第22話 反撃・ト・障壁
「な、何だ貴様らは!?」
「どうやってトラップを切り抜けて!?」
「か、構うな! こいつらはメルブルク派ではない、始末するだけのことォ!」
動揺を隠せない連中はワンテンポ遅れて一斉に襲い掛かってくる。
だが、そんな奴らの行動など予測済みだ。
剣を大振りの攻め込むメルブルク派の一人を軽く躱し背後へと回り込む。
即座にゼロ少女のロングソードを抜剣すると腰部に目掛けて峰打ちを叩き込んだ。
「あんたらに構ってる暇は……ねぇッ!」
嗚咽しながら蹲るメルブルク派の背中を台に飛ぶと透かさず連撃を仕掛ける。
複数の男子生徒が剣を振りかざすが動きは遅く剣筋も読め、相手の剣先から胴体まで一閃を描くように薙ぎ払う。
金属同士がぶつかり合う音が響くと同時に俺は素早く蹴り上げ相手の顎を破壊。
残されたメルブルク派も隙を与えず峰打ちを腹部へと叩き込み、最後の一人は為すすべもなく地に頭をつける。
辺りには屍のように蹲って倒れ伏すメルブルク派が俺を囲む。
骨折はしてるだろうが……命さえ奪わなければルール上問題はないだろう。
「ほら早く起きろ英雄、それとも貴方も屍になったの?」
「勝手に死人扱いされても……困るね」
差し伸べた俺の手を力強く握るとラビットは立ち上がり鋭い笑顔を見せる。
「さて、罠が大好きな女王様は一体何処にいるのかな?」
「恐らく体育館、二つの通路から一番離れてる場所だしもし戦うことになっても十分な広さがある」
俺達が突っ込んだ東エリアの場所から対極の位置に体育館は位置している。
仮に戦おうした場合、遮蔽物がなく面積的にも大きいあそこを選ぶのが妥当だろう。
「突き進むわよ、止まらずに切り抜ける」
「了解ッ!」
俺達は再び走り出す。
この場に留まり続ければまた増援が来る可能性もある。
今は一刻も早く目的地に向かうことが最優先事項だ。
「邪魔だァァァァァァッ!」
次々と視界を遮り、俺達を必死に無力化しようと迫りくるメルブルク派。
してやられた怒りを籠めて遠慮せずに次々と峰打ちを顔面やら腹部へと叩き込む。
正面突破。
脳筋と罵るなら罵って構わない。
だが時に脳筋が策略を掻き回す事もある。
現に今がそうだ。
案の定、行く手を阻むように道中には様々なトラップ魔法が仕掛けられていた。
だが、全力疾走という荒業で発動する前に突っ切ってしまえばこちらのもの。
「このチビがッ!」
「遅い」
大剣からなる横一閃に大振りによる斬撃を空中で躱すと身体を拗らせ脳天へとかかと落としを叩き込む。
最後に立ち塞がったメルブルク派の一人は鼻から豪快に鮮血をぶち撒け地面へと倒れ伏せた。
俺達が駆け抜けた痕には至る所で白目を向き気絶している生徒がゴミのように冷たい地面に突っ伏している。
「ゼロっち……意外と力技使うんだね。聖剣だってのに」
「聖剣が力技して悪い? 案外悪くないやり方よ、頭空っぽで危機を乗り越えられる」
「ふ〜ん、まっそれもいいか! 面白いし」
俺が馬鹿ならこいつも馬鹿だろう。
知的の欠片もない俺の力説をラビットは直ぐに受け入れ、満面の笑みを見せた。
「体育館はもう直ぐ、熱が冷める前に最後まで突っ切っ」
言い切ろうとした瞬間、後方から迫る殺気を感じ取り俺は反射的にラビットの手を引っ張り強引に前方へ投げ飛ばす。
直後、俺達の間を断絶するように巨大な黒い柱が地面を突き破り天井へと突き刺さる。
咄嗟に避けたものの、左腕は掠り赤黒い鮮血が制服を染めた。
「ラビット!」
マズった、反応が遅れた……!
