第壱一話 アマテラス
「ユナ、アマテラス砲準備はよろしいですか」
『準備完了……いつでも撃てます』
ユナはアマテラスの銃座に腰かけ数十km先の目標を狙う。頭に下ろされたVRモニターが鮮明な映像で伝説上の生き物であるはずのケンタウロスを映し出す。
同時に漆黒のボディを有するずんぐりむっくりな彼のM/Wが戦闘を行っているのも確認できた。優勢なのはM/Wの方で二回りも大きさが違う相手でも力負けせず、それどころか突進や重たいパンチによってαを怯ませている。
しかし、M/Wが1機だけではここまで優勢を保つことは不可能だろう。全ては映像に小さく飛び回るコバエのような彼が援護していることが大きい。ずっと観察していれば弱点を正確に狙って動きを何度も停止させている。
「狙えと言ったのはアナタです……よね」
似ている。
夏樹は言葉にしなかったが星那の作ったアマテラスを見てそう思った。
エイリアンのキメラ、地球に攻め込むエイリアンの死骸を流用し四足のサソリに巨大砲塔を設置させる彼は深瀬幸一に似ていた。
幸一と星那。どちらも結果のためなら過程を気にしない点において二人は似ていた。倫理も道徳もドブに捨て夢を選ぶ……ある意味では人間のあるべき姿がこの二人なのかもしれない。
貪欲に理想を追求する二人の考えは正しいモノなのだろうか。
ただ、アインシュタインが彼らの野望を覗いたとき絶句することは間違いない。
机の傍らに設置されているアマテラスのエネルギーを表す計測器の針はそろそろ最大を指す。
開発説明の段階から彼の作った物であるから建物一つを破壊する程度ではないことは悟っていたが、
いや、あの男のことだ……そうとも言い切れないのが恐ろしい話だ。
彼の乗るD2は世界初の有人大気圏突破M/Wだ……自分一人生き残ることくらい計算している。
「ユナ、二撃目はないと思いなさい。エネルギーを大量に消費するアマテラスは再充填に時間が掛かる」
『わかりました』
無線からは感情のない返事であった。
神白ユナ。年齢とここで測定した身長体重以外は不明……星那のようにデータが消されていたが、彼のように改ざんは上手くなかった。どこかの派閥が関わっているのは確かである。
彼女がどんな人間であるのか一目でわかり、恐らく彼は私以上に彼女という存在を嫌悪していたはずだ。
まだ確信がないから私はあの時、彼の問いに答えられなかった。だが、こんな状況で彼女以外にこの役が適任な者はいない。彼のお気に入りである中尉なら猶更、乗せることはできない……彼女という人形であるから乗せられたのだ。
彼は怒りを露にした。
『星那さん……まだ掛かりそうですかね?』
「今精一杯頑張っている!それよりアマテラスの出力は5だ、間違っても10になんかするんじゃないよ!』
『伝えておきます。なるべく早くお願いしますね』
僕は彼女の無神経な言葉を罵るのを我慢して苦戦するD2の援護を続けた。
αはD2のパワーで抑えつけることができた。
そこからD2は回転する拳をαにぶつけると拳から衝撃波を放つ。磁力を最大まで高めて放つ一撃はアルファに掴まっていた僕の体を地上から40mも浮かばせる威力だった。腹部に感じるパワーで浮き上がった僕をD2は空中でキャッチするとコックピットに収容する。
度重なるD2の攻撃と航空支援攻撃で何とかダメージが入っているようだが、すぐに自己修復を行うヤツはやはり独自に進化を遂げた生き物と言わざるを得ない。一体どんなナノマシンを利用すればすぐに修復できるのだろうか、敵でありながら僕は神の使いとやらの技術に思わず拍手を送ってしまう。
AIってのはやっぱり怖いな。D2の感情を作った技術者で研究員が言うのもあれだが、生き物と人工知能。感情を持ち、思考を持つモノが僕は怖い。
そして、AIを作ったのは人間だ。
僕は彼らAIに感情を与える研究もした。人間とAIは手を組めば最強になる……神にも抵抗することができて、二度と『天罰』を起こさせない。そう思っていたが、彼らに知能を与え感情を与えたらそれは生き物だった……。正直完成品は思っていたのと違い気持ちが悪かった。
「もっとキミは頭がいいと思っていたよ!」
星那は愚痴をこぼす。誰に対してバカと言ったのか彼の相棒は気が付いていない様子だった。
コックピットのシートに座った僕は操縦桿を握り目の前のαをどうするかに意識を向けなくてはいけない。
アレだけ優勢だったパワー勝負だが、段々と押され始めている……。動力源となる僕自身が疲弊によって弱っていることが原因だろう。時間がない。
僕はとにかくD2の持つ兵器を使用しαの脚部を破壊することに専念する。
D2の手首から現れたバルカンや脚部内側に隠されていた重火器を惜しみなく使用し、明るい太陽の下弾丸が光り輝きヤツの体に直撃する。だが、ヤツの装甲を強化された弾丸でも貫くことは不可能だった。
巨大な弾は跳ね返り地面を揺らす。空の薬莢が車を潰し廃墟となったビルにぶつかっては錆びて脆くなった鉄筋が折れ次々に倒壊する。
僕はモニターの弾数表示が次々にゼロを表示し始め内心少し焦っていた。弾数がなくなろうが勝敗にあまり関係がないのだが補充が面倒なことを思うとなるべく無駄撃ちはしたくない。
「ヤバイ弾がなくなった!」
ソレは本音であった。
弾が尽きたことを悟ったαは再びD2の手を掴み今度こそ破壊しようとし始めた。妙に生物らしい顔面をD2のバイザーカメラに近づけ唾液のようなオイルのような液体を付着させる。
非常に不愉快だ。
「負けることはないだろうが、これは非常に嫌な展開だ。困ったな」
『そうですね……』
異常なほどに冷静な僕の脳はこれからの作戦を練り直す。D2とヤツが再び掴み合いとなった今、本来ならピンチだ。しかし僕はこれでいいのかとも思っている。
今回の目標は目の前のαを消す、つまりは倒すことだ。
僕がこいつの動きを止めている今ユナくんがアマテラス砲を使用する。
完璧じゃないか……。
僕はこのまま掴み合いを続行しユナくんに合図を送ろうとしたそのときだった。
『諦めんじゃないわよバカ!』
本部にアマテラス発射の命令を出そうとしたそのとき、無線に入ってきたのは女性とは思えない乱暴な言葉遣いと勇ましい声。レディに仕組んだヒートナイフがアルファの頭部に突き刺さる。
誤算だった。彼女はまだ残っていた……。
穂乃果は破壊された脚部の代わりにスラスターとブースターを巧みに使いここまで移動してきたのだ。
『アンタ天才なんでしょ!?ならこの状況なんとかしなさいよ!』
「なんとかしろ」と、言われても僕は何とかする気しかなかった。
責任感のある彼女のおかげでその手段を失ったくらいだ。
「ハハッ!穂乃果くん……いったい誰が諦めるって?計画がすべてパーだよ!」
『え?』
「まあ、いい……キミなりの恩返しなのだろう。その気持ちはありがたく受け取るよ」
彼女なりの優しさだ。素直に受け取って彼女が責任を感じないよう新たな作戦を考えればいい……。
仕方ない。
「相棒アレを使うよ誤差の範囲だ!」
『G/Dシステム起動。パイロット負荷にご注意を』
星那は誰にも見られないコックピットの中、興奮した様子でヘルメットを脱ぎ捨てる。深紅の瞳が自ら光源となり薄暗いコックピットを若干明るく照らす。
システムを起動させたそのときD2の拳が分裂する。細かくなったパーツは磁気でまるで意思を持っているかのように空中で浮遊を始め付近に存在する者すべてに届くコイル音を発する。すると、突如回転をやめ空中で停止した拳の破片が腕に再び収納されると、D2の熱排出量が上昇し機体に亀裂が入ったようにも見える。亀裂からは青白い光が漏れ出ると大気を揺るがす熱を放出しながらαに再度体当たりをおこなった。
一瞬優勢を確信したαは油断をしていたのか、負けるはずのないパワー勝負でD2に負け市街地から徐々に離れ始める。四脚で堪えようにも低い位置から押し上げるように相撲の押し出しを行うD2の前には無力。前足が完全に浮き上がり遂には後ろ足のパーツが破損し露出したケーブルから炎が上がる。
パイロットとM/Wのリンクを強化するG/Dシステムを使用する星那の脳に回路があるならとっくにショートしていた。鼻血を吹き出しながら狂った瞳で操縦桿を握りそのビジョンをD2に送る。
普段誰もが彼のシルエットを見て障害と思うようなそのずんぐりとした輪郭が突如歪に変形をはじめ、彼の腕を拘束するように取り付けられていたパーツが解放され隠されていた二本の腕が現れた。
二本の腕でαの腕を拘束し新たな二本の腕で上半身を抱きかかえる。もうこうなってしまったら誰であろうとD2から逃れることはできない。
「誘導する!穂乃果くんは巻き込まれる前に撤退しろ!」
『え、巻き込まれる!?わ、わかった!』
最大出力のスラスターで加速を始めたD2はαを抱え目的の場所まで誘導を始める。途轍もない重力加速度によってスーツがなければ内臓が押しつぶされていたことだろう。
コックピット内で嘔吐してしまった。最大出力はそれだけ僕の体を破壊する負担の大きいモノだったがαに取り付けられたカメラでこれを見ている彼らには丁度いい牽制になるだろう。たっぷり彼らが採用しなかったD2の強さと地上の持つ最大出力兵器のコンビを見せつけてやる。
「ユナくん今だ!」
星那の無線を合図にユナはトリガーを引く。彼女は星那に言われた通り彼も一緒に狙ったのだ。
刹那、恐るべき力を秘めたビームが、巨大な砲口からその破壊的な光と熱をまとって前進する。進行するビームの周囲はまるで炎のような輝きに包まれ、その照射される地面や物体は瞬く間に液体のように溶けてしまうかのようだった。
