第1章、再び繋がるCONTACT
パラドックス
荒廃した町が広がり足元は沢山のビーストの死骸と血で染まっている。
その場ではビーストの咆哮と金属がぶつかる金属音、そしてなり続ける銃声が響いていた。
聞こえてきた方には、p90のような形状のサブマシンガンを二丁持ち明るい緑の振り袖に膝上までの紫の着物は所々が破れ、赤い血で汚れている草履を履いた和装の魔法少女が肩で息をしており、返り血と思われる赤い染みが着いた黒いフード付きのパーカーを着て黒のホットパンツにロングブーツを履いた魔法少女は、ビーストの攻撃により使えなくなった右手をだらりと下げ左手で大鎌を振るう。
どちらも満身創痍といった様子で、苦しそうに襲いくるビーストを殺し続けている。
「はぁ、はぁ………もう魔力が」
「……ふぅ、ふぅ」
見るからにもう戦えない、動くのですらキツそうな彼女達だが、軍や魔法少女ですら援軍に来る様子はなく、彼女達を囲うように並んでいるビースト以外に人の姿は見えない。
彼女達にとって頼りになる人物である彼女は、この戦いを終わらせる為に今もなお命をかけて戦っているのだ。
大型の狼のような姿を持つビーストが背後から和装の魔法少女へと迫る。ビーストの持つ牙、そして爪は簡単に彼女の体を貫く事が想像できるほどに鋭く、長かった。
「オトハッ!!」
もう一人の大鎌を持った魔法少女はその後の光景を想像したのか絶望したような表情をした後、必死の形相で駆け左手で横へと和装の魔法少女を押し出す。
和装の魔法少女は急に押された事に驚き、押された勢いでよろめきながら見てしまった。
彼女が目にしたのは自分を押し出し安堵した様子で微笑む姉妹といっても過言ではない程の時間を共に過ごしてきた、大鎌を持った魔法少女の姿。
そして魔法少女へと迫るビーストの鋭い爪。
「ユズキッ!?」
慌てて手を伸ばす和装の魔法少女……オトハは魔力がほぼ尽きかけていた。彼女は必死に大鎌を持った魔法少女……ユズキへと手を伸ばす。
届かぬ手を伸ばす彼女は、その一瞬で思い出した光景が目の前の光景と重なる。
その光景はどんな皮肉か、彼女達が始めて出会った事を思い出させた。
『なんでそんな所で蹲ってるの!?逃げないと!!』
『それは、命令?』
ビーストによって破壊され殺戮された地区で生きるため逃げていたオトハはたまたま蹲っているユズキを見付け声をかけた。
『命令だとかそんな事をいってないで、不安なら手を握ってあげるから一緒に逃げるわよ!』
特殊な育ちをしたユズキは命令されてないと動けず、自らの意思で行動することを恐れていた。
そんな彼女に自信を持った笑みを浮かべ手を差し伸べたオトハ、彼女の手へとユズキは恐る恐ると言った様子で手を伸ばした。
このときの彼女の選択がユズキを救い、そして彼女達を救い今の彼女を作っている。
ユズキへとビーストの爪が迫る、そして次の瞬間。
耳に聞こえたのは何かが何かを貫く、聞きなれた音だった。ユズキの胸からはビーストの爪が生えていた。
「ゴフッ」
彼女の胸を貫いた爪をビーストが勢い良く引き抜くと、ゆっくりと仰向けに倒れた彼女の胸から血が流れ大地を赤く、紅く染めていく。
残り少ない魔力を手にもった銃に弾丸として込め彼女の胸を貫いたビーストへと撃ち、絶命させると、ユズキの元にかけよって倒れた彼女を抱き起こす。
「ユズキ、ユズキッ!!」
必死に名前を呼ぶが、ユズキは苦しそうな顔ではなく、笑っていた。穏やかな、まるで朝日を眺める普通の女の子のように、笑っていた。
「オト、ハ……無事で良か、った。」
「やめてよ、死なないでよユズキ!なんで私なんか庇って……」
涙を流しユズキの体を抱き締める、油断した私を庇わなければと、そう考えるオトハにユズキは笑ったまま口を開く。
「オトハ、私なんか……なんて、言わないで」
何故私なんかをと話すオトハに、咳き込み血を吐きながらも笑みを崩さずにまるで諭すようにユズキはオトハへの言葉を紡ぐ。
「私はオトハから…たくさん、貰ったから」
そんな彼女の口から語られたのは、ユズキにとって初めて親愛を持ち好きになった恩人であり友人への心からの感謝の言葉だった。
「人形だった私に、勇気と生き方を……自由を、くれた」
「まってよ、行かないで!私を置いて行かないでよ!!」
目の前の彼女の目蓋がゆっくりと閉じていく、体から力が抜けゆっくりと温かいはずの体は冷たくなっていく。
そんな現実から目を背けたくない、その思いからオトハはユズキへと必死に懇願しユズキの体を抱き締める。
