第14話 派閥・ト・画策

「はい……?」


 全く予期していなかった発言に俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。

 派閥だと? 何言っているんだこいつは。 


「オイオイマジかよ!?」


「ロキ様直々のオファーですって!?」


「そんな何であんな生娘が!」


 辺りは騒然としており、驚愕の声が至る所から耳に響き渡る。

 何でこんなにも驚かれているのかさっぱり分からない状況がむず痒い。


「もう一度言おう。僕の派閥であるロキ派に君も入らないかい?」


「ちょ、ちょっとタイム」


 ラビットの肩に腕を回し後ろを振り向き耳元に小声で尋ねた。

 

「ラビット、派閥って何?」


「えっゼロっち分からないの?」


「無知で悪かったわね! だから教えなさい何で学生が派閥なんて作ってるの」


「それは……権力争いだよ」


「権力争い?」


「ここは影響力の強い貴族の息子や分野に特化したような生徒が多い。色んな生徒を手中に収めた方が学園内の地位も上がるし自分の理想を叶えやすくなる。多分あのロキって子もそれが理由かな……ゼロっち強いし」


「はぁっ!? が、学生でしょ? 何でそんな大人ぶったことをして!」


「今はそうなんだよ多分。人によっては如何に自分の派閥を作れるか、もしくは有能な人物の派閥に入れるかが一番重要って声もある。影響力を高めるためにね」


 何だソレ……権力争いなんて大きな力に溺れた大人だけがやることだろ。

 そんな悪い意味で大人ぶってることを今は学生もしてるのか? 


「私もにわかだけどロキ派はかなり有力な派閥で入れれば安泰なんて言われてる。だから多分皆も驚いてるんだと思う」


「でも何で私? あくまで表面上は普通の女の子よ、どっちかと言うと貴方を誘う方が自然じゃないの?」


「そこまで分かんないよ別に心読めないし! でもあの人がゼロっち目当てだってことは確定でいいよきっと」


 なるほどね……魂胆は不明だがこいつは俺を引き入れ自らの立場をより上げたい訳だ。

 俺自身も大派閥に入ったことによる恩恵は得られるのだと思う。


 ウィンウィンの交渉、というやつだろう。

 

「そろそろいいかなお二人さん? ゼロ君、君自身の答えを聞きたい」


「そりゃ当然、入るに決まってるでしょ!」


「不本意だけどロキ様直々なら仕方ないわ」


「ロキ様の御慈悲に感謝なさい! 雌猫!」


 雌猫って……周囲は既に俺が入ることを決定したような空気を形成している。

 まぁきっと彼の傘下になるのが得策ではあるのだろう。


 だが、何故だろうか。

 ロキという男の爽やかな笑顔は俺にはどうも胡散臭く思えた。


「断る」


「えっ?」


「「「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」」」


 俺の一言に場は再び騒然となる。

 先程とは比べ物にならない程の動揺が波のように震えて広がっていた。


「な、何を言ってるの!? ロキ様の誘いを断ろうだなんて!!」


「別に断ったら死刑なんて法はないでしょ?だから断る、それだけよ」


「こ、この小娘! ロキ様を公然の場で侮辱するなんて!」


「無駄に周囲の注目集めたのは貴方達のような取り巻きでしょ? 私のせいにしないで」


 俺の返事を聞いた途端、周囲の生徒達は唖然した顔で罵倒していく。

 当の本人であるロキは顔を歪めたが直ぐに相変わらずの爽やかな笑顔を浮かべた。

 

