第14話 ハンターギルド
ミルアムちゃんを助けた後、私達は森を出てからなるべく遠くの町に辿りついた。
王都からだいぶ離れた町で、ひとまず落ち着くことにする。
ミルアムちゃんには護衛料として一日ごとにお金をもらうつもりだ。ただしこのままじゃミルアムちゃんだってジリ貧になる。
私もただ働きをするわけにはいかない。じゃあ、どうするかとなれば根本的な原因を取り除くしかなかった。
まずミルアムちゃんが安心して暮らせるようにすること。それが絶対条件だ。それからミルアムちゃんが商売できるような環境を作ればいい。
エイシェインはミルアムちゃんが欲しくてたまらないから、このままだとまた襲われる可能性が高い。
ミルアムちゃんの話を聞けば聞くほど、魔導王国エイシェインという国の上層部はなかなか独善的な考えを持っていると思った。
一部の利権者だけが得をするような構造に仕上がっている以上、いくら国民が働いても大して生活は変わらない。
ミルアムちゃんのような有能な人材が出てきても王族に取り込まれて、拒めば殺される。
いや、取り込まれるまではいい。問題はその技術や知識、成果物はすべて一部の利権者に搾取されてしまうことだ。
つまり何をどうやっても王族やそれに付随する貴族達だけが肥え太るような体制が確立している。
現にこの町だって馬に荷台を引かせているけど、ミルアムちゃんの魔道車が開発されたら生活事情は劇的に変わるはずだ。
「ミルアムちゃん。しばらくこの町に滞在しよう。あなたはここで魔道具を自由に開発していいよ」
「そ、そんなことしたらまた術騎隊がやってきますぅ!」
「その術騎隊って何?」
「王国四星の一人、『剣帝』ディハルト率いる騎士隊です。王国の部隊で唯一、魔法を使わないことで有名だったのですが最近はそうでもないようで……。術騎隊と改名したのです。
森でアリエッタさんがぶっ殺した人達がそうなんですよ」
ミルアムちゃんの話によると、騎士隊は魔法に頼らず剣術のみで戦い抜いた肉体派の部隊らしい。
だけど世の中が魔術社会になるにつれて、騎士隊の存続が危うくなってきた。この事態を重く見た王国は部隊改革を行った結果、魔法を駆使する騎士団が出来上がったとか。
建国当初から常に国に寄り添って守ってきた騎士隊だけど、時代の波には勝てなかったということか。
それでも剣帝ディハルトは国内ではカリスマ的存在として支持されているらしくて、魔導王国でありながらも多くの国民から愛されている。
ディハルトは魔法が使えないながらも剣を持てば魔道士を圧倒するほどの実力者だと聞かされた。魔法が使えるようになった今はどんな強さに仕上がっているんだろう?
という話を聞き終えた時、リトラがあくびをした。
「下らん。ならば滅ぼせばいいだけのことよ」
「そうだね。とはいえ、ミルアムちゃんを安心させるには色々とやらなきゃいけないことがあるなぁ」
「アリエッタ。まさかあの小娘に深く関わるというのか? 放っておけばよいではないか」
「でもミルアムちゃんの技術が確かなら、この国に技術革命が起こるよ。ね、ラキ?」
「なぁーお……ゴロゴロゴロ……」
喉を鳴らすラキを撫でながら、私は今後の行動指針を定めた。
ミルアムちゃんにはこの町で魔道具の研究をしてもらう。道具は一通り持ってきたみたいだから、まずは場所を確保しなきゃいけない。
この町には空き家がいくつかあって、その中で手頃な物件を買い取ることにした。
不動産屋で見つけた物件は築年数が七十年とあって、他の物件よりも格安だ。とはいえ、私はもちろん、ミルアムちゃんもそこまでお金を持っていない。
お金は即金でほしい上に、ちんたらと何日もかけて少ない賃金を貰うのはバカらしい。
そこでミルアムちゃんと相談してから目をつけたのがハンターギルドだ。魔物や賞金首討伐を生業とする人達、それがハンター。
と、聞こえはかっこいい。でも一年後の生存率が四割を切っているというのだから、どちらがハントされているのかわかったものじゃない。
若くしてハンターで大金を稼いで余生を過ごしているような人がいるものだから、夢見る人達が次々とハンターギルドに吸い込まれていく。
