第30話 四星 シャモンとグオウルム
「あら、グオウルム。あなたの部隊も出撃?」
「おぉ、シャモン! そうよ、まったくその通り! ガハハハッ!」
会議の後、四星の一人であるシャモンはゴーレム整備場を訪れていた。
王都の敷地内にあるのは貴族も真っ青の広大な整備場。そこにゴーレムと呼ばれる魔導兵器がずらりと並んでいる。
グオウルム率いるゴーレム部隊の者達は慌ただしくゴーレムの整備に覆われていた。グオウルムが作業の影響で黒ずんだ顔をシャモンに向けるとニカッと笑う。
「どうよ! ここはよ! ガハハハッ!」
「相変わらず広いわねー。私のところなんて申し訳程度の訓練場が与えられているだけなのにさー」
「そりゃお前のところにゃ屋敷みたいな宿舎があるだろうよ! メシなんか豪勢なの食ってんだろ? 俺達なんか築四十年くらいのきたねぇ宿舎だぜ?」
「夜な夜な女を連れ込んで遊び放題のくせにさー。私のところはそういうの厳しくしてるからー」
「この前、お前のとこの副隊長が若い女を連れ込んでるの見たぜ?」
「は!? あの男……! 私というものがいながら!」
ガハハと大きくグオウルムが笑い、工具を持ったまま高い足場から飛び降りた。
首をゴキゴキと鳴らしてから仁王立ちして整備場を見渡す。
「それに比べてここはいいぜぇ? ゴーレムは浮気なんかしねぇ! ガハハハハッ!」
「あいつ……後で殺してやる」
「ガーッハッハッハッ! あんな女たらしは捨てて俺の女になれよ!」
「死んでもお断りだし」
「今日は敵情視察ってところか? アザトゥスによれば、今回の敵はなかなからしいからな」
シャモンが髪をかきあげて、真面目な顔つきになる。図星であり、シャモンは同じ四星であるグオウルムをライバル視していた。
彼女としてはディハルトと違い、国王かアザトゥスのどちらの命令でもいい。
大切なのは成果に伴う報酬であり、いかに大金を手に入れて贅沢な暮らしをするかが彼女の人生におけるプランだ。
有り余る魔力と強力な魔術式を授かって生まれた彼女はこれまで他人を敬うといったことをしたことがない。
王立魔術学園でも気に入らない生徒がいれば苛め抜いて退学させて、時には命を絶たせた。
教師すらもその美貌で黙らせて、誰にも逆らわれずに生きてこられたシャモンはまさに女王様だ。
国王すらもシャモンには甘い対応を取ることが多く、そうなればアザトゥスなど空気に等しかった。
「あんたのところのゴーレムは面倒だからさー。できれば今すぐぶっ壊したいくらいかなー」
「ガーーーッハッハッハッ! そりゃ困るな! でも最近じゃ耐魔術耐性のコーディングを施したからよ! だいぶ苦労すると思うぜ?」
「あぁーぶっ壊したいぃー」
「まぁまぁ! お前だって敵の情報は聞いてるだろ? あの粒揃いのズドック工業術戦課を壊滅させた奴が相手だからなぁ」
「しょせん汚らしい工場勤務でしょー。あいつら、目がやらしくてキモかったんだよねー」
「俺も似たようなもんだがな! ガーッハッハッハッ!」
グオウルムが工具で肩を叩いて大笑いした。それから笑った後、唐突に真面目な顔つきになる。
「……俺は報酬なんてどうでもよくてよ。噂の錬金術師が気になるんだわ」
「町で評判だったとかいう?」
「何せあのアザトゥスが術騎隊やズドック工業まで使って追い回したんだからな。噂が本当なら、ぜひ俺のゴーレムをいじらせてみたいぜ」
「あんたって本当、純粋っていうかバカよね。もうゴーレムと結婚しちゃえば?」
「それもいいかもな! ガハハハッ!」
シャモンは決してゴーレムを侮っていない。耐魔術耐性のコーディングと聞いて内心、焦っていた。
彼のゴーレムがそれほどまでに進化していたとは思わなかったからだ。
グオウルムは見た目のいかつさに似合わず、手先が器用で知識がある。元は平民の生まれだが、彼は幼少の頃から気になる魔道具を片っ端から解体していた。
好奇心が行き過ぎて、店の中に侵入して調理用の魔道具を一晩でバラしたせいでひどいリンチを受ける。
両親にも見放されて瀕死の重傷を負ったが奇跡的に生還。それからまた持前の体力を活かして、ひたすら魔道具を解体していじり続けた。
そんなある日、王国の衛兵に捕まった際に彼を引き取りにきたのがアザトゥスだ。と、グオウルムはシャロンに語り終える。
「アザトゥスのじいさんのおかげで俺はゴーレムっつうすげぇもんを作れたんだからな! ガッハッハッ!」
「はいはい。叩き上げの苦労話ねーすごいねー。這い上がるのがかっこいいとか思ってるのは下民だけだからねー。最初から上にいる奴が偉いんだからねー」
「それで苦労した俺と上にいるお前はどう動きゃいいんだ? 何か聞かされているか?」
「ひとまずディハルトの部隊が先行するみたいだねー。それまで様子見じゃないのー?」
「まぁ追って指示があるか! ガーッハッハッ!」
笑うグオウルムを無視して、シャモンはもう一度ゴーレムを見渡した。魔術式が刻まれていない彼にこれほどのものを作られてしまった事実は彼女にとって面白くない。
シャモンは王立魔術学園に特待生で入学して何の苦労もなく卒業、その後は魔導術撃隊に入隊してわずか一ヵ月で隊長の地位を勝ち取っていた。
新任の自分を見下していた当時の隊長はもういない。シャモンに実力でねじ伏せられてから部隊を去った後、人知れず行方をくらました。
先に生まれて入隊していたというだけで、シャモンにとっては何の価値もない人物だ。そんな成功体験が多いシャモンにとって、障害があるなど考えたくなかった。
(私に邪魔なんてあってはいけないんだよねー)
シャモンはグオウルムが背を向けた時に魔が差すところだった。このまま殺してしまえば、と考えたがさすがの彼女も思いとどまる。
利用するだけ利用してしまえばいい。シャモンはそう切り替えた。
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