第4話 コツは掴んだ!

 初日以降、私は魔宮攻略に頭を使った。フェリルが出してくれたヒントを元に、まずはあのウサギ攻略を考える。

 魔宮内ではフェリルがわかりやすいように、私の強さを可視化してくれた。


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名前:アリエッタ

年齢:15歳

攻撃力:3

防御力:3

魔力 :50

耐魔力:50

武器:シルバーナイフ

防具:布の服

魔術式:転移

【微転移】 わずかな距離を転移する。

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 これは私の戦闘に関する総合パラメータだ。

 攻撃力は今の私がどれだけ相手に損傷を与えられるか。これは魔術も含む。

 防御力は今の私がどれだけ攻撃による被害を抑えられるか。回避する力も含むし、防具で身を固めたら上昇する。

 魔力は魔術の使用限界みたいなもので、耐魔力は高いほど魔術による被害を抑える。

 フェリルによれば、生まれつきの魔力や耐魔力としては高いほうらしい。

 この中で当てになるのは魔力と耐魔力のみ。つまり答えは魔力、魔術にある。

 あのウサギをどうにかする鍵を見出した私はさっそくブラッドバニーに挑んだ。

 来る日も来る日も殺され続けて一年、今日の私はいけると確信していた。


「ぴょんっ!」

「泣き声かわいいっ!」


 何度も殺されただけあって、私はウサギの攻撃に対して微転移で回避した。

 ウサギは急停止できずに着地して無防備だ。すかさずシルバーナイフで後ろからざっくりと刺すと、あっさり倒せた。


「な、なるほど……。こういう使い方もあるわけだ」


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攻撃力:3 → 20   アップ!

防御力:3 → 1000 アップ!

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「攻撃手段を覚えれば、攻撃力として加算されるんだね。そしてこの防御力って……。あのウサギの攻撃を回避するのがそれほどすごいことってことかな?」


 ブラッドバニーは素早いけど、当たればシルバーナイフでも討伐できる。

 それでもかなり素早いからタイミングを少しでも間違えれば首を刎ねられるから怖い。

 微転移の練習で四ヵ月、ブラッドバニーの素早さに合わせるのに八ヵ月もかかってしまった。

 一歩程度の距離、されど転移。いきなり相手が背後に転移したら簡単に対応できるものじゃない。

 散々練習した成果が出てよかった。これからも繰り返し練習して、転移の感覚を掴もう。

 更にブラッドバニーの毛皮と肉をもらうために解体作業に勤しんだ。といっても解体なんて経験ないし、ほとんど勘だ。

 今は神獣達が食材を持ってきてくれるけど、ここを出たら自給自足しないといけない。

 その時のためにできるだけこういう訓練もしておこう。何事も練習あるのみ。


「アリエッタ。ブラッドバニーは難なく倒せるようになったね」

「うん、でも一層を突破するのに一年もかかっちゃった」

「人間にしては強靭な精神力だよ。あのブラッドバニーは人間の魔術師を山ほど殺しているみたいだからね。人間界だと群れたら国も動くほどらしいよ」

「そんなに!?」

「でもあれはまだ小手調べさ。階層が深くなるごとに、キュウが連れてきた魔物も手強くなるからね」

「もうキュウを天獄の魔宮に放り込んだほうがいいんじゃない?」


 天獄の魔宮は当たり前だけど、潜ったら先へ進むしかない。じゃあ、戻りたい時にはどうしたらいいか?

 殺されるたびに迷宮の外へ出されるけど、痛いし怖いし殺されたくない。

 だから転移魔術でせめて行ったことがある場所に転移できるように、戦闘訓練と並行して練習した。

 外に出るたびに私は神獣達に料理を振る舞っている。私を待ち構えるかのように、魔宮の外に出ると神獣達がお座りしていてちょっとかわいいと思った。

 天獄の魔宮は全部で百層あるから、一年で二層目だとしても踏破には百年かかる。

 気が遠くなる年月だけど、ここでは私も歳を取らない。永遠の15歳でいられるのはありがたかった。


「さーて! 二層攻略しますかぁ!」


 と、意気込んだ私を待っていたのは鉱石の塊みたいなゴーレムだった。

 何でも世界で三番目に固いグラシオル鉱石で出来ているらしくて、シルバーナイフの刃なんかまったく通らない。

 どう死角を突こうが無駄だった。微転移による魔力も尽きて、私は泣く泣く逃げ帰ることにした。

 それからグラシオルゴーレムを避けつつ、二層を探索する日々が始まる。


 探索を初めて二年が経過した頃、私は自分の見通しの甘さを認識した。

 一年で一層? とんでもない。この迷宮は階層が深くなるごとに複雑化する。

 地図を作りながら、時には魔宮の途中でキャンプをすることもあった。自給自足を覚えて、ブラッドバニーの肉を保存食にして齧りながら探索できている。

 ただし悠々自適な探索とはならず、グラシオルゴーレムに追われながら必死だった。

 そしてついに大きい拳が私に振り下ろされた時、私の思考がクリアになる。拳にシルバーナイフを突き出して微転移。

 シルバーナイフがグラシオルゴーレムの拳に刺さった。


「え?」


 ゴーレムの拳が砕かれて、弾かれるようにしてのけ反った。今のは?

 シルバーナイフがゴーレムの拳に刺さった?

 いや、違う。刺さったんじゃなくて、シルバーナイフがゴーレムの拳の内側に転移したんだ。

 シルバーナイフが転移したことで、元からそこにあったゴーレムの拳が追い出されるようにして質量を保てなくなる。

 これが正しいかはわからないけど、光明が見えた気がした。すかさず落ちたナイフを拾って私は走った。


「転移ッ!」


 ゴーレムギリギリに接近したところで転移。今度は頭部にシルバーナイフが転移した。

 シルバーナイフが転移したことで頭部の質量を奪われて破壊、亀裂が走って砕ける。

 ふらふらとゴーレムの動きが怪しくなり、私は畳みかけた。


「連続転移!」


 シルバーナイフを転移させて、ゴーレムのあらゆる箇所を損壊させる。

 崩壊して動かなくなったゴーレムを見下ろしながら、私は自分の両手を見た。


「よしっ!」


 また一つ転移魔法を進化させることができた。このことをフェリルに報告すると、今夜はカレーだねと嬉しそうに尻尾を振る。

 そのカレーを作るのは私なんだけどね。


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習得 【壊転移】 物体の内側に転移させて破壊する。

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