ハンターギルドとしては生きようが死のうが、登録料だけが残るんだから来る者拒まずだ。
私としては夢を見る前に現実を見るべきだと思うけど、お金に目が眩む人がそれだけ多いということ。
実力さえあれば腕一つで食べていけるのは確かだし、ランクが上がれば大きな仕事が与えられる。そうミルアムちゃんに教えてもらった後の私の目はたぶんお金になっている。
何せ人間界でどう生きていこうかと不安になっていた時だからね。いきなり私にピッタリの職業が見つかったんだから、ミルアムちゃんには感謝だ。
決意新たにハンターギルドを訪れてからは言われた通り、受付という場所に向かう。
「ハンター登録がしたい」
「え? あー、うん? あなたが?」
「そうだけど?」
「我も登録してやろう」
誰も頼んでないのにリトラまで登録するらしい。まぁ二人分の収入があれば旅の資金として不安はない。
ただし無駄に使わせないようにお金の管理は私がしっかりやらせてもらう。
「そちらの子も、ですか?」
「うん。言い出すと聞かない子だからお願い」
「はぁ……。なんでうちって年齢制限ないんだろ」
受付の女性があからさまな悪態をついた。それから私達をジロジロと見ながら、用紙を持ってくる。
名前や出身地なんかの個人情報を書かされるというのはミルアムから聞いていた。
だけど本当のことを書いてる人はほとんどいないみたいで、手続きとしては形骸化しているようだ。
出身地か。私が生まれた場所なんだろうけど、あまり思い出せない。大きなお屋敷だけがぼんやりと思い浮かぶ。
ミルアムちゃんに教えてもらった通り、国内の田舎にある町の名前を適当に書いた。
私とリトラは姉妹という設定だから同じ出身地にしている。ところがここでハプニングが起こってしまった。
「アリエッタ。これはどうすればよいのだ?」
「どうすればって名前と出身地を書いて……」
リトラは読み書きをできないのでは、と気づいてからは早かった。
高速でペンを奪い取って私が代わりに記入する。あまりの早さに受付の女性もさすがに突っ込めないはずだ。
「今、代わりに書いてあげませんでした?」
「は? 気のせいだって」
「まぁいいでしょう。それでは二人合わせて八千ウォルいただきます」
「これでいい?」
「はい、いただきました。ではこちらをお持ちください。ハンターの証となる五級のバッジです」
「五級かぁ」
払ったお金はミルアムちゃんから護衛料としてもらったものだ。バッジは銅色の鉱石か何かで出来ていて、五と刻まれている。
受付の女性が等級について説明をしてくれた。
等級は五級から一級まであって、一般的にハンターを専業にできるのは四級からだと言われているらしい。
ハンターになってもいきなり稼げるほど甘い世界じゃないと釘を刺されたみたいだった。
登録したばかりだから当たり前だけど、私としてはできるだけ多くの報酬がほしい。
現在のハンターの実力はわからないけど、これでも私は自分の強さに自信がある。リトラも同じだったみたいで、バッジを指でつまんでつまらなそうに見ていた。
「五級とはどの程度だ?」
「最下級なので、繁殖力が高いゴブリン討伐なんかに当たっていただくことになります」
「ゴブリンだと! この我にそのような下等生物を狩れというのか!」
「いえ、決まりですから……。もう帰ってほしい」
「いつの世も、人間とは愚かなものよ。いいだろう、無知蒙昧な貴様らに我の力を見せてやる。すべての討伐依頼を開示せよ」
ここまで騒げばさすがにギルド内も騒然となる。
リトラみたいな子を連れ歩いている以上はある程度のトラブルは覚悟していた。というかリトラの言い分を私は全面的に支持する。
「そうだね。今、ここにある討伐依頼を全部もってきてよ」
「で、できるわけないでしょう! あなた達は何なんですか!」
「今日中にすべての討伐依頼を終わらせて見せますよ」
「なっ……!」
これまで静観していたハンター達がピクリと反応した。
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