスッとした顔して練習していて嫌じゃねぇの?練習も楽しんでこそだろ」
「楽しんでこそ?そんな訳ないでしょ、練習は真剣にすべきよ。楽しみたいなら、アイドルじゃなくて趣味でやってなさいよ」
「ハッ!さっきからお前何様のつもりで話してんだよ?お前は一人で練習したらどうよ?オレは楽しく練習させて貰うぜ」
歌もダンスも楽しみたい、だからこそ練習も楽しんでやってこそだと主張するリオンちゃんに対して、練習は真剣にやるべきだと主張するアサヒちゃん、そんな二人に挟まれた私は何も言えず、その光景を見ていることしか出来なかった。
アサヒちゃんはずっとアイドルに成りたくて、でもずっと成れないでいた。何回もオーディションを受けて漸く受かって掴みかけたそのチャンスをきっと無駄にしたくない、そんな気持ちの他にもリオンちゃんへの嫉妬もあったんだと思う。だってリオンちゃんは、一回のオーディションで受かった私たちが嫌だったのかもしれない。
そんな私たちはぶつかり合って友達になった、それはみんなが共通して浮かべていたアイドルを通して『夢を叶える』事を目標に私たちは一つとなり仲間になった。
『本日はお集まりの皆様、会場へとご来場の事、誠にありがとうございます。』
ステージ裏から見える会場には沢山の人がいて、司会進行の人の声が聞こえず、心臓の音が聞こえるほどに緊張していた私は衣装の上からそっと胸を押さえる。
私はピンクと白を基準としていてリオンちゃんは黄色と赤、アサヒちゃんは水色と青を基準としたまるでアニメの魔法少女のような可愛い衣装を身に纏っていてる。
私にとってこの大きなイベントライブは恩返しのような物だ。魔法少女シリーズと言われる作品である魔法少女シャインのお陰で私はここまで来れた、アイドルになれた。
「お?ミク、もしかして緊張してんのかァ?」
いつもの調子で私の肩に顎を乗せて笑顔で話すリオンちゃんが少しだけ頼もしく感じる。
「う、うん。少しね……」
「もっと肩の力抜けよ、そんなガチガチな状態じゃ歌えねぇし踊れねぇだろ?」
「アンタは肩の力抜きすぎなのよ、もう。」
私の肩から離れたリオンちゃんに対して軽い溜め息を着きながらもしょうがないなぁとばかりに話す柔らかい笑顔で微笑むアサヒちゃん、いつもと変わらない二人に私は思わず笑顔になった。
「ありがとう二人とも、緊張が少し消えたよ!それにしても、あんなにぶつかり合ってた二人と一緒にこんなに大きなイベントに関われるなんて嬉しいよね」
「うぇ……あの時の話は止めてくれって、今でも悪いとは思ってるし」
「軽い黒歴史ね、まぁ仮にもっと有名になったら後にドキュメンタリー番組で絶対に使われるような喧嘩と仲直りした訳だし……ってこれ初めてのライブの時もしてたわね」
そう言ってまた3人で笑っているとイベントが進み私達の出番がやってきた。
「いくよ、二人とも」
そう言って私が手を差し出すと二人が私の手の上にそれぞれの手を重ねる。いつものライブ前に気合いを入れる為に考えた言葉を私は口にする。
「Light Connectors!コネクトォ……」
「「「ゴーッ!」」」
声と共に三人で手を上へと掲げる、三人で繋がり夢へと走る。そんな思いを込めたこの合図は、こうしたイベントやライブの前に行う大切な物だ。進行の人が私達の事を呼ぶ声を聞いた私たちはマイクを持ちステージへと飛び出したのだった。
劇場版の魔法少女マギナの主題歌を歌う『Light Connectors』の三人は、私の見てきた苦しそうながらも頼もしさを感じるあの笑顔ではなく、会場の人たちを笑顔にする、心の底から楽しそうに笑う、普通の女の子としての笑顔だった。
彼女達の歌声に、私は心の中にあった不安の感情が安堵へと変わっていくのを感じた。オトハとユズキの様に私が平和な世界を願ったせいで、魔法少女だったみんなが不幸な道を辿ってしまったんじゃないかって、ずっと考えていた。
「いやぁ、凄いですねLight Connectors。あんな綺麗で可愛いのに歌唱力も凄くて、同じ中学生に見えないですよ。ね、セルリアンさん!……セルリアンさん?」
でも……この人たちは大丈夫だ。
そう感じた瞬間、私の頬を涙が伝った。
安心した、この人たちはこの世界で自分達の好きなことをして笑い会えるような普通の日常を過ごす事が出来てるんだと分かって、少しだけ心が軽くなった気がした。
「ちょっ!セルリアンさん!?まさか主題歌に感動して……」
「うん、そうだね。本当に、良い歌だね」
慌てたようすで私を見つめる彼女に私は目に貯まった涙を指で拭ってから、ステージの上で踊る彼女達を見つめる。やがて、彼女達が歌い終わりイベントはトークショーへと移っていった。
魔法少女マギナ劇場版の主題歌に込めた思いと歌詞への感想、魔法少女マギナ等歴代魔法少女シリーズについて、何故アイドルになったのかと話していった。ノゾミさんは先ほどのライブの余韻が残っているのか、何処かそわそわとしていながらステージの会話に耳を傾けている。
もしかして、さっきLight Connectorsの歌っていた主題歌のCDを買おうとしてる?さっき結構なお金使ってたけどまだ買うの?
ステージでの会話では様々な事を知ることが出来た、あとミクさんがアイドルになった理由はやっぱり誰かを笑顔にしたいという思いだった事が、少し予想通りで笑ってしまった。
本当に、あの人らしい素敵な理由だと思う。
そんな会話が続くなか、司会の人とミクさん達が立ち上がった。恐らくイベントの締めの挨拶だろう。事前に確認していた予定には少しだけ早いような?
「えー、会場の皆さんに『Light Connectors』の三人からなんと……サプライズプレゼントが!あるそうで」
司会の人の言葉に会場の人達から驚きと嬉しさの混じったような声が溢れる。するとミクさん達がマイクを持って口を開いた。
「皆さん、ライブスペースへと入ったとき貰ったカードは持ってますか?実はカードにはいろんな数字が書いてあります!」
「そのカードに描かれた番号と、今この箱から引いたクジと同じ番号の人には……」
「なんとオレたち『Light Connectors』のサイン入りジャケットが入ったCDをプレゼントだ!ミク、アサヒ、オレの個人サイン三枚!そして最後の一枚はオレたち三人のサインが入った特別なジャケットだぜ!」
リオンさんの言葉に会場の人達が一斉に自分の持つカードの番号を確認し始めた。私もポケットにいれていたカードの存在を確認してすぐに視線を戻す。
まぁ、流石にこんなレアなの当たるわけないかな。そう思いながら横目でノゾミさんを見ると、カードを額に当てて両手で祈るように持っていた。
必死だなぁ……
「まずはオレからな!よっと……207番だな!」
見ると番号の人がステージにあげられて、笑顔のリオンさんからCDを受け取って一言二言話してからステージを降りていた。これ、イベント終わった後に貰った人が襲われたり、脅されたりしないのかな。
前の世界でこういう凄いもの、魔法少女に関する研究資料とかは襲撃されて盗まれる可能性があるから、毎回護衛をしなければならなかった。あの人、大丈夫かな?
