第5話 死縛神アラネク
天獄の魔宮に挑んでから14年が経過した。
二層のグラシオルゴーレムを討伐できるようになってからは割と調子よく探索が進む。
魔力は個人差があるけど、魔術を使い続けたり魔力に慣れ親しめば総量が増える。
とはいえ、それだけじゃ劇的に伸びることがない。そこで助けられたのが魔宮で手に入れた魔力の実だ。
これを食べ続けたおかげで最初は50しかなかった私の魔力は今や1300ほどになっている。味はハッキリいっておいしくないんだけどね。
つまり探索で重要なのは道中、落ちていたアイテムを残さず拾うこと。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
精霊王の靴
レアリティ:A
効果:移動した距離だけ魔力が回復する。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
精霊王の靴は転移魔術と相性が抜群だ。最初、私は歩いた距離じゃないとダメなのかなと思ったけど魔力がまったく減らないことに気づく。これは転移魔術で転移した分もカウントしてくれていた。
今、私は転移魔術で視界にある場所にならどこにでも転移ができる。おかげで転移魔術を使って魔力が減っても、靴の回復分で全回復した。
このレアリティ、Aは人間界でも滅多に手に入らない代物らしい。
最初に手に入れたシルバーナイフはDだ。Dは人間界でもお金を出せば買える。といっても、これ一本だって重要な武器だ。
壊転移の武器として今でも重宝している。
迷宮は進むごとに複雑化するだけじゃなくて、トラップや危険なフロアも増える。
特に床が一切なくてすべてマグマのフロアは本当にどうしようかと思った。
転移魔術でも微妙に距離が届かないんだもの。一度、フェリルに泣きついてコツを教えてもらった。
相変わらず魔術式なんて回りくどいものを使わずに、フェリルはふわっとしたやり方でも私に覚えさせてくれる。
フェリルによると魔術は本来、そう難しいものじゃないらしい。
ただし人間が扱うにはあまりに大きな力のため、魔術式を構築して魔術を使っている状態だ。
言ってしまえば呼吸をするのにいちいち小難しい手続きを踏むかということ。
フェリル達は呼吸のごとく、当然のように人智を超えた魔術を使う。私からしたら化け物だけど、神獣にしてみれば尻尾を振るのと大差ないと笑っていた。
ちなみにあの狐の神獣のキュウはいちいち魔術を見せつけて自慢してくる。だけど不思議とボーマンみたいな嫌らしさは感じなかった。
私も神獣を見習って、自然体で魔術を使えるように日々訓練している。おかげで14年で8層に到達した。
「アリエッタもだいぶ魔術に慣れてきたね」
「おかげさまでね」
「この分だと、一緒に君と眠ることができなくなる日も近いかもしれないね」
「大丈夫だって! もっと転移魔術を練習して、人間界に戻っても天界に転移できるようになるから!」
そう、今の私は純粋に天界が好きだ。当初の目的だった復讐も、今は気持ちが薄れ初めてきている。
ここに比べたら、人間界で起こったことなんて本当にちっぽけだと思えるようになってきた。
今は魔宮探索に疲れた時はフェリルのもふもふした毛に包まれながら眠るのが楽しみになっている。
そんな日々を過ごして10層に到達して17年が経過。ここでフェリルから衝撃の事実が明かされた。
「天獄の魔宮には10層ごとに封じられた災厄がいるよ。彼らをどうにかして先に進んでほしい」
「その設定、すっかり忘れてたなぁ……」
「10層で待ち構えているのは死縛神アラネク。かつてとある大陸を自身の糸で覆った蜘蛛のような怪物だよ。とはいえ、今の君とは相性がいいかもしれないね」
「大陸単位はすごいねぇ」
アラネクは放置すれば人間界を壊滅させていたかもしれないほどの災厄だそうだ。
最後には他の大陸からやってきた高名な魔術師が命と引き換えに封印したらしいけど。
10層でこれって、以降に控えているのはどんな化け物なの?
とにかく10層のフロアに到達すると、見事に糸だらけだった。一歩でも足を踏み入れたら糸にからめとられて、至る所で構えている手下の蜘蛛に食われる。そんな雰囲気しかなかった。
どうしたものかと考えた後、シルバーナイフを壊転移させて糸を切る。切ったところに転移して居場所を確保したところで、遠くにいるアラネクが私に気づいた。
「おやおや……。あの神獣ども、よもや数百年ぶりにわらわに食事を与えるとは……ホホホ」
上半身が女性で下半身が蜘蛛の化け物が私を見つけて、ありえないほど口角を釣り上げた。
手下の蜘蛛も集まってきた上に糸を吐き散らして、私が破壊した糸を一瞬で修復する。
なるほど、こんな速度でテリトリーを広げられたんじゃ確かに世界の脅威になってもおかしくない。
「ホホホッ! か弱き小娘とは粋な餌じゃのう!」
そして手足を動かして私に迫る。早いけどブラッドバニーほどじゃない。
すかさず私はシルバーナイフで別の場所の糸を壊転移で破壊して転移。直後にアラネク達が群がった。
「い、いつの間に? まぁ良い。我が子よ! 散れぇ!」
アラネクが更に子蜘蛛を量産した上に、口から黄色い液体を吐き出した。それが糸を伝って全体に広がる。
私は全力で壊転移で居場所を確保しつつ、捕まらないように努めた。黄色い液体が床に滴り、じゅっと溶ける。
怖い、怖い。だけど私だって負けてない。壊転移で子蜘蛛を処理してから、アラネクとの距離を詰めた。
いきなり接近してもガブリとやられたらお終いだからだ。
「キィィーーー! この小娘、妙な術を使う!」
はい、キレた。チャンスとばかりに私はアラネクの背後に転移。
シルバーナイフを頭部に転移させると、黄色い血が噴き出した。
「あ、あぐあぁッ……! おぼっ……おぼぁぁッ……!」
アラネクがどしゃりと倒れた後、私は油断せずに次のフロアの入口に向かった。
後は順次、迫った子蜘蛛を処理して戦いは終わりだ。フロア中に張り巡らされていた糸が次第に萎んで、床にはらはらと落ちていく。
アラネクの頭部内に転移させたシルバーナイフは黄色い血まみれで、さすがに拾う気になれなかった。
「こうなると使い捨てになっちゃうのかなぁ」
10層を突破できたものの、新たなる課題が出てきてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます