家族の皆様、【転移魔法】のどこが最弱なんですか?~神獣が住む天界に転移して500年、最高鬼畜難易度ダンジョン【天獄の魔宮】で鍛えすぎたおかげで世界最強になりました~
第15話 要は実力を一分で示せばいいんですね
第15話 要は実力を一分で示せばいいんですね
「おい、さっきから聞いてりゃなかなかの言い草じゃねえか」
ハンターの一人が私達のところへやってきて見下ろした。鍛え上げた巨躯の男は筋骨隆々で岩肌みたいな体つきだ。
少し観察したところ、なるほど。ここにいるハンター達の中では一番強いかもしれない。
胸元には銀色のバッジがつけられていて、三の数字が刻まれている。
「なかなかの言い草?」
「ろくに実績もねぇくせにでかい口を叩くんじゃねぇ。大体、ハンターはガキが稼げるような甘い仕事じゃねえんだ」
「だからそうじゃないことを証明したいんだけど。それに今はあなたじゃなくて受付の女性に聞いている」
「お嬢ちゃん、一つハンターの鉄則を教えてやる。ハンターってのは意外と縦社会だ。この辺りでまともな仕事をしたけりゃ、まずは逆らっちゃいけねぇ人間がいる」
そう言って男が私に顔を近づけてくる。息が臭い。
ものすごい形相で睨みを利かせてくるけど何がしたいんだろう?
「フゥゥーーー!」
「グルルルル……!」
「クァァッ!」
「なんだこいつら? かわいくねぇペットどもだな」
ラキとセイ、オウが威嚇をした。だけどこの見た目とサイズだから、ハンター達はせせら笑っている。
私を睨んでいる男も三匹にはほとんど見向きもせず、私から離れない。
受付の女性に至っては言わんこっちゃないとばかりに、少しだけにやけていた。
参ったな。こうなったのは半分くらい私のせいだし、ちょっと言い方がまずかったかもしれない。
私としては何てことがない物言いでも、考えてみたらこの人達はここでずっとハンターをやってきた人達だ。
男の言う縦社会はわからないけど、ここは少しだけ譲歩してみるか。
「わかった。じゃあ五級で引き受けられる仕事を教えてよ。受付さん」
「おい、俺を無視してんじゃねぇ。舐めてんのか? あ?」
「怒らせたなら謝るよ。ごめんなさい」
「新米ハンターが勝手に仕事できると思ってんじゃねぇぞ。仕事の割り振りは俺が決める。お前らは黙って待ってりゃいいんだ」
なに、この男。穏便に済ませようとしているのに。さすがにそんなものに従う義理はない。
そもそもハンターは魔物討伐をして町の平和を守る人達じゃないの?
私が言うのも何だけど、こんな人間に務まるような安い仕事なの?