「貴方が有力な派閥かどうかは知らないけど入るかどうかは別に自由でしょ? 申し訳ないけど入るつもりはない」


「……そうか、その答えは残念だけどこの場所は個々の意思を尊重する学園。君の言う通りゼロ君の自由意志を尊重しよう」


「寛大なお心遣いに感謝するわ」


 少し間をおいてロキは潔く引いたが取り巻き達は最後まで罵倒を散らした。


「ふ、ふざけるんじゃないわよ! ロキ様に恥をかかせて絶対に許さないから!」


「そうよそうよ! あんたが入らなくても他の奴らを入れればいいだけだし! 精々今回の決断を後悔することね!」


「後々派閥に入れてくださいなんて言っても絶対に入れてやんないから!」


 罵れるだけ罵ると美女達は「待ってロキ様!」と言いながらその場を去っていった。

 注目を集めていた視線も徐々に散っていき穏やかな空気が再び流れていく。


「良かったのゼロっち? ロキの誘いを断っちゃって」


「別にいいわ、なんかあの男、あまり気が合わなそうだし」


 普通の生徒を演じるならロキの誘いに乗るのが定石だろう。

 だが普通に固執して返ってゼロ少女を危ういことにさせるのは不味い。


 あの俺を目の敵にしてる女性が多い環境下ならばイジメられるのは容易に想像出来る。

 まぁゼロ少女に危害を加える者は全て捻り潰すつもりだが。


 それにあのロキの瞳からは俺に対する何か私情のような物を感じ取れた。


「別にあの派閥に入らなくてもこれだけの人数いるなら他にも有力派閥はあるでしょ? 大したダメージにはならないはず」


「まぁそうだけども……」


 しかし派閥、か。

 学生もそんなことをするとは随分とこの世界は大人になったようだ。

 

 大きな派閥を作れば影響力も高まりパイプラインが広まり理想が叶えやすくなる。

 ラビットの話を噛み砕いていればこんなところだろうか。


「ん?」


 待て、このシステム使えるんじゃないか?

 ラビットを育成するのは大丈夫だが彼女の影響力を上げる方法にずっと迷っていた。


「そうだ……そうよいい妙案が浮かんだ!」


「えっ妙案?」


「ちょっとラビット来なさい」


 誰も通らないような学園の倉庫通りの廊下へと彼女を引き連れ壁に押し付ける。

 

「貴方……派閥作りなさい」


「えっ?」


「貴方が派閥を作りなさい」


「えっと、私が?」


「そうよ」


「あぁそう……はいッ!?」


 俺の提案にラビットは端っこまで届きそうなバカでかい声を上げた。

 

「ちょっと待ってゼロっち! 一体いつ私が派閥を作るみたいな展開になったの!?」


「ずっと迷ってたの、貴方の力を強くできても影響力はどう高めればいいかって」


「まさかその答えが……派閥?」


「そう、今の私達にとって最高に都合のいいシステムよ派閥ってのは!」


 俺は彼女に派閥を作らせることにした。

 理由は単純、ここは国内でも一番のエリート校であり貴族なども多い。

 短い期間で影響力を上げるためには持って来いの最高のシステム。


「ここには貴族も多くいる。そんな場所で学園一の派閥を形成すれば貴方の名は格段に上昇するでしょう」


「いや影響力なら最終的に私が英雄としてゼロっちを殺せば必然的に上がるんじゃ?」


「ラソードは魔王を殺す過程で様々な問題を解決し世論の評価を高めていた。だから今でも英雄として祀られてる。ただ強くなって私を殺してもそれじゃ彼には届かない」


 認めたくないがラソードは大半の人間からは神のように崇められていた。

 それもこれも様々な問題を解決して民からの絶対的な支持を得たからこそ。


 だからラビットも周囲からの好感度を上げなくては超えられない。


「善行という塵を積もらせた結果、今の立場になった。貴方もこの学園において最高の人間になってから私を英雄として殺すべきよ」


「でもどうやって人集めを? まさか曽祖父の名を使うとかじゃ」


「そんなこと死んでもしない。貴方はラソード派ではなくラビット派として作るのよ」


「ラビット派……いい響き、それでどうやって人集めるの? 既にかなりの派閥が作られてるような状況だけど」


「それは……アレよ、アレ」


「アレ?」


「そうラビット、貴方が全部考えなさい」


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