第7話 終魔狼ガルム

 探索開始してから180年、ラキのおかげで劇的に楽になった。この子は耳がいいから、敵の接近なんかにも敏感だ。

 近づかれる前に待ち伏せして先手で奇襲なんてことが成立するから、ここ50年は一回も死んでない。

 それだけじゃなく、私の強さ自身も上がっているのも原因だと思う。今の私のステータスはこんな感じだ。


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名前:アリエッタ

年齢:15歳

攻撃力:68,544

防御力:50,581

魔力 :85,439

耐魔力:54,307

武器:神剛の宝玉

防具:神界姫のドレス

   神界姫のリボン

   精霊王の靴

魔術式:転移

【小転移】  わずかな距離を転移する。

【中転移】  視界にある場所に転移する。

【大転移】  視界の外にある場所に転移する。

【置換転移】 自分と相手の位置を入れ替える。

【壊転移】  物体の内側に転移させて相手を破壊する。

【打転移】  物体の外側に転移させて相手を弾き飛ばす。

【連転移】  連続で転移する。

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 神界姫のドレスはあらゆる攻撃に強力な耐性があって、感覚ではたぶん半減以下に抑えられる。

 神界姫のリボンはあらゆる状態異常を無効化できる。他にも色々手に入れたけど、身に着けているのはこのくらいだ。


「フゥゥーーーッ!」

「ラキ、また何かいるんだね」 


 ラキの毛が逆立っている。70層を越えたあたりから、さすがのラキも警戒態勢に入る回数が多くなってきた。

 私は魔力を集中させて、ラキとリンクした。これでラキの耳に届いた音が私にも聞こえるようになる。

 これもフェリルやキュウから教えてもらった方法だ。人間界で使われている召喚術と似たようなもので、従魔と契約すれば相応の能力が得られることがある。

 それの超応用版で、お互いの信頼関係があれば能力だけじゃなくて五感の一部を共有できた。

 今、私の耳には魔物の足音や息遣いが聞こえている状態だ。おかげで先手を打って処理して進むことができる。

 果てしなく広い階層を進むこと300年、つまり480年が経過した。うん、時間がかかりすぎ。

 80層手前まで来て私は感じたことがある。ここまでくると1層辺りの広さや意地悪さが、初期とは比べ物にならない。

 猛吹雪のせいでまともな生物なら1分と経たずに凍り付く広大な雪原フロアはまだいい。

 数分置きに形を変えて、場所によっては閉じ込められて毒ガスが吹き出すフロアなんてまだまだかわいいもの。

 新しい階層に降りた時、一番最初の層と同じ光景が目の前に広がっていたらどう思う?

 振り出しに戻されたって思うけど実はこれ、フェイクです。気にせず進みましょう。

 こんな風に精神的に揺さぶりをかけてくるんだから本当に性格が悪い。後で考案者がキュウだと聞いて納得した。

 ようやくたどり着いた80層の災厄は終魔狼ガルム。遠吠え一つで世界中の魔獣を呼び寄せて従えたとのこと。

 更には当時の時代を支配していた魔王に反旗を翻して挑んで勝利したというのだから、どっちが魔王かわからない。

 そんなガルムを人間達は恐れて、討伐に出た。熾烈な争いが繰り広げられた後、人間達は滅亡の危機に瀕してしまう。

 だけどガルムはどこかへ姿を消してしまったと、例によってフェリルが教えてくれた。

 そのガルムが今、私の目の前で唸り声を上げている。フェリルと同じくらい巨大な犬が歯茎を剥き出しにしていた。

 ラキも対抗してフゥゥーーとかいってる。


「話は聞いたよ、ガルム。何のつもりか知らないけど、あなたはたぶん悪くない」

「グルルルルル……!」

「お腹、すいた?」

「ぐるる……」


 ラキはいきなり襲いかかってきたけど、この子は警戒しているだけで襲ってこない。

 今までの救いようがない災厄とは何か違うと感じていた。一か八か、私は携帯していた乾燥肉を放り投げてみる。

 するとガルムががっついて、お座りした。あの大きさだから、私が食べるような乾燥肉じゃ足りないのかも。次々と乾燥肉を投げると次第に荒々しさがなくなる。


「ぐるるる……」

「襲ってこなければ私は何もしないよ」

「がう……」

「なぁーお」


 ラキが鳴き声を出すと、ガルムもガウと鳴く。動物同士で通じるものがあるのかな? 知らないけど。

 しばらく私も一緒に座っていると、ガルムが近づいてきてくんくんと匂いを嗅いでくる。


「よしよし」

「くぅん」

「私と一緒にくる?」

「がうっ!」


 そう吠えた途端、ガルムがラキと同じくらいのサイズになった。見た目は子犬に近いかもしれない。

 ガルムの頭を撫でてあげると、ラキもすり寄ってくる。ヤキモチやいてるのかな?

 今日はもう疲れたから次の階層に行ったところで一度、戻ろう。フェリルに話しておきたいからね。


「やぁ、アリエッタ。また従魔を増やしたのかい?」

「成り行きでね」

「そいつはガルムじゃないか。その子は悪い奴じゃないからね。仲良くできると思うよ」

「うん。なんかなついてくる」

「そうだね。ついでに今日はカレーでもどうかな?」

「何のついでさ」


 つい20年前もカレーばかり食べ続けたよね。とはいえ、私もお腹が空いたからカレーを作ろう。

 匂いで興奮したガルムがハッハッとしがみついてきた。


「カレー、食べられるの?」

「がう!」

「そう」


 ラキもそうだけど、ガルムも普通の犬と違って生物としての位が違うから問題ないとのこと。そういえばフェリルも犬なのに玉ねぎ入りのカレーを食べていたっけ。

 人間が食べられないものでもバリバリ食べるらしいし、毒で死ぬという概念がないのかもしれない。

 この子達は神獣じゃないけど、神獣と大差ないほど高い位にいる生物で実力も近い。へぇぇと感心しているとキュウがひょいっとやってきて、俺様ほどじゃないけどねなんてマウントを取る。

 あのフェイクフロアには未だに恨みがあるから、考案者に小一年ほど問い詰めてやりたい気分だった。


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