ましてや、相手との力量差もわからないような人が三級とは。この際、ハンターの質はどうでもいい。
私はお金が貰えればそれでいいから、こんな男は無視しよう。
「受付さん。依頼を引き受けるのにいちいちこの男に許可を取る必要があるの?」
「い、いえ、そういった規定はありませんが……」
「じゃあ、ゴブリン討伐でもいいから五級向けの依頼をすべて引き受けるよ。今日中に片づけてあげる」
「今日中!?」
ハンターギルド内がまたざわめいた。私に絡んできた男は間をおいて笑い飛ばす。
「ギャハハハハハ! 何を言い出すかと思えばよ! いいんじゃね! こいつに全部任せてやってくれよ!」
「ダルクさん、いいんですか?」
男の名前はダルクというらしい。どうでもいいか。
「あぁ! そのかわり、有言実行できなかった場合は二度とこのギルドに近づけさせねぇ!」
「……わかりました」
男ことダルクの許可も貰えたことだし、ようやく話が進む。
受付の女性が依頼書を持ってきた。説明によるとこの依頼書は契約書みたいなもので、サインをした段階で受注完了となる。
細かい規約なんかは書かれているけど、私達が気にするのは報酬額だ。ゴブリン討伐を含めた下級の魔物の討伐報酬は一つだけなら、三日分の生活費くらいにしかならないみたいだ。
「じゃあ、行ってきます」
私はハンターギルドからゴブリンが繁殖している森に転移した。
* * *
「こちら、討伐証明のゴブリンの耳とバーストボアの角、オークの牙です」
一分後、ハンターギルドに戻った私は討伐証明を床にぶちまけた。
凄まじい数の討伐証明が床一面に広がって、数えきれないほどだ。実際、私も何匹くらい狩ったか覚えてない。
受付の女性はもちろん、ダルクや他のハンター達は言葉にならないといった様子だった。
「い、今、消えて、戻ってきて、あなた、ど、どうやって……」
「指定された生息地にいた魔物はすべて討伐しましたよ」
「アリエッタの言う通りだ。我らの力を甘く見るでない。というかあの程度の雑魚が何の脅威になるというのだ? 金を出してやってもらうくらいなら、各々が身を守ったほうがよいではないか?」
「リトラちゃん、言いすぎ」
受付の女性が一つずつ手に取って確認していたけど、やがて床にへたり込んだ。偽物とでも思ったのかな?
「と、討伐完了を、認めます……」
「ま、ま、待ちやがれぇ! こんなものどう考えてもおかしいだろうが!」
せっかく受付の女性が認めたのにダルクがまた口を挟んできた。興奮した様子で、今度は私の胸倉を掴んでくる。
「てめぇ、どんなズルをしやがった! 今、消えたのもそうだ! 何から何までおかしい!」
「説明してあげてもよかったけど、ここまでされたらそんな義理もないよ。いい加減にしてくれない?」
「なんだと!」
「あ……」
私が手を下すまでもなく、リトラがダルクの腕を握った。ギチギチと音を立てて、ダルクが悲鳴を上げる。
ボキリと音が鳴ってダルクの腕がぷらんぷらんと揺れて垂れていた。
「いぎゃぁぁーーーー! あ、あがぁ!」
「実に耳障りで目障りな男だ。貴様ごときがアリエッタに手を出すなど、身の程を知れ」
「いでぇ! いでぇよぉ……!」
「やかましい。その口を利けなくしてやろうか」
「リトラ、もういいよ」
ダルクが脂汗を流しながら痛みで悶えている。この中で一番強いというダルクがこんな感じだから、他のハンターは手の出しようがない。
いや、ハンター達もここにきて薄々と勘づいているのかもしれない。見た目こそ子どもだけど、リトラの得体の知れなさに怖気づいている。
ハンターの一人が小さく悲鳴を上げて逃げ腰になっていた。
それにしてもリトラが私のために怒ってくれるなんてね。神獣以外で唯一、自分を負かした相手だから敬意を払ってくれているのかな?
「受付さん。報酬を貰えるよね?」
「は、はい! ただちに!」
受付の女性他、奥から出てきたハンターギルドの職員が総動員で討伐証明を数えて仕分けした。
その間、ハンター達は誰も何も言わない。腕を折られたダルクはいつの間にかいなくなっていた。
まったく、腕を折られたくらいであんなに大騒ぎをするなんて。私なんて何回、殺されたんだろう。あの恐怖と痛みはなかなか慣れるものじゃない。
「こちら、報酬です……」
「わぉ! こんなに!」
「あの、それでですね。ぜひ三級に昇級していただきたいと思いまして……」
「三級? 一級じゃなくて?」
「三級より上は昇級試験があってですね……。本部への手続きもありますし、ちょっと今は難しいんです。すみません……」
そういうことならしょうがない。受付の女性が手渡してくれた銀色のバッジを身に着けて、今日のところは満足した。
この日の報酬はミルアムちゃんの家を買っても、たっぷりとお釣りがくるほどだ。ひとまず第一段階はクリアってところかな。
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