第弐〇話 チェイス

「どうしてどうして、いつも上手くいかない!」


 ウナのM/Wが上空に向けてビームブライトを放った。その行動は彼女の幼さから出る一直線の思考が『悔しい』と感じたからそうさせたのであって、その行為に意味があるわけではない。

 感情がコックピットのパネルや操縦桿、モニターにヒビがヒビができようとお構いなしに彼女に激しく叩かせた。彼女の拳は自らの血で赤く染まる。

 不安定な彼女は極端に性格が変化するのだ。

 そんな彼女を知るユナはM/Wを取り押さえ接触通信である『E.T.通信』に切り替えるとなだめる様に優しい言葉をかけ、味方の輸送艦に出向命令を出す。ソレに応じたのは艦の責任者と同程度の権力が与えられたドワイトである。


「また……しくじったというのか?」

『ええ、言い訳をするつもりはない……』

「当然だ。なぜ失敗の言い訳をわざわざ時間を割いて聞かなければいけない。そんなことより俺は貴様らには何ができるのかという話題の方が興味があるぞ……出来損ないを買ってしまったが故に返品するには正当な理由がいるからなぁ」

『相手が悪いだけで私は成果をあげている!』

「ウナァ……お前ほど性格に難ありの者はもっと俺にペコペコしておくべきだぞ。俺の報告1つでお前の今後の扱いが決まる、研究所には性格の矯正を新たな項目として組み込ませられる」


 顔を合わせない通信でもわかる絶句……反論の言葉が出てこないところを見るに今後の態度は少し変わることだろう。

 調整されて目覚めたDP(デスペルタル・ヒューマン)の性格は深く関わった人間に似ると言われている。その人間を知りそこから他の人間を知ることができるようになるのだろう。

 赤ん坊が親を見て感情を知るようなことだ……。

 ウナ、ユナ共に『同じ人間と関わりその関わった人物に性格が似ている』と俺の手元の資料、ウナとトレスの姉弟を地球に送り込む際渡された物にはそう書かれていた。しかし、実際はウナの方が子供でユナは大人だ。

 資料を書いた者がそれぞれ別人で主観の違いによる誤差もある……だが、研究所に確認をいれたがどいつもこいつも口々に同じだと答えやがった。これだとこの2人が異常なんじゃなくてその関わった人物が多重人格者であると考えざるを得ない。

 未だに誰が関わっているのかわからないが、ウナを甘やかしユナとは大人な関係を構築できたソイツは一種の人体実験を行っていたのではないのか?そう勘ぐってしまう。

 なぜトレスは違うんだ……ウナと血を分け合っている姉弟であるはずなのにアイツはまだ大人だ。

 DPには謎が多くて困る……。


「なあトレェス……お前と姉はどうして違うんだ。姉の方がお前よりお子ちゃま、精神が未発達なのは誰の影響だ?」

「姉さんを悪く言うか……」

「お前は知っているのだろう?姉と関わった者を」


 丁度部屋に居た弟のトレスにそのことを聞こうとするが、絶対に口を開かない。しかし、嫉妬にまみれた表情はその人物が男であったことを言葉なしに証明する。

 男であるなら簡単だ……ソイツは男特有の『子供らしさを兼ね備えていた』で説明がつくからだ。ソレをウナは引き継いでしまった。


「そうか……そうかぁ……可哀想にィ、トレェスお前は姉をソイツに奪われていたんだな?どんなヤツだった思い出してみろ……ソイツはどこにいる?」


 ドワイトは彼に近づき顎を掴むようにして尋ねる。そうでもしなければ口を割らないことは同じ船に乗ってわかったことだ。何か過去のトラウマを引き出してやらなければコイツらは口を開かない。

 そのトリガーは顎を掴み優しく問いかけることだった。

 すると見る見るうちにトレスの額にはびっしょりと汗が浮かび上がり、顎がガタガタと震え始める。


「宇宙でΔデルタに所属していたなら知っているはずだ……ソレに地球でもアンタはその男と戦っている」


 3年前まで俺の所属はΔだ。Δは主に月と地球の軌道上に存在する3つの資源衛星の警護などを任されていた。

 月でもエリートパイロットたちは2年の訓練を経てΔに所属する……皆の憧れで給料も良く何より戦うことができるから俺は入隊した。当然選ばれし者だけが入れるΔ部隊は月であの頃はジョークとして「宇宙では負けなし」と、地球が攻め込んできてもソレを撃退できると思われていた。

 しかし、そんな誇りもたった1人の男に宇宙で1部隊を壊滅に追い込まれたことで地に落ちることとなる。

 Δと新人訓練兵が数時間のうちに20名以上が宇宙の星に変えられた事件。兼城の令嬢、いや元会長が飼っていた怪物が脱走したあの日だ。

 まさかその男……?

