第5話 頼る

僕は今、担当看護師さんと一緒に男子トイレに入っていた。


「教えるって言っても一般のトイレとほぼ変わらないから安心してね」


「変わってるとこと言えば手すりが多いとか、洋式トイレしかないとか。後は、ここにもナースコールボタンが設置されてるって事ぐらいかなぁ」


「ここにもあるんですね」


「なんかあったらすぐ呼べるようにね! 便利でしょ!」


「まあ便利ですけど、なんで看護師さんが偉そうなんです?」

「そりゃあもう私が設置したほうがいいんじゃないか? って言ったからねー!」


「じゃあ元々ついてなかったって事ですか?」

「そうなんだよー!」

「それはそれで危ないですね」

「でしょー?」


「それより説明って終わりました? トイレしたいので......」

「あっそっかごめんごめん! じゃあ外で待ってるね! 何かあったらすぐ呼んでね!」

「分かってますよ」


と、言っているが分かっていない。失敗は許されない。他の看護師さんや患者さんが通るトイレで、声を張って助けを求めるなんて恥ずかしすぎる。


まあ? 普通にやればいいだけの話だけどね。

まずは座って、済ませて、普通に立......


「あっ.........立てない」


思った以上に手すりの位置が高い。

そして手すりを持って立ち上がろうとすると肋骨が激しく痛んでしまう。

左足だけで立とうとすると、バランスが上手く取れず、壁に骨折したところが当たってしまうかもしれない。


最悪だ、恥ずかしいのは勘弁だぞ。


「奏汰さーん大丈夫ー?」


「大丈夫ですー!」


僕は恥ずかしいから嘘をついた。本当は全然大丈夫じゃない。かなり......いや、ものすごく悩んでいた。


看護師さんの助けを呼ぶか、肋骨が凄く痛くなってもいいから立ち上がるか。


「......」


「大丈夫かなぁ? 奏汰さん...」



悩んでから約10分。僕はやっぱり恥ずかしいので立ち上がろうと思い、手すりを持って立ち上がろうとすると、トイレのドアが開いた。


「へっ?」


「ダメでしょ? 何か困ったことがあったらすぐに言う! いつでも私を頼ってって言ったよね?」


静華さんはいつになく真剣な顔で僕に怒ってくれた。


「え? ......あっ、ごめんなさい」


「今、無理して立とうとしたよね? なんで私を呼ばないの? 何かあってからじゃ遅いんだから」


「ごめんなさい。恥ずかしくって」


「ここ他の看護師さんや患者さんも通るし、恥ずかしいのも分かるけど......」


「......」


「それで、トイレはすんだの?」

「...はい」


「それじゃあ支えててあげるから左足で立てる?」

「立てます...」


「じゃあはい。寄っかかってもいいからね」


「ありがとうございます」


僕は看護師さんに支えられて立ち上がり、トイレから出た。


「車椅子乗ってー」

「はい」

「痛くならないようにゆっくりね」


いつも通り優しい静華さんに戻った。


「よーし! 案内も一通り終わったし、ていうかもう夕方だし、部屋に戻ろ?」


「うん。​​......あっ!あの......」

「どうしたの?」


図々しいかもしれないが食べたい欲求が抑えされずに奏汰は言ってしまう。


「​......イチゴアイス」


「あー......明日にしよっか? もう夜ご飯の時間だし...」


「......分かりました」



「あっ! そうだ。さっき頼ってくれなかったし、明日は私を頼って生活してみよっか?」


「え......無理です。不安でしかないです」


「ダメだよー。ちゃんと私を頼って生活してね? じゃあ晩ご飯持ってくるからー」


「あ......はい」


返事する隙もなく言う事だけ言って行ってしまった。



その後持ってきてくれたご飯の味は覚えていない。――ちなみにオムライスとサラダだった――


頭の中で不安と心配が右往左往して眠れない....! と思っていたが気づかないうちに寝てしまっていた。疲れていたのだろう。



そして朝がやってきた...。


「おはようー! 奏汰さん。今日もよろしくね!」


静華さんは朝日のような優しくて眩しい笑顔で僕に挨拶をしてくれる。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがきです。


こんばんにちは、どうもまどうふでござる。


こんな看護師さんいたら入院も苦じゃないかもですね!


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