すると、そっと彼女の左手がオトハの背を撫でた。
「オトハ……ありが、と。幸せ、だった」
その言葉と共に、彼女の目蓋が閉じ背中の腕からダランと下がる。オトハはゆっくりと抱き締めていた彼女から体を離す。
まるで、寿命を全うしたかのような安らかな顔でユズキは眠っていた。
オトハはゆっくりと彼女を地面に寝かせると、彼女の近くに落ちていた彼女の武器である大鎌を手に取る。
そして近付いて来ていたビーストを大鎌を振り抜き、ビーストの体を真っ二つへと切り裂く。
「ぅあ、ぁぁぁぁぁあああーーッ!!」
オトハは彼女の大鎌を振るい目の前のビーストを殺す。ビーストから鮮血が舞い、更に彼女の身に纏った和服を赤く染める。
本来の彼女の戦闘スタイルはこのような荒々しいものではなく、両手にもったp90のような銃を使い、相手を離れた場所から射撃し殺すと言う物だ。
だが、目の前で大切な仲間を失った彼女は周囲を見ることなくただ目の前のビーストを大鎌で切り裂き、残り僅かな魔力を込めた銃弾を放つ。
だが、前しか見えていなかったオトハはビーストが背後や横から襲いかかろうとしているのに気付いていなかった。
「グッ?!こ、のぉお!!」
横のビーストは銃で撃ち抜き防いだが背後からの爪は避けられず彼女の背中をビーストの爪が抉る。
爪によって抉られた箇所からは赤く血が滲む。
彼女の和服は既に返り血で赤く染まり、それが彼女の血なのか、返り血なのか判断するのが難しい。
銃を駆使して自分を襲ったビーストへと放ち息の根を止める。
だが、彼女の魔力は既に尽きかけておりビーストからの攻撃を避ける事が出来ず攻撃を受け続けながらも大鎌を振るい続け、軈て止まった。
身体中から血を流し、虚ろな目でビーストへの怒りと復讐心で戦っていた彼女の手からカランと音を立てて大鎌が地面に転がり落ちる。
オトハは前のめりに倒れ込んでしまう。連戦で体力と魔力を消費し続けていた彼女は、ビーストからの攻撃を受け続け血を流しすぎており、既に力尽きる寸前であった。
ビースト達は彼女が倒れた姿を見たのか、それとも相手にすらしていないのか、はたまた気まぐれか、倒れた彼女を静観している。
冷たくなっていく体に残された力で地面を這い、オトハはユズキの遺体の元へと向かい、辿り着いた。
あの3日間、安全な場所を見つけて眠ったあの時のように彼女の手を握ると、オトハはゆっくりと目蓋を下ろしていく。
「ソラさん、みんな……ごめんね。ユズ、キ……私も、そっちに行く、よ。」
その場には、ビーストの残骸と二人の魔法少女と思われる少女が互いに向かい合って倒れ手を繋いでいる遺体が発見された。
これは、セルリアンがシンを討つ僅か数分前の出来事であった。
エスペランサーを片手にビーストの鳴き声、咆哮の聞こえる方向へと駆ける。
ビーストが発生し私が到着するまで3日が経過した町は、それはもう酷い光景が広がっていた。道にはコンクリートや近くの建物の破片が散乱しており、普通の靴では怪我をしても可笑しくない。
かつては沢山の人が住んでいたのであろうマンションや家は所々抉れ、家の内部が露出し崩れ修復不可能な程になった物が広がっていた。
もうこの町に生存者はいないであろう、そう思わせる光景だ。
軈て、見えたのは大きな狼のような姿を持つビースト。そんなビーストから逃げる二人の少女の姿だった。
小学生くらいのサイドアップヘアーの少女が必死に走りながら、手を繋いだワンサイドアップヘアーの少女を引いて走らせている。
私は瞬速で地を強く蹴り付け、高速でビーストへと接近しながらエスペランサーをビーストへと振り下ろす、私ではなく獲物として彼女達を見ていたビーストは接近する私に気付かず首に大きく大剣エスペランサーが振り下ろされた。
斬り付けた場所から血が吹き出し、私の身に纏っている黒いドレスと青いロングコートを赤く染めていく。
もう見慣れたビースト……いや、生き物の肉を斬る感触の残る腕と吹き出してくる血に軽く息を吐く。
エスペランサーを払い、刀身に付いたビーストの血を払ってから振り向くと先程と変わらず手を繋いだままの彼女達は私を見詰めていた。
片方の少女は驚き目を見開き、片方の少女はまるで宝物を見付けたようなキラキラとした目で私を見ていた。
あぁ、これはあの時の夢だ。
サイドアップヘアーの彼女は
彼女達はビーストによって襲撃され壊された地区で3日間生き抜いた強い子達で、最後の戦いまで一緒に生き残って戦った。
彼女達は、最後の戦いでどうなったんだろうか?
目が覚めた、ゆっくりと深呼吸してから体を起こす。
今日見た夢は、前よりは軽い物だったからかパジャマが寝汗でビチャビチャになるような事は無かった。
オトハ、ユズキ。あなた達はこの世界で普通に生きて楽しんで日常を過ごしているのかな?
パジャマから私服に着替えて、部屋を出る。コハルは今日も友達と遊ぶと楽しそうに話していたから、きっともう出掛けているのかな?
階段を降りてリビングに入ると、母がテレビを見ながらテーブルでご飯を食べていた。
「あら、おはようソラ。ご飯出来てるわよ、一緒に食べましょ?」
「……うん」
椅子に座り、テーブルの上に載せられた朝食に箸を付ける。
『今日のニュースです、昨夜───。』
テレビには都会の町で起こった深夜の交通事故について解説している。
「怖いわねぇ……私の車、ドライブレコーダー着けちゃおうかしら?」
「その方が安全だから、良いと思うよ」
「でしょ?それにしても今日もコハルは友達と遊ぶーって出掛けちゃったのよ。きっと凄く仲の良い友達が出来たんでしょうねぇ、ふふ♪嬉しいわ♪」
コハル、そういえばおやつまだ作ってあげれて無いな。来週の日曜日か土曜日にでも作ってあげないと。
「きっと、そうだね。そうだと思うよ」
何気ない日常の会話。あぁ、こんなにも平穏な日常が私の求めていたものなのだろう。夢で見た二人もきっと、この世界ではこんな日常を───。
『次のニュースです、先日
カラン、カラン。
聞こえてきたニュースと町の名前に、気が付けば私の手から箸がこぼれ落ちてテーブルの上を転がっていた。
「あら?どうしたのソラ」
「え?あ……」
星雲町、あの世界ではビーストの発生3日間で二人の生存者を除いて全てが破壊され蹂躙された町だ。
心配するお母さんに大丈夫と伝えてから箸を持ち直してテレビの放送に耳を傾ける。
『現在、少女は眠っているため詳細は不明です。彼女の友人を名乗る少女からの通報を何度か受けており警視庁が確認しに向かったところ、彼女が倒れている状態で放置されていたのを発見。即座に保護し警察が病院へと運びこんだとの事です。詳細が分かり次第、追加で放送させて頂きます』
一人の少女が育児放棄され暴行を受けていることが判明。
頭の中で、一人の少女の姿が頭に浮かび上がる。私が知り合ったときからずっと二人組だった彼女達の片割れ。
大鎌を使い、影で出来た黒い鎖を操る黒い服装の魔法少女。
「まさか……いや、でも」
「ソラ?どうかしたの?」
「あ……いや、何でもないよ」
そう言いながらご飯を口に運び、ふと先程思い浮かべた魔法少女の片割れが話していた事を思いだした。
『ソラさん、私は自分の地区がビーストにやられたのあんまり怒ってないんです。不謹慎かもしれないけど、ビーストに少し感謝してるの』
彼女達を保護して数週間後に魔法少女となり軍に所属してきた時に聞いた会話を思い出す。
『ユズキなんですけど、たぶん親に虐待されていたかもしれないんです。初めてあったときに逃げようって言ったら、「それは、命令?」って返されて。可笑しいと思ってたんですけど、ユズキの行動は変なんです。あまり自分から行動しないというか、言われてから行動するんです。まるで指示されないと動かない、動いちゃいけないみたいな』
彼女の仮説が仮に真実に近しい物だとするのなら、
つまりはあの日に彼女が両親をビーストによって失なった事が鍵となり、片割れと出会い共に過ごすと言う結果に繋がるのだとしたら。
私の叶えた魔法少女のいない平和な世界は彼女、神島 結姫にとってビーストによって虐待していた親から解放されると言う鍵が存在しなくなり、友人である天宮 音羽と出会う事も無く───虐待され続ける日々を意味している?
その考えが浮かんだ瞬間、私の背中に冷たいものが流れた気がした。
勘違いだと思うけど、もしそうならこれは……私の責任だ、私のせいで彼女は虐待され続けることになって、2人が出会う可能性も無くしてしまった?
震えそうになる体と罪悪感を押さえ込み、朝食に使われていた食器をキッチンの流しに置いて水で濡らしておく。
確かめないと、まだこの仮説が正しいと決まった訳ではない。
「ごめん、お母さん。今日お手伝い出来ないかも」
「あら、お出掛け?」
「うん、少し」
「謝ること無いわ、むしろお出掛けしてくれて嬉しいわ。ソラ全くお出掛けしないでお家の手伝いをしてくれるから。」
「そう、なんだ。じゃあ準備していくね」
「えぇ、行ってらっしゃい。5時までには帰ってくるのよ?」
「うん」
母さんの声に返事を返しつつ、部屋で私服から出掛ける時の私服に着替えて家を出る。
星雲町に行って、確かめなければいけない。ニュースで病院に運び込まれた子が神島 結姫であるか否か。
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