 納得がいく、この間のアイツはそうだったのか。

 俺は自然と笑いが込み上げてきた。腹の底から大きな声で笑った……涙が出るほどに下品に。

 やっと見つけた……やっとアイツらの仇の居場所を掴むことができた。怪物はまだ生きていたのだ!


「ユナ、あの軍人どもの行先は?」

『恐らく日本連合かと……補給と新型を受け取りに』

「新型?お前が出雲で得た情報か」

『はい、隊員の中でもその話はよくありましたから』

「出航の準備だ……行先は出雲。異論のある者はここに置いていく!」



 島を出航しはや2時間が経過、依然として敵の奇襲を警戒するLEWの新星たちはジェットフラットにM/Wを乗せコックピット内で軽食をとる。その際もアンテナは最大に敵影を確認するが、今のところそれらしき影は映り込まなかった。

 腕を破壊されたアレックス機にメカニックマンたちがバウンディードッグに張り付き修理をおこなう。彼はその時間を利用し船のブリーフィングルームで保護されるドットの顔を見に行った。

 長机にマリンと2人で座るドットだったが、その表情には思春期特有の女性に対する反発心と男としてヘマできないといったプライドが見え隠れする表情で常に緊張している。


「変わるぞ」

「もうちょっとだけ、彼の言っていること段々わかってきたの」

「まるでエスパーみたいに……」


 「彼の言うことがわかってきた」これは言葉通りにそのままである。ドットは俺たちの言葉を理解するが、彼の言葉は俺たちには理解ができない。

 単語であることはわかるが、それの持つ意味を理解することができないのだ。

 そんなドットを精神が未成熟だと判断したマリンは彼にパズルを与えた。すると彼はソレを裏返しに作り始めたのだ。パズルを知らないわけでもなさそうで組み合わさっているところを見るに何をする物なのかは理解している。

 だが、パズルってのは絵を完成させるのが目的なんじゃないか?

 そんな風に考える俺とは違って、本来の遊び方から逸脱したドットはわずか数分で1500ピースのパズルを裏返しで完成させた。その手際は最初から絵が完成していてピースを手に取った瞬間どのピースがどこに嵌るのか理解しているようだった。

 これは彼の才能なのだろうか。


「凄いな……」

「ね、すごいでしょ」


 褒められたことを知ると彼は少し頬を赤らめ照れた様子を見せその場から逃げ出そうとするが、彼はまだ監視保護の対象であるためこの部屋から勝手に外出することは許されない。必ずマリンがついていくことになっている。

 しかし、彼はそんな頼んでもいない監視に文句があるようでどこまでもついてくることに不満を単語だけで抗議した。

 これも不思議なことだった。俺たちの言語は理解できる、少し訛りがあり丁寧とは言えない英語をつかう少佐の友人である星那の言葉も理解している。それはあの会話から何となく察していた……だからこそ彼が自分の言葉を話せないことが不思議だったのだ。

 彼に質問をしようとする俺だったが、ソレを遮るように船内アナウンスが俺を呼ぶ。俺のM/Wの修理が完了したのだ。


「行ってくる……ソイツを頼むぞ」

「気を付けて」


 船内を移動しM/W格納庫に向かうと作業を終えたメカニックマンたちが休憩をとっていた。

 俺は彼らにお礼を言ってコックピットに乗り移る。

 モニターをつけると誤差は1.2秒、操縦桿を動かしたよりも少し腕のズレが発生していたがソレをカバーするのが俺らパイロットの役目だ。一通り動かし終えるとM/Wを吊るすハンガーの拘束を解きデッキに上がるためのエレベーターに機体を乗せる。

