驚きの真実
休日、私は家で机に向かっていた。ちなみに父さんは編集者さんの元へ打ち合わせに向かい、お母さんは買い物へと出掛けている。妹は今日は友人を家に呼んで遊ぶらしく、自分の部屋を軽く掃除している。
いつまた怪物が現れるのか分からないため、何時でも迎撃に当たれるように備えておく。ちなみに課題は早めに終わらせてある。その方が後から焦ったりお母さんの手伝いが出来なかったりといった事が無くて済むからだ。
ノートの表紙には『記録』と描かれている。
私は日記の一番後ろのページから書いていた内容を軽く確認する。結構なページとなったが最初のページから数枚は見られても良いように普通に日記を書いている。
「これで、大丈夫」
机の引き出しの奥へとノートをしまう、ふと本棚の中に作ったメリアの生活スペースを見る。本の並ぶ中、本が倒れないよう100円ショップで買ったブックスタンドで止めてある横。そこには、人形用の木のベッドが置かれており、メリアは掛け布団の上にうつ伏せに横になっていた。
ちなみに掛け布団と敷き布団、枕は百円ショップの布や綿を使って私が作ったものだ。小学校の頃に買った裁縫セットの余っていた糸を使っている、この裁縫技術は魔法少女になり軍の寮へと所属した際にお世話になった先輩、黒髪のおさげを左右に結んだ髪型の女性、
小暮さんは実家が旅館で、幼い頃から家の仕事を継ぐためこういった家事をこなしていたらしく寮母のような役割を任されていた。家を飛び出すような形となってしまった当時の私は裁縫技術や料理、洗濯の方法も小学校で教わった程度の知識しかなく、家事のほとんどが彼女から教わったものになる。
小暮さんは、この平和な世界で女将へとなるために実家の旅館を手伝っているのだろう。あの人の雰囲気は何処か人を安心させるものがある、きっといい女将になれるだろう。
あって感謝を伝えたいけど、この世界の彼女は私のことを知らない。いつか一目でも良いから、見られたら良いな。
そう思いながら窓から外を眺める、綺麗な青空の下で私の家の方へと歩いてくる4人の少女達が見えた。恐らく、彼女達がコハルの友達なのだろう。
遠目で見た限り、ウィザーズのコハル以外のメンバーの容姿に似ている。恐らく彼女達がウィザーズのメンバーなのだろう、取り敢えず彼女達との接触を最低限にしてメリアを見られないようにしないと。
でも、家にいるのは私とコハルだけだし挨拶するくらいはした方が良いかな。自分の部屋を出て向かいにある妹の部屋の戸をノックする。
「コハル、窓からコハルの言っていた友達らしい人達が見えたよ」
「いま見たー!ごめん、後少しで片付くからお姉ちゃんみんなを私の部屋に案内してちょうだーい!」
すると、片付けながらなのか物音をたてながら妹の返事が聞こえてきた。どうやら片付けが後少しのところで友人が到着して少し焦っているみたい。
「わかったよ」
返事をしてから階段を下りていると、玄関のインターホンが鳴ったので少し早歩きで玄関に向かいサンダルを履いて玄関の扉を開ける。
そこには先程窓から見た四人の少女がいて何故か目を見開いていた。
………バレ、てはない?よね?一応、戦う際は常にフードを被ってたし外れないようにしてたけど。
「えっと、コハルのお友達?」
「えぇ、そうです。本日はコハルさんにお呼ばれしまして」
そう聞くとストレートヘアーの少女がそう返事してくれた。取り敢えずバレた様子は無さそうなので普通に対応する。
「そう、いらっしゃい」
笑顔を浮かべながら階段の方へと誘導しようと思い家の中に入るよう促すと三人はお邪魔しますと軽く頭を下げる。でも、一人だけ茶髪ボブヘアーで桜の髪止めを前髪に着けている少女が私をじっと見つめてきていた。
「セルリアン、さん?」
彼女の言葉が、静かな玄関に木霊する。
バレ、た?何故……確かこの子は炎を出す魔法を使っていた子か?だとしたら前の黒い鎧を纏った男と戦った際に彼女を他の少女達の元へと運んだ時か?あの時彼女は気絶していた様に見えたが、もしや意識があって私の顔を見たのか?
「えっと?………」
取り敢えず惚けて様子を見ようと思った次の瞬間だった。
「もごぉ!?」
黒髪ショートヘアーの女の子が茶髪のボブヘアーで桜の髪止めを前髪に着けているヒヨリと呼ばれていた少女の口を両手で塞いだ。
「アハハハッ!何を言ってるのかなぁ!ヒヨリってば!ごめんなさいねコハルのお姉さん!ヒヨリってばさっきから寝惚けててね!!」
そういいながら先程の彼女の発言を誤魔化す様に笑いながらこちらを見る。
「おほほほ、さっき起きたばっかりですから寝惚けるのも仕方ありませんわね!!たまには早起きしないとですよヒヨリさん?!?!」
「モゴォ!?モゴモゴぉ!」
「えっと、コハルちゃんのお姉さん。コハルちゃんは?」
本当に「おほほほ」って笑う人、前の世界で何人いたっけ?そんな事を考えながら、取り敢えずさっきのあの子の言い方は疑問系だったから完全に私がセルリアンだとバレた感じでは無い、のか?
正直、私がセルリアンと明かす事は妹達にはしたくない。
彼女達は恐らく敵の事をテレビや漫画のように、倒すと考えているのだろう……殺すではなく。彼女達はまだ子供だ、私よりも幼い彼女達には殺すと言う意味が考えから外れている。倒すも殺すも、結局は同じ意味だと彼女達は気付く事が出来ていないだろう。
「えっと、コハルは二階の部屋でみんなを待ってるよ。案内するから、着いて来てね」
それを彼女達に追求したら……彼女達は戦うことを止めてくれるのだろうか。そんな考えを脳の隅に置きながら、話を逸らす意味でも私はそう口を開いた。
「ありがとうございます」
「あの、マナミさんそろそろ離さないとヒヨリさんが」
「あぁ!ごめんまだ塞いだままだったねヒヨリ」
「ぷっはッ!ふぅ、苦しかったよマナミちゃん!」
「あはは、ごめんごめん!」
どうにか、誤魔化せたようだ。
両手を合わせて笑いながら謝るショートヘアのマナミと呼ばれた子を許すヒヨリちゃんに思わずそれでいいのか?結構苦しそうだったけど?と、そんな事を思いながら私はハーフアップヘアの女の子の問いに答えてみんなを家の中に入れ先導して二階へと向かう階段を上がる。
コハルの部屋の前にみんなが離れず着いてきた事を確認して扉をノックする。
「コハル、お友達を案内してきたよ」
ノックしながらそう言うと、すぐにガチャリと扉が開きコハルが出てきた。
「ありがとうお姉ちゃん!みんないらっしゃーい!」
「お邪魔してます、コハルちゃん」
そういいながらみんながコハルの部屋に入っていくのを見送り扉がしまったのを確認して肩の力を抜く。
「ふぅ、取り敢えずバレてはないといいんだけど。」
そう呟きながら階段を下りる、取り敢えず何かジュースでも出した方がいいかな?おやつは何かあったっけ?
そんな事を思いながら私は台所へと向かった。
コハルの部屋では、ユリエが先程のヒヨリの発言をコハルに説明して話し合っていた。
「ェエエエエエエエ!お姉ちゃんにセルリアンって言っちゃったの!?」
「う、うん……」
見知らぬ間に自身がウィザーズであることを姉にバレそうになっていたコハルが驚きの声をあげながらヒヨリの方を見る。
「全く、私とマナミさんがフォローしなければ私たちがウィザーズと言うことを一般人のお姉さんにバレてしまうところでしたわ」
「ほんとほんと」
申し訳なさそうに縮こまるヒヨリを他所にコユキが口を開いた。
「一応、お姉さんの反応を見た感じだとセルリアンと言う言葉に戸惑っていたので違うと思うんですけど」
そう話す彼女の言葉にはその場にいた四人が安心した様子でため息を着いていた。
「それにしても、何でお姉ちゃんをセルリアンと間違えたの?」
コハルの問いにヒヨリは首をかしげながら、ゆっくりと考えながら話し出す。
「えっと、なんでだろ……前に私、セルリアンさんに助けて貰った事があったよね?あの黒い騎士の人と戦っていた時」
そう言うヒヨリの言葉に四人は、セルリアンが黒い騎士を攻撃してからヒヨリを自分達の元へと運んできた事を思い出す。
「なんだろ、あの時にぼんやりと見えた顔と雰囲気?が似てる気がして」
今までの素っ気ない態度からは想像できない、傷付けないように優しく地面に下ろされる。安心させるように笑っていた口許が、さっき出迎えてくれたコハルのお姉さんと重なって見えた。
「それで、思わず呼んでしまったと?」
「うん……」