聳える歪な柱によってラビットと離れてしまい、彼女の状況が全く把握できない。
直撃は奴も回避したとは思うが柱の分厚さからか声すらも聞こえない。
「クソっ、小癪な「止めた方がいい」」
「ッ……!」
力技で破壊しようと高火力の剣を生み出そうとした寸前、俺を咎める声が響く。
振り向くとそこにはガラスのような美しさの中性的な美少年が俺の瞳を捉えていた。
妖精のように水色に輝く秀麗な瞳の中には冷徹さを醸し出している。
手元には涅色をした美しさと危なかっしさを兼ね備えた剣が握られている。
魔力を見るにアリエストと同じくギガノ級に勝らずとも精巧に作られている剣だ。
「僕の剣が生み出した柱は音すらも遮断する。力技で破壊しても構いませんが……反対にいる貴方のお仲間も間違って斬り殺してしまうかもしれませんよ?」
「アンタ……誰?」
「申し遅れました、私はサレハ・クリスティア。メルブルク様に仕える右腕とご理解いただけると幸いです」
サレハと名乗る美少年はミュージカルのような動作で恭しくお辞儀をする。
右腕だと……こいつがメルブルク派の参謀とでも言うのか。
「へぇ……右腕の登場ね。つまりもう私達にぶつけられる部下はいないのかしら?」
「えぇ、どうやってトラップを切り抜けたのかは理解しかねますがここまで辿り着いた事には賛辞の言葉をお送りしましょう」
「そんな安い言葉を送られるくらいならこの柱を今すぐにでも解除して欲しいものね」
このサレハの言う通り、反対側にいるラビットの状況はまるで掴めない。
力技で切り抜けるのは容易だがもしラビットが近くにいれば彼女を傷つける事になる。
最悪のシナリオを考慮すると、迂闊に手を出せる場面ではない。
「申し訳ありませんが、僕の役目はメルブルク様の為に抗う者を始末すること。この柱を解除される時は僕を無力化した時だけです」
「大層な忠誠心ね。あの女にそれ程の魅力があるというの?」
「浅い罵倒、それで……あの人への忠誠心が揺らぐことはありませんが」
俺の煽りに穏やかな表情ながらもサレハはより冷徹な顔へと豹変していく。
自らの剣を演舞のように振り回すと改めて俺へと刃先を向ける。
「僕の剣、イゾルデにて貴方の命運も此処まで。冥土の土産に覚えておいて下さい、貴方を仕留めるのはこのサレハです」
「随分と……饒舌なこと」
地面を踏み込み瞬時に間合いを詰めてゼロ少女のロングソードによる一閃を振るう。
しかし、その一閃は虚空を切った。
自身の切り込みが触れる寸前、サレハの身体は黒く染まりながら消え入り、一瞬にして俺の背後へと移動していた。
即座に振り返り剣を振ろうとするが僅かに早くサレハの剣が俺の首元へと迫り来る。
咄嗟に剣を持ち替え甲高い金属音と共に攻撃を防ぎ距離を取る。
太陽が辺りを照らし影を作る中、俺は湧き出た汗を拭い取った。
「気味の悪い能力、一体どんなマジック?」
「明かす道理など、ない……!」
刹那、再び俺の視界から消えると今度は真横の日陰から鋭い一撃が襲ってくる。
ギアが上がったサレハによる洗練化された無駄のない動きの乱舞。
横薙ぎの一閃に俺は身体を大きく仰け反らせ回避するが、サレハの剣が軌道を変え追撃を仕掛けてくる。
体勢を崩した俺は剣で受けることもままならず、身体を捻らせて回避行動に移った。
気配を読むのは簡単だが奴のトリックが未だに断定出来ず防戦的な状況が続いていく。
背後や真横から襲いかかる連撃に対応するも状況は進展しない。
「僕はこの世界に絶望している」
「はっ?」
「理不尽極まりない、金によって全てが決まり貧乏人は最初から光を当てられない日々を送り這い上がれない、僕は施設生まれ、貧しいが故の悪夢と理不尽は何度も何度も味わってきた」
剣と剣が衝突し、火花が散る中、サレハは語気を強めて何かを唱え始めた。
その声は決して冗談を言っている訳ではなく本心からなるものだと俺は認識する。
「そんな時、僕の剣術と魔力を見込まれ同じく平民だったメルブルク様に拾われた。僕はあの人の描く未来に憧れた」
「未来……?」
「大人達は下らない金の絡んだ醜い権力争いしかすることがない。だからこそ僕達は純粋な力こそが正義となる世界を望んでいる。シンプルな力によって世界が決まる、それがあの人の理想であり僕の理想! だからこそいずれメルブルク様をこの国の女王にするためにこんな場所では負けられないッ!」
サレハの気迫の籠った一言に、より激しくトリッキーな剣戟へと発展していく。
後先を考えない奴の勢いに俺は強く突き飛ばされながらも体勢を保つ。
「純粋な……世界?」
「僕達のような弱者も均等に這い上がれる世界です。この理想、同じく平民の身である貴方なら共感できるでしょう?」
何とも押し付けがましく、サレハは早口で捲し立て持論を展開していた。
満場一致の美声だが今の俺からすれば聞き心地の最悪な雑音にしか聞こえない。
「その為に……執行闘争をしたと? 東エリアの占拠は貴方達が言う純粋な世界を作る拠点にでもするつもり?」
無言で首肯し、勝ち誇ったようにサレハはイゾルデを片手に不敵な笑みを浮かべる。
「この場所こそが僕達の新たな歴史の原点になる。純粋なる力だけで決まる世界、さぁ貴方も僕達の派閥に入り世界を「はぁっ?」」
