思い出の旋律
学校での授業が全て終わった放課後、私は教材の入ったリュックを背負い玄関へと向かっていた。
今日の授業では課題が出なかったのでゆっくりと過ごすことが出来そうだ、それにお母さんの家事も沢山手伝える。
そう思いながら廊下を歩いていると、ギターを弾く音が聞こえてふと音が聞こえる方へと向かう。
ギターと言えば彼女の事を思い出す。最後の戦いの前に敵魔法少女の襲撃を受け、片腕の切断を余儀なくされてしまった、ギターを弾くことが大好きなあの人のことを。たまに寮で聞こえてくる彼女のギターの音色は何処か心地よく、敵魔法少女と交戦した後の荒んだ心を癒してくれた。
あの人が弾いてくれたギターと似てる、優しくてゆったりとしたメロディーでオリジナルの曲だと話していた。確か、曲名は……『
音の発信源は音楽室のようだ、音楽室の入り口から音楽室内を覗く。
「ッあ……」
そこには、楽しそうにギターを弾く暗めの茶髪をポニーテールに纏めた少女、
ギターを弾く彼女を見ていると、目が熱くなるのを感じる。彼女の弾くギターを聞くために話しかけたのが私と彼女の関係の始まりだった。今でも思い出せる、彼女の片腕が無くなったのを目にした日を。
何でも捕縛しようとした敵魔法少女を襲おうとしたビーストから敵魔法少女を庇ってビーストに片腕を使い物にならなくされ、敵であった魔法少女の子の肩を借りて基地へと帰ってきた。
『ごめんよソラ……もうギター、弾けなくなっちゃったよ』
悲しそうに、申し訳なさそうに笑い掛ける彼女に私は何も言うことが出来なかった。
本当に、ギターから流れるメロディーのように優しい人だった。
……指で両目を擦り水分を拭う。
目の前にいる彼女は私の事を知らないし、いきなりギターを聞かせて欲しいと頼むのも可笑しいだろう。音楽室から聞こえるギターの音色を背にして私は歩き出した。
どうか彼女が今後も楽しんで、あの優しいギターの音色を弾き続ける事を祈って。
「───♪………ん?」
演奏する手を止めて教室の入り口を確認する。
「あれ?確かに気配がした気がしたんだけど……」
自分しかいない音楽室で私以外の気配を感じた、でも教室の入り口には誰もいない。教室を出て廊下を見渡す、少し先を中等部の制服を来た少女が歩いているのが見えた。
もしかしたら、そう思いながら彼女を追いかけて彼女の肩に触れる。
「ちょっといいかな?後輩」
「は、い?」
彼女は綺麗な黒髪ストレートヘアの大人しめな子だった。後輩は驚いた様子で返事を返す、見れば僅かだけど彼女の睫毛の端に小さな水滴が付いている。
まさか、私のギターを聞いて泣いちゃったとか?そんな都合の良いことあり得ない、それこそテレビみたいなフィクションじゃない限り……取り敢えず、聞いてみるか。
「あー、さっき音楽室で私のギター聞いてたのって後輩?」
「……はい。もしかして、邪魔をしてしまいましたか?」
凄く余所余所しい、初対面だから当たり前か。でも変だ、彼女の話し方からは少しだけ違和感を感じる。まるで、本来の話し方を止めて猫を被っている………いや違う、話さないよう相手を遠ざけているような、とにかくこの後輩と私の間に透明な壁があるのを感じた。
「いやいや、そんな事はないさ。」
ちょっとカマかけてみるか、私の演奏で泣いたかどうか。
もし彼女が別の理由や欠伸で泣いていたのなら、私はキザで変な先輩と思われるだろうけどね。
「私の演奏で感動して泣いてくれる様な子は、むしろ歓迎したいな?」
そう話すと一瞬だが、後輩の目が見開かれたのが見えた。
「図星かな、後輩?」
「なん、で………」
後輩の驚いた表情を見るに、さっきの考えは当たりかな?
「ふふふ、私は勘が良くてね。良ければ今からでも音楽室にどうだい?君さえ良ければもっと聞かせてあげるよ?」
私の音楽は誰からも習わず独学で磨いてきた中等部からの趣味だ。あの時から比べると、少しは人に聞かせられるレベルになったと思っていたけど、まさか聞いて感動して泣いちゃうような子が出てくるとは……とても嬉しいな。
「………お願いします」
「ふふ、じゃあ音楽室へ行こうか?」
彼女の手を取って音楽室へと向かう、心臓が跳ねて、早歩きで音楽室への廊下を歩く。
早足になっている理由は、自分でも分かる。
私はこの子に早く聞かせてあげたい、聞いて欲しいんだ。私の音楽を……私だけの歌を。
音楽室の扉を開いて私が座っていた椅子の近くに、他の机の椅子を置く。
「さぁ、ここに座って」
「失礼、します」
彼女が椅子に座ったのを確認して私も先程まで座っていた椅子に腰かけて足を組んで机の上に置いていたギターを足の上に置く。ギターのくぼみ部分を太股の付け根で支え、肘と脇腹でギターを押さえる。チューニングは既に終わっているから、後は弾くだけだ。
チラリと後輩を見れば、何処か落ち着かない様子で周りをキョロキョロと見回していた。
「ふふ、お待たせ。今だけこの歌は、君に捧げようかな。私のファン一号?」
そう言いながら私は軽くギターを弾く、すると後輩は先程までの落ち着かない様子は何処へ行ったのか、黙ってコクりと頷くと私の方へと視線を向け直す。
「歌詞やメロディーには自信があるんだ。さて、ご清聴あれ」
そう言いながら私はギターをゆっくりとしたペースで弾きながら歌う。歌は友人とカラオケに行く際に毎度のように85点以上の採点を出せているから問題ないと思う。
初めて、目の前に人がいる中での演奏に心臓がいつもより速く鼓動する。でも腕やギターを押さえる手は強ばるどころか、いつものように弾くことも出来て、歌も歌えている。
これは、一時期に歴史の授業で戦争を経験した人物のドキュメンタリー番組を見て影響されて考えた平和な未来を願って作った歌詞。激しい曲調でも無くスピーディーなペースじゃない、穏やかな曲調でゆっくりとした曲だ。
いつの間にか、私は後輩の様子を観察するのを忘れて瞼を閉じ眼を瞑って歌い続けていた。最後の歌詞を歌い、ギターを弾いてからゆっくりと1度深呼吸してから瞼を開く。
「ふぅ、どうかな後輩。曲名は、まだ決まってないんだけ、ど!?」
後輩の方を見ると、後輩は黙ってこちらを見つめたままその瞳から大粒の涙を流していた。彼女の涙が頬を伝い、彼女の手の上に落ちる。
「だ、大丈夫かい?後輩、良ければハンカチを使ってくれ」
「ありがとう、ございます」
そう言いながら彼女は私から受け取ったハンカチで両目と頬の涙を拭う、もう涙は流れていないみたいだけど、そんなに私の歌に感動したのだろうか?