「いやいや、お姉ちゃんはそんな戦いとか出来ないよきっと」
「そうなんですの?」
「部活動はしてないし、趣味も読書だよ?セルリアンさんみたいには動けないよきっと。」
「へぇ、コユキと仲良くなれそう」
「いやいや!私の読むジャンルとは違うジャンルを好んでるかも知れませんし!そんなの無理ですって!」
そう言って両手を振って否定するコユキを見つつ、雑談しているとヒヨリは背負っていたリュックのジッパーから二つの紙を取り出した。
「そう言えば、フェイちゃんがこれをユリエちゃんとマナミちゃんにって」
「なにそれ?」
「手紙?」
二人が受け取った折り畳まれた紙には、学校が終わった後の放課後に行う特訓の内容が描かれており、びっしりと詰められた練習メニューに頬がヒクヒクと引きつる。
「二人の特訓メニュー表だよ、ドーラちゃんディー姉さん、フィーちゃんがみんなで相談して作ったんだって!」
頬がひきつる二人の様子にコユキとコハルがそれぞれの手紙の内容を覗き見る。そして見なかったことにしようとばかりにそっと目を逸らした。
「ランニングから神社の階段上り下り、イメージトレーニングに瞑想……うへぇ」
「は、ハードですわね……」
スタミナを育てるランニングに浅桜神社の階段の上り下り、ウィッチクラフトや魔力の使い方を更に学ぶための瞑想。学校が終わった後の放課後から家に帰るであろう5時、6時までびっしりと詰められた練習メニューに弱音を漏らす二人。
「えっと、そうかな?慣れちゃったから、あんまりそう感じないけど」
「へ?」
その場にいた四人の声から間抜けた声が漏れる、一方でそういったヒヨリは首をかしげながら「どうしたの皆?」と四人が声を出すのを待つ。やがて最初に口を開いたのはユリエだった。
「えっと、慣れたって言いましたのヒヨリさん?」
「え?うん」
「あ、アハハ~♪︎ヒヨリったら冗談は止めてよ、マジで、お願いだから」
「えっとその……本当、だよ?」
マナミの必死の問いかけに無慈悲な現実を突きつけるヒヨリ、そんな彼女の様子にコユキは顔を引きつらせながら口を開いた。
「あの、もしかしてヒヨリさん……黒い騎士との戦い以前からこのメニューをこなしていたと?」
「う、うん」
そんな彼女の言葉にその場にいた全員がヒヨリを見つめる。
「そう言えば今日の体育の授業でサッカーをしたとき、ヒヨリさんは最後まで走り回ってましたわね……」
「そう言えば前に先生の手伝いって言ってて段ボール二箱運んできたよね……後から中身見たらぎっしり本入ってた」
彼女の最近の変化にこのメニューをこなしていたからなのかと知り何処か疲れた様子でそう話すマナミとユリエ。
「あと、この手紙が渡されたって事は私みたいに二人もディー姉さんとフィーちゃんの真の力を引き出せるようになったからだと思う。だから一緒に特訓がんばろ!」
「真の?」
「ちから?」
真の力を引き出す、その言葉に深く考え込むユリエと今だに練習メニューを見て顔を引きつらせるマナミを鼓舞するヒヨリ。
「強化フラグって奴ですかねー」
「いいなー二人ともー特別だねー」
「声に感情が込もってませんわよコハルさんにコユキさん!?」
「いやー、追加戦士枠の私達ってそう言うの、ないですからー!」
「ねー!」
見ただけでキツいと感じるメニューをこなさなくても良いと知ったコユキとコハルは仲良さそうに手を合わせてから三人の方を向く。
「ぐぬぬぬ、貴方達ィ……」
ふるふると肩を震わせながら手に持ったメニュー表をくしゃりと握り締めるユリエ。
こうしてウィザーズ・スカーレット、ロゼ、エアリアルの三人はそれぞれの妖精の真の力を引き出す為の特訓をすることが確定したのである。
「はぁ、でもこうしないとこれからの戦いは切り抜けられませんわね。がんばりますわ」
「アハハ、取り敢えず遊びません?とにかくイマハアソビタイナァ……」
その後、普通に携帯ゲームをして遊ぶ五人であったが、おやつとしてパンケーキを焼きオレンジジュースと共に出してきたコハルの姉であるソラに五人が喜びの声をあげる。こうして特訓前の最後とも言える普通の女の子の休みを満喫したウィザーズであった。
そして彼女達から最初に話していたソラのセルリアン疑惑は完全に忘れ去られたのである。
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