そんな不安を他所に順番が進んでいき最後の三人のサインが入ったCDの番号が発表される番になった。チラリと隣を見ればノゾミさんが何処か諦めたようなスンとした様子でカードをずっと見つめている。魔法少女の寮でチラリと見たカードゲームをしてて負けそうになっていた時に使えないカードを引いていたあの子に似てる。
「最後は、555番だよ!」
「私達三人のサインが入った特別なジャケットを手にしたのは誰かしら?」
「ほらほろ手を挙げろー?」
マイクを握った彼女達の声に会場の人たちで手を上げる人はおらずキョロキョロと周りを探している。まさかだよね?そう思いながらポケットにいれていたカードの番号を確認する。
「………」
そこにはしっかりと555の番号が描かれていた。
今回、私はノゾミさんの護衛としてここに来ている。少しでも彼女の側を離れるのはまずい、離れている間に何かあったらいけないし、申し訳ないけど今回は静観するしか……。
「あ、セルリアンさん当たってますよ!?手を上げないと!ほら!!」
そう思っていると、ノゾミさんが私の手を掴んで上に上げた。
「ノゾミさん!?」
驚いて戸惑う私を差し置き、ノゾミさんに背を押されて私は係の人の誘導に従ってステージへと上がる。今の私は魔法少女の姿で黒を基準としたドレスの上から膝くらいまである青いロングコートを着ていたからか、流石に係の人も変な人を見る目だったような気がする。
「そんじゃ、オレたち三人のサインを手に入れることが出来たお前の名前を教えてくれ!」
「ジャケットに宛名として記入します、もし名前ではなくともニックネームはネットネームでも構いませんよ」
ペンを持ったミクさんを他所に私へと話しかけてきたリオンさんとアサヒさん。とりあえず、本名ではなくセルリアンにしておこう。ここに上がってしまった以上、早めに終わらせてノゾミさんの護衛に戻らないと。
「セルリアンで、お願いします」
「セルリアンですね!ちょっと待ってください………出来た!!」
そう言いながらミクさんが私へとCDを差し出してきた。CDジャケットには魔法少女マギナらしき少女のイラストが描かれていて、イラストの上側にはミクさんの丸い感じの文字でセルリアンさんへ、そしてジャケットのイラストの邪魔にならない三ヶ所にミクさん、リオンさん、アサヒさんのサインが描かれている。
「ありがとう、ございます……ずっと大切にします」
私は代表としてミクさんが差し出したCDを受け取り抱くよう持つ。
「それでは、『Light Connectors』の三人に何か一言お願いできますか?」
すると司会の人がそう言ってマイクを渡してきた。沢山の人に見られていると考えて少し緊張しながらもマイクを受け取り、ミクさん達へと向き直る。
「とても素敵な歌声だった。皆さんのこれからの活躍をずっと、応援してます。これからも、沢山の人を笑顔にしてください」
「オーライ!頑張るから、これからも応援してね!」
そう笑顔で返すミクさんに当たり前だという感じで頷くアサヒさんと笑うリオンさんに軽く頭を下げて係の人の誘導に従って観客席へと戻る。会場の至るところから嫉妬や羨望の眼差しを感じるが、接触してこない限りは気にしなくても良いだろう。
「凄いですよセルリアンさん!!全員のサイン入りCDだなんて!」
「そう、だね」
無事合流したノゾミさんは興奮した様子でそう話しかけてきた。私は笑いながらそう返して貰ったCDを大切にバックへとしまった。イベントは無事終わり、ノゾミさんを神永さんの元へ送り届け護衛という依頼を達成することが出来た。貰ったCDは百円ショップで購入した小さなイーゼルのような台に飾って、部屋の机の上に置いている。
私は、みんなの希望と夢を守るために戦う。例えこの体が傷付くのだとしても、私は魔法少女セルリアンとして戦い続けないといけない、何がなんでも絶対に守らなければならない、父さんや母さんにコハル、ミクさん達やオトハとユズキ、こころ先輩達が笑って普通に過ごすことの出来るこの平和な世界を。
改めて覚悟を決めた私は、明日からの学校に備えベッドへと入り眠りに就いた。
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