そうなら、私は凄く嬉しいけど。さすがに泣いているのを見るとこうなった理由が何処かにあるんじゃないかと、自分の歌の歌詞を思い浮かべるが心当たりがありすぎる。
「先輩、あの……ハンカチ洗って返します。なので先輩の名前を、教えてください」
「気にしなくても良いんだけどね……そう言えば、お互いにまだ名乗って無かったね。私は。高等部の2年B組の
「はい、よろしくお願いします。先輩………その」
ふと後輩が口籠った事に首をかしげると、後輩は何処か意を決した様子で頷くと口を開いた。
「さっきの歌の曲名なんですけど、未来へと書いて『明日へ』は、どうですか。勿論先輩が気に入らないのであれば気にしなくて良いのですか」
未来へと書いて明日へと読むか、確かに今歌った歌にぴったりかも知れない。シンプルでいて曲の本質を掴んでいる、本当に良い名前だ。
「なるほど、『
「たまたま、思い浮かんだだけです。その、本当にありがとうございました先輩、失礼します」
そう言って椅子から立ち上がり、渡したハンカチを大事そうにポケットにしまう彼女に声をかける。
「また聞きにおいで、それじゃあまた。バイバイ後輩」
すると、後輩は私に軽く頭を下げると音楽室を出ていった。
「ふぅ」
足の上に乗せていたギターを持ち上げて机の上に置く。
あ、後輩の名前を聞くのを忘れていた。まぁ、ハンカチを返しにきてくれた時にでも聞けば良いか。
そう思いながら私はギターを片付けて帰路に付くのだった。
場所は代わり、浅桜神社にウィザーズとなった
少女達が集まっていた。
部屋では先程現れたフォールエンスからの刺客である怪物との戦いを終えたばかりの彼女達は疲労感の感じさせる声を漏らして炬燵に突っ伏していた。
『お、お疲れ様です。皆さん』
炬燵よテーブルの上でそう話す精霊王姫フェインはおろおろとした様子で炬燵に突っ伏す面々を見詰める。
「なんかさぁ、最近の敵強くなってません?」
そんな疲弊した中で黒髪ショートヘアーの女の子、ウィザーズ・エアリアルこと
彼女の言葉に少女達はここ最近の怪物との戦いを思い浮かべる。
どの戦いもそれぞれの発想や妖精の助言が無ければ勝つのは難しかった。
「確かにそうですわね、最近は一筋縄では行かない敵ばかり……」
彼女の言葉に賛同する様子で話すのはストレートヘアーの少女。ウィザーズ・ロゼこと
そんな彼女の横で炬燵の中で横になって眠っているのは疲労から寝落ちしてしまった黒髪でツインテールの少女、ウィザーズ・ステラこと
そんな中で台所から帰ってきたのか周りの様に疲れた様子は見せないで飲み物を乗せたお盆を持ってきたのは、茶髪のボブヘアーで桜の髪止めを前髪に着けている少女。ウィザーズ・スカーレットこと
「あれ?ヒヨリさん、あんまり疲れてなかったりします?」
疲れた様子を見せない彼女にウィザーズ・スノウことハーフアップヘアの少女、
「え?あはは、私も疲れてるよ」
そう話すヒヨリはそう答えながら飲み物をそれぞれに配る。そんな彼女が何故周りの少女より疲弊していないのか、それは彼女が炎を司る妖精であるドーラと共に日々特訓をしているからであった。
ヒヨリが配り終えそれぞれが飲み物に口を付け、疲れた様子で吐息を漏らす。
そんな中でヒヨリの脳にはある考えが過っていた。
私たちが戦ってきた怪物、彼女…セルリアンならきっと私たちより速く倒す事が出来ていたかもしれないのではないか?と言う物。
1度だけ、マナミとユリエの話から怪物が町に現れた際に駆けつけた時には既に戦いが終わっていたと聞いた事があった。
もしそれが彼女が戦った後なのだとしたら、そう考えてコップを持つ手に僅かに力が入る。
ドーラちゃんは無理なくこのまま特訓を続ければ問題ないと話していたけど、やっぱりもっと頑張らないと。
そう感じる彼女は今日の戦いに付いての考察をノートに書いて纏める為に思考を続けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます