番外編:20XX年、救われた世界の裏側で
ビルが所々抉れ、地面には割れた硝子やコンクリートの破片が錯乱した場所で一人の少女がその手に持った剣で異形の存在へ斬りかかる。
目の前のイノシシのような姿を持つビーストを切り捨て魔力を吸収する。自分の魔力が更に大きくなった事を感じながら、荒れた道路を走る。
「あ"あ"ぁァッ!」
呪いの剣を振り抜いて、災厄が溢れる。
私の魔法は他者を害することに特化している。
他者を強制的に従属し支配して操る魔法、そして他の存在から力を剥奪する魔法。
あの子は「つまり相手をスタンさせたりデバフをかけたりする他に相手を思いどおりに動かせるってこと?何そのそのチート……」と話していた。
「
発音と共に剣を向けて、石塊を支配して投擲、人の頭ほどもある鈍いコンクリートが射出され虫型ビーストを粉砕する。
グシャリという音と共に悲鳴も残さずに潰されたカマキリのようなビーストの腹を裂いて以前に報告があった針金虫型のビーストが出てくる前にそちらも丹念にすりつぶす、寄生型は厄介だ。それに他のビーストよりも得られる魔力量少ない。
「ギシャァァァァッ!」
「
飛びかかってくる鳥型のビーストを空中に静止させ、地面に散ったガラス片をインペリウムで支配してビーストに向けて発射する。ビーストの全身に鋭いガラス片が突き刺さり鳥型は消沈して落下する。
まだ、あと少し足りない。
でも、私はこんな魔法なんて欲しくなかった。
魔法が選べるのなら、こんな相手を命令したり操る魔法よりも……誰かの傷を治したり、どんな病気でも治せるような……治せる薬を作れるような、そんな魔法が欲しかった。
息を整えずにひたすら走りながら近くのビーストを探す。小型でも中型でもいい、魔力を吸収出来るのなら。
走りながら見つけた狼のような姿のビーストに対して持っていた黒い刀身を持つ片手剣、エフフォーリアを突き刺す。
魔力が吸収された感覚から、あと少しで魔力が極限まで高められる感じがした。
あと少し、あと少しで私の願いを叶えられる。
心臓が早く鼓動する、緊張と期待。疲労感から重くなる足をひたすら動かして走り続ける、少し先に先程と同じイノシシのような姿を持つビーストがいたのが見えた。それも、私に対して尻を向けている。
これなら、後ろから刺し殺せば!
あと少し、あと少しであの子を助ける事が出来る。エフフォーリアを構えてビーストへと突進する。
そして、刀身がビーストへと突き刺さろうとしたときだった。突如としてビーストが最初からその場にいなかったかのように消え、エフフォーリアが宙を切った。
「え……」
もしかして、情報にあった幻覚を見せるビースト!?
急いで回りを警戒してエフフォーリアを構えた、その時だった。
『い、いま』
片耳につけていた通信機からオペレーターの震えた声が聞こえた。
『最前線の魔法少女からの報告で、セルリアンによりシンが討伐しました!!』
私の手からこぼれ落ち、エフフォーリアがカランカランと音を立てて地面を転がる。
シンが、討伐された?
『次々とビーストが消滅していきます!!』
体から力が抜け、地面に膝をつく。
「嘘だ、嘘だ………そんな───」
それじゃあ、私はあの子を助けられない?
目の前が真っ暗になっていく、シンが討伐された。それが意味するのは世界を自分の望む理想の世界へと作り変える魔法が、使えない?
片耳から聞こえてくる勝利を喜ぶ声が、まるで遠くから聞こえるような気がした。
光が生まれ、そこにある限り影は生まれる。
光がより輝けば、闇もまた深く暗くなっていく。
国が繁栄し輝かしい希望ある未来が生まれた裏では、衰退し真っ黒な絶望に打ちひしがれるだけの結末が訪れる国がある。
石油が資源として脚光を浴び、その代償に地球温暖化が起こったように、石像を運ぶ為に森を切り崩した様に、僅かな温もりと光のために薪が燃えていく様に。
何かを得るには、何かを失わなければならない。
等価交換と呼ばれるそれは、どの世界でも共通の原理であり、真理であり現実だ。
優しい人がいる、人を騙し富を得ようとする人がいる。
平和な国がある、紛争が絶えない国がある。
沢山の食料や資源がある豊かな国があれば、貧困し今日食べるものに困る国がある。
そう、病気もそうだ。
救われた人がいる影で、間に合わず亡くなっていた人達がいる。
私の妹は、不治の病に犯された。
毎日寝たきりの、私にとっての大切な家族。
彼女を治して、そう医者にすがり付いても彼らは誰もが口を揃えて不可能だと告げる。そんな時だった、あの事件が起きたのは。
魔法少女事件、魔法少女になった少女には世界を自分の望むがままに作り替える権利を手にする事の出来る、私にとって妹の病を治せるかもしれないと言う一筋の可能性の
私は妹が不治の病に侵されなかった世界を叶えるため、必死に頑張った。訓練も必死にして、ビーストとの戦いも全力で頑張った。
すべては、妹のために。
そんな私にとっての希望を、目の前で失なった。
あれから年を重ねるにつれて元気が無くなっていく妹を見ていると、私は大きな無力感と絶望が襲われる。
そしてそんな無力感と絶望は、やがて大きな怒りへと変わっていく。
セルリアン、アイツさえいなければ私が願いを叶えられた……アイツのせいで妹は、今も不治の病に侵されている。
アイツが、アイツが妹の未来を奪った。
テレビを見る度にうんざりする、世間はアイツを英雄と報道する。
私は、アイツに家族の未来を奪われた。セルリアンが憎い、でもアイツはシンとの戦いで死んだ。復讐しようにも、相手が既に死んでいるのでは何も出来ない。
そんな時だった、ある日、妹のお見舞いに行った帰り道に奴がいた。
真っ暗な通路に配置された電灯の光で照らされた不気味な仮面を身につけ黒いタキシードを纏い白い手袋を嵌めた男が。奴は私を目にするなりその口を三日月のようにして笑い口を開いた。
「セルリアンに、復讐がしたいか?」
「ッ!?」
目の前に、アイツが現れた。
死んだ筈の、聞き間違える筈のない声で話す奴はいた。
ソイツはこの国にとっての最悪の二年間を作り出した大罪人で、私にとっての妹を救う唯一の希望をくれた人。
「セルリアンは生きている、奴を殺せばお前は世界を己の自由に作り替える権利を手にすることが出来るだろう」
アイツの言葉に思わず目を見開く、セルリアンが生きている、セルリアンを殺せば私は世界を作り替える魔法を使える。
「どうした、救いたいのだろう?最愛の妹を」
奴のその言葉が私にとっては天使の囁きにも、悪魔の囁きにも聞こえた。
「私の言う通りに動くならば、セルリアンへの復讐を手伝ってやろう」
そう言って奴は私へと手を差し出してきた。
「さぁ、私の手を取るか。それとも妹を見殺しにするか、選びたまえ」
私は、奴の伸ばしたその手を掴んだ。
すると奴は嗤いながら私の瞳を見つめる、狂ったような濁ったようなその目で。
「なら、君にはこの世界の魔法少女に関する情報を盗んできてもらおうか」
そう言いながら奴は懐に手をいれると私にとって見覚えのある物を取り出し、先程まで奴の手を掴んでいた私の掌へと手渡す。渡された物の感触には、覚えがあった。
手の中には、一つのネックレスがあった。飾りとしてチェーンの先には、黒い刀身の見覚えのある片手剣のような飾りがついている。
「さぁ、復讐をはじめよう」
絶対にセルリアンを殺して、魔力を奪う。そして、妹が不治の病に侵されなかった世界を創造してやる。
そう楽しそうに嗤うアイツの言葉に私はゆっくりと頷いた。
『第2章、挫けぬ心をREMEMBER』Fin.
Next Episode,Unlock.
『第3章、記憶を巡ってEVOLUTION』Start.
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