「下らないな、ソレ」
そんなサレハに俺は……憎たらしいほどにウザい笑顔をぶつけてやった。
剣を肩に乗せながら呆れたような溜息を盛大に吐く。
ブチのめしたくなる、いやブチ殺したくなるくらいに最低最悪のモノを。
「若気の至りね、超しょうもない」
「何?」
「純粋? シンプル? 舐めんなクソガキ、そんな世界になってもつまらないだけよ。金で決まる世界の方がよっぽど楽園」
純粋な力による決着。
まさに三百年前の時代と同じだ。
人間と魔族が力による争いで殺し合いをしどちらが上位種なのかを決める。
経験してきたから言わせてもらうが生命が無駄に死ぬだけで何も良いことなんてない。
金による権力争いを肯定はしないが、昔よりかは血が流れないだけ十分に良い。
というか……俺は闘争の世界を終わらせる為に聖剣として魔王を倒したのだ。
こいつらがしようとしている事はそんな俺の実績を潰すようなもの。
俺の存在意義とカスみたいな三百年の封印をより空虚にすんな、このクソが。
「貴方が学園にいれるのも、美味しいものを食べれるのも、こうやって綺麗な制服を着て平和に戦いごっこを出来るのも貴方が嫌うお金のお陰よ。大人は大人らしくあの未熟な女王様よりよっぽどまともね、馬鹿みたい」
「黙れ……戯言をッ!」
効果覿面。
言葉によるものか、それとも肉体的な誘惑かは知らんがこの男があの女王様に心酔しているというのは目に見えて分かる。
そういう奴は崇拝対象に汚れの言葉を与えてやれば直ぐに理性を壊す。
「断言出来ることが一つだけある。貴方もメルブルクも大人に歯向かう自分に酔っているだけの下らない人間ってことよ。ダッサ」
「黙れぇぇぇぇ!!」
俺の言葉にサレハは激高し、今まで以上に殺意を込めた剣が振るわれた。
だが怒り狂って冷静さを欠いており先程までの洗練された動きは消え失せていた。
さて、どうするか。
奴は俺の背後や真横から瞬間移動のように現れ奇襲を仕掛けた。
まるで俺の影を追うように。
……影?
何だそうか、そんな単純なことか。
何故ここまで複雑に考えていたのか。
「落ちろォッ!」
サレハはトドメを刺そうと再び自らの身体が純黒に染まり上がっていく。
俺の考察だが……奴の剣に備わったマジックは影を司る能力。
つまり、俺の影から奴は現れる。
であるなら、俺を照らす太陽の位置から影の方向を見破れば
「そこ……かッ!」
対策は赤子の手をひねるだけ。
迷わずに俺は背後へと振り向きざまに峰打ちの一閃を繰り出す。
「ぐぶっ!?」
確かな手応えが神経を伝い、背後では嗚咽を漏らしながら腹部を抑え苦悶の顔を浮かべるサレハの姿があった。
「影を操る、それが貴方の剣の能力ね。なるほど、だからあんなトリッキーな攻撃も可能としていた訳か。いい剣ね」
「この……!」
サレハは再度剣を用いて影へと忍び込もうとするがもはや何の脅威でもない。
ロジックさえ分かれば方法は単純。
僅かに変化した気配を感じ取り影の方向へとカウンターの原理で攻撃を仕掛ける。
神出鬼没だった奴の能力もただの自滅行為と化した。
何度も何度も、影に潜むサレハへと峰打ちを叩き込み膝をつかせていく。
「行かせるか……メルブルク様の元にッ!」
口元に溜まった血反吐で地面を汚しながら彼はイゾルデを床へと突き刺す。
呼応するように周囲の影が気味悪く動くと鋭利な槍状へと変態していく。
俺を囲うように四方八方から彼の殺意が混じり混んだ物が刃を向ける。
「僕のイゾルデは移動しか出来ない陳腐な能力じゃない……! こんな事も容易に出来るんですよッ!」
敬語で隠しきれない激情的な声と共に鋭利な影達は一斉に俺へと雨のように降り注ぐ。
「武具生成、シャイニング」
しかし、影の豪雨は生み出した光輝く剣によって全て薙ぎ払われ塵と化していく。
白い刃を綺羅びやかせ空間を包み込んでいた闇を振り払う。
光属性に特化した上級クラスの剣。
この戦いには持って来いの代物だ。
「何っ!?」
大きく出来た隙。
その好機を逃さず俺はサレハへとゼロ距離まで一気に接近を行う。
「私の……邪魔すんなァァァッ!」
ロングソードへと持ち替え渾身の一撃をサレハの横っ腹へと叩き込む。
その華奢な身体は盛大に吹き飛び、骨が折れる音と共に壁へと激突させた。
鮮血を撒き散らし虫の息のような状態に見えるが、半殺し程度の傷だろう。
殺しさえしなければこっちのもんだ。
「お……前は……何者……なんだ」
「どうしようもないくらい叶えたい理想があるただの女子高生よ、バーカ」
血塗れで倒れ伏している彼を見下ろしながら俺は小さく呟く。
もう俺の声が届いているほどに意識もないとは思うが。
「闘争の時代なんて……もう懲り懲り」
いつの間にか俺を妨げていたサレハが生み出した影の柱は消滅している。
柱の彼方にラビットの姿はない。
先に進んだのだろうか。
「チッ、時間を食った……やられてたらただじゃおかないわよ、ラビットッ!」
サレハとの戦いに決着をつけた俺は直ぐ様に遅れを取り戻すべく総身を疾駆する。
あいつが簡単にやられるはずがない、そう不安混じりの願いを抱きながら__。
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