 M/Wが上昇するのを体で感じた。


「アレックス、出るぞ」


 ジェットフラットに機体を乗せて発進するアレックス機に整備兵が合図を送る。


「ハイネム、チャド、敵の動きはキャッチできたか?」

『いや、こっちの方角は全くって程なにも動きがない。諦めたんじゃないか?』

『…………?何かが島の方角で動いた。レーダーに反応あり、未確認の船だ』

「やっぱりか……」


 予想通りM/Wが島にいるならそれを運ぶための船があった。


「その船から敵が複数出てくるはずだ……さっきの2機だけじゃない」


 アレックスの感じ取った通り5つの機影がモニターで確認され彼らはすぐに戦闘態勢に入る。彼らの目的地である日本の領海に入るまで残り数時間、それまで敵の攻撃に耐え集中力を維持しなければいけないのだ。

 モニターの情報だと敵のM/Wは足が速い……既に半分の距離を詰めていた。しかし、迎撃にこちらから仕掛けるのは補給艦でもある船から離れることとなり防衛には適していない。

 なら、船からできるだけ離れずけれども近づけ過ぎない絶妙な距離を保ちながら警戒網を張る6機で戦闘をする。


「ガスト、チャド、俺と前線だ。ハイネム、ウォン、フロフラワは後方で支援と船の防衛を頼む」


 誰一人として文句は言わずそれぞれ与えられた役割を全うすることに神経を注ぐ。高火力武装を持った後方支援組と軽装で必要最低限の武装により素早い行動をする前線組、この役割は訓練で決められていた。

 つまりは操縦が上手い奴は前線、器用な奴は後方支援ということだ。下手だからというわけではない……俺たちは生き残る戦い方をする。それが他部隊との違いだった。

 先陣を切るのはガストだ。

 ジェットフラットのスラスターが空中に光の線を残し、遮蔽物のない海の上をスレスレに飛行する。ソレに俺たち2人は続く。

 すぐに敵の機体は目視できる距離に近づいていた。視界に入った瞬間M/Wの手に持つビームブライトで攻撃を始めるとすれ違うように光の束が通り過ぎる。

 自分たちの考えていることは相手も同じく考えている。

 すぐさま全機が分散して被弾を回避するが、敵も同じく回避しながら攻撃の手をやめない。

 数が多い分相手の方が少し有利だ。ジェットフラットにはビームブライトの光線が一発でも当たれば破壊されるぐらいには安く脆い、だから慎重に戦闘をしなければ月の超技術の前で散ることとなってしまう。

 緊張感は訓練以上だった。模擬戦として1対複数というのは何度もやってきたし、英雄相手の1対複数も熟してきた……しかし、英雄にだけは束になっても勝てていない。

 相手に英雄以上がいないことを期待するが、そう現実は甘くはなかった。1機だけプレッシャーが違う、明らかに強い気配が近づいている。


「ガスト、チャド感じるか!?」

『ああ、どうやら本気らしいな』


 勘の鋭いチャドにはソレが感じ取れたらしい、フラットの旋回をおこないながら牽制射撃をそのプレッシャーへおこなっていた。

 だが、どれも躱されている。さっきの2機は見当たらない、だが今回のその1機はそれ以上の殺気で簡単には逃がしてはくれない様子。


「殺気!?」


 1機に気を取られ過ぎていた上空から接近する他と違うカラーリング、青い新型の強襲を受ける。寸前で敵の殺気に気が付けたからいいもののヒートエッジを構えられなければコックピットごと一刀両断されていたことだろう。

 右腕のズレを気にしてヒートエッジを左手の袖に隠していて正解だった。

 マッドの干渉がモニター越しにコックピットを明るくする。


「お前はあの2機と同じ!?」


 誰に聞いたのか、回線を開いていない状態で敵とのコンタクトは取れないのでこの声は誰にも聞こえていない。もしかしたら自分なりの確認だったのかもしれない。

 何を根拠に先刻の島で接触した2機と同じというのかは自分でもわからないが、確かに一緒だ。奥から近づいてくる気配より上か下か判断ができないが強いのは確か。俺の行動をソイツは読んでいた。

 ヒートエッジを振り払いフラットを後退させ距離をとりながら射撃する。しかし、光線は空を切り本来当たっていたはずの敵は急速接近をしていた。

 空中での体当たり、機体同士の接触でコックピットに伝わる振動は脳を揺らす。突進によってフラットから離れた機体であったが俺1人で海に落ちるつもりはない。青い機体のスラスターテールを掴み落下する。

 総重量58tを超える機体が2機も同時に落ちれば発生する水柱は砲撃と見間違う。

 海に落下しようが戦闘に休憩はない。すぐさまフラット側のパネルを操作しの単独飛行でフラットを海面スレスレへ移動させる。

 水中での性能は少しだけ軽いのかバウンディードッグの方が優位で沈む青い機体を横目に水上で待機するフラットの吊り手を掴む。


『アレックス!あの2機が船に向かっている』

「なに!?」

『すまねぇ!こっちの1機が強すぎるんだ!』


 あのプレッシャーを放つヤツは本当に強いようだ。2機を相手に善戦している。

 海面に上昇した俺はフラットを盾に足元から支援射撃をおこなう……しかし、優先順位は変わらずチャド機を優先的に狙う。

 圧倒的技量……確かにユーラシアとアメリアの兵を合わせても南アメリアとの戦争が終わらないわけだ。これだけのパイロットが月から降りてきているなら苦戦もする。

 そんな前線が苦戦を強いられている中で同じく船を守る後方支援もたった2機に苦しめられていた。

 日本の領海まで入れば……後は彼が何とかしてくれる。あと数百km、時間にして2時間だ。

 船からも砲撃を増やし2機を近づけることはないが、被弾がないわけではない。2機のうちジェハザと呼ばれる機体によるバルカンの弾が被弾したが、船の速度が落ちるような致命傷にはならなかった。

 キャプテン曰くこれ以上スピードを上げることはできずやはり日本領海までは2時間はかかるようだ。

 前線にM/Wの操縦トップレベルを送り込み過ぎたのも原因なのか……いや、後方支援だからと言って彼らが弱いわけではない。相手が強すぎるのだ。

 そんな状況の中で部屋に入ってきたのはマックとなぜか保護観察対象のドット。


「ケネス……俺らも出る」

「マック!?ソレにドットは何をするっていうんだい……まさか彼も?」

「マーワ!乗る、勝つ!」

「ああ、ブランクはあるがM/Wは俺の手足だ。戦って慣らす……それにコイツには才能を感じた」

「…………予備の旧式があったはずだが、それでいいのか?」

「旧式の方が体に合っている」

「で、彼は……?」

「こいつも同じのに乗せてやる。先にマリン機は出た後方は残った機体で守ることにした」


 そう言って巨漢の英雄が少年を連れてM/W格納庫へと向かった。

 格納庫ではメカニックマンも警報を聞き休憩をほっぽり出していつM/Wが収容されてもいいように緊張感が高まっている。それを横目に頼もしく思った英雄は自分を待つ旧式M/W、ハウンゼンのコックピットに乗り込む。

 現在を牽引する第2世代よりも古く、余計なモノを搭載しないことで軽量化を進める現代とはそぐわない無骨なM/W。洗練されたとは言えぬが、男たちのロマンを詰め込んだ男のための機体は数年ぶりに自らを駆る主人を見つけ興奮している様子だった。

 背中のバックパックに搭載された核融合炉が心地よく音を響かせる。

 そうか、お前は俺を待っていたんだな。

 コックピットモニターを撫でながら意思を通わせるかのようにハウンゼンに話しかける。


「ドットと言ったな……さっきのシミュレーション通りの動きをすればいい。前に出ても構わないが、勝手に出しゃばって死ぬなよ!」

『習った!習った!撃つ!勝つ!』


 隣に残されたハウゼンにもドットが乗り込み既に無線の位置を理解していた。

 彼女の助言通りだ……彼には才能がある。

 彼女とはもちろん彼の世話をしてきたマリン士官候補生、彼女は才能を見抜き敵が来る間何度かブリーフィングルームのシミュレーションで彼に戦闘を体験させていたがいずれも高得点であったと言っていた。

 こんな緊急事態で藁にもすがるつもりなら使える人間を使わなければ勿体ない。


「出るぞ!」


 水中からの出陣だった。フラットで水中から飛び出した2機は足元からの奇襲に成功する。

 予測できておらずソレがわかりやすかったのは赤い新型機の方であった。長年の勘からか、そのパイロットは幼く感じる。しかし、もう1機のジェハザは動じていない。

 それにしてもドットのセンスには目を見張るものがあった。

 まだ視界に入っていなかったはずなのに、水中からまるでそこに居ることを知っていたようにビームブライトを赤い機体の方へ命中させたのだ。

 命中と言っても敵のビームブライトを弾いただけだが、初めての機体でもう順応していることは素晴らしいことだ。おまけにフラットも使いこなしている。


「ドット!接近戦は得意か?」

『剣!刀!セナ!』

「セナ?誰だか分らんがソイツに習ったのならその実力見せてみろ!』


 ドットのフラットの速度が上がり標的は赤い方だった。

 ヒートエッジを構える隙も与えず接近し振りかぶると赤いM/W肩部の装甲が接触し融解する。

 一番驚いていたのはそのパイロットである。水中からの奇襲に気が付かずおまけに短時間でM/Wに傷をつけられたのだから。


「コイツ!殺さなければいけない、私の中に侵略してくる!?やめて、言葉が……聞こえる!」

『落ち着きなさいユナ!その声は逆らったらダメ……』

「うるさいうるさい!消えてなくなれ!」


 取り乱した様子で赤い機体がビームブライトを四方八方お構いなしに乱射する。たとえそれが僚機であるはずのジェハザに当たっても構わないといった様子だ。

 しかし、ドットはその光線の雨を躱しフラットの加速と減速を駆使しながら赤い機体だけを狙い接近する。

 スラスターで接近ができると判断したドットはフラットからM/Wをジャンプさせると伸ばした腕で敵の頭部を固定しヒートエッジを突き立てる。

 赤いM/Wの頭部が融解し赤く液状化した装甲が飛び散った。

 メインコンピューターが詰め込まれている頭部が破壊されればM/Wは動くことはできず、ドットにトドメを刺されたM/Wはすべての機能を停止し足掻くこともできず海に落下する。

 予想以上の活躍に度肝を抜かれたが、同時に自分の目は節穴でなかったことに安堵した。敵は残り1機になりソレが不利だと理解するジェハザは後退を選択する。

 相手もできるパイロットだった……。


「お前たち警戒はまだ解くな……ドット、お前は一度船へ戻れ。俺は落下したM/Wを探す」


 俺は機体を海に潜らせ赤いM/Wを探す。

 日光の届きづらい暗闇が広がる海中はライトがなければ進むことができない。海中に広がるサンゴ礁の大地に足が触れたM/Wは持っていた武器を構え見えない敵を警戒する。

 刹那、マックの構えるビームブライトの光と交差する一本の光。仲間が赤いM/Wを回収しに来ていた。


「今、俺たちに奪われるのはマズいってか……」


 はるか先を既に先行するもう1機に彼のM/Wが追い付かないと判断し彼らの残していった海底に沈むノズルと武器を回収し彼も船に戻った。

 久しぶりの戦闘は体に応えた……特に脳みそ。ドットの援護をするついでにジェハザへ喧嘩を売ってみるが相手にされなかった。

 何をするべきなのかが良く判断できている。ソレに俺が銃口を向けた瞬間には回避行動をとられていた……アレはエスパーかそんなのだ。俺の脳みそを覗いているに違いない。

 だから後方を担当する彼らの攻撃が当たらないのも納得がいく。

 猶更、ドットの才能がアレを上回っていると考えると頼もしくそして不気味に感じられる。

 格納庫でコックピットを開くと敵を撃退したドットを英雄の如く扱うメカニックマンたちが彼を取り囲み称賛していた。褒められるのが苦手なドットは逃げ場のないことにあたふたしながら小さく縮こまっている。

 ほほえましい光景だった。


「ドット……よくやった」


 俺は力いっぱいに少年の頭を撫でブリッジに向かう。

 ブリッジはドットのおかげで一先ず目の前から敵が居なくなったことに安堵していたが、先発部隊つまりは前線へ向かった3機の戦況が芳しくないことを心配している。


「マック、お疲れ様。彼の実力を疑っていたが予想以上で少し引いているよ」

「ああ、俺もだ。あそこまでとは思っていなかった」


 2人は顔に笑みを浮かべていた。


「日本の領海にまもなく侵入します!」

「よし!気を付けるんだ……俺たちは正式な客人ではない。彼が居なければ寄らなくてもいい場所だ。余計な争いを持ち込まないよう注意しろ、アレックスに撤収命令を出せ!」

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