そのビームが進む先にあるものは、まるで時間の流れが急速に加速するかのように、瞬く間に無に帰していく。建造物の壁が溶け、放置された車は炎上し、街路が灼熱した地割れに変わっていく光景が広がる。ビームの進行は、生命や物質の存在そのものを消し去る壮絶な力の現れだった。
進む先に立ちはだかる建物や障害物は、その抵抗をものともせずに溶け去っていく。ビームが触れるものは、まるで瞬時に炎に巻かれたかのように融け、灰になる。進行するビームを防ぐことはもはや不可能であった。
『ガ、ガアアアアアアア!グガアアアアア!』
消滅を免れるため腕を伸ばし自らの核を守ろうとする行為も虚しく、その巨体は光に包まれバラバラに砕け散っていく。αの背後に聳え立つ山の土が熱光線によって融解し赤く光輝きながら飛散する。
いったいどれだけの生物が光に包まれ跡も残さず消滅したのか。そこに生きていたという痕跡を探すことは困難となる。
光の観測は3kmは離れたはずのレディにも観測することができ、コックピット内の気温は危険な状況まで上昇していた。
「す、すごい……なんて兵器なの」
そこにあったはずの山が三日月形に削られ若干未だ地面が熱によって赤く染まって残されていた。
あの一体……α型1体に向けて使用していい火力ではない。逆にこの火力がなければ倒せるのか危うかったあのα型が恐ろしかった。
この戦闘に関わった者、周囲の空気を引き締め、立ち尽くす者たちの心に畏怖の念を抱かせる。全ての者たちは星那という一人の男に自分たちはリードを繋がれていることを実感したのだった。
『システム再起動中……損傷確認。損傷は計24か所、いずれも深刻なダメージ……パイロットの生命維持装置は問題なく稼働中』
意識が朦朧としている。今生きているのか生きていないのか、相棒の声を聞いている限り僕は生きていると考えていいだろう。
体は動かない。衝撃のせいなのか、急激に上昇したコックピット内の気温のせいなのか定かではないがこうして思考には問題がないことを一先ず安心する。やがて生命維持装置が作動し呼吸が落ち着き始め言葉を紡ぐことができた。
「やあ、相棒。どう、やら生き残れた……よう、だね。今は地中かい?」
『ハイ、マスター。命令通り地中に潜ることを優先しました……腕はメインを失いましたけど』
「そんなのまた作ってやる……致命的な損傷を報告してくれ」
『肩部の融解を確認。内部の弾薬は撃ち尽くしていたので誘爆の可能性はありません。続いてコックピット付近を掠めたためその辺りにあった部品はほとんど機能しません……というより失いました』
穴掘り名人の彼を引退後は工事現場で働けるよう手配してあげよう。そっちの方が彼の為でもある。
そう呟くと星那はモニターを叩くがD2のメインカメラは完全に死んでいた。それは地中に潜っているからではなく、長年の勘から感じ取った機械の不具合。
たとえ装甲などの素材にナノマシンを利用しているD2でもシステムや回路の修復を行うことは不可能で今回の原因は恐らくメインカメラが光線によって焼けてしまったのだろう。緊急時に使用するサブカメラも同時に焼けてしまったおかげで相棒の利用するのは人工衛星から盗んだカメラをリアルタイムで解析して自分の位置を特定するという荒業でエイリアンたちの確認を行う。
画面に映るのは青い点……自動的に識別をした結果は味方機だけだ。
「αは消えたってことでいいんだよな?」
『恐らくは……地中に潜ることに専念していたため最期を確認することはできませんでしたが、私より装甲の薄いヤツではあの光線を生き残ることは不可能かと』
「アレより硬いキミの装甲に感謝だよ」
『地上へは出ますか?』
「地中は落ち着くが暗闇は嫌いだ……キミに任せるよ」
行動のすべてを委ねられたD2は損傷した部位を庇いながら迷わず地上にあがることを選んだ。カメラのやられた彼は盲目であるため衛星を駆使しながらなんとか自分の位置とその周辺の景色を把握する。
一連の判断は主人の矛にも守るための盾にもなれないガラクタになることを恐れる彼の本能的な行動であった。
しかし、彼が何を選ぼうが彼の収容する主人は彼の判断に口を出すことはない。彼の判断こそ最善の行動と信じているからだ。
傷だらけのボディをすべて地上に晒し、コックピットのキャノピーをゆっくりと開く。もう作戦開始の頃真上に見えていた太陽は今は夕日となって沈み始めていて、その夕日に重なるよう哀愁漂うM/Wの影がいくつも見えていた。作戦によっての損害確認のために生存者と死体を探している
「相棒、ダナのカメラと連動させるか?」
『いえ、何とか衛星画像だけで』
「そうか……手分けしてパーツでも拾うか?気休めだよ」
『では私はアッチを』
そういってケーブルの破損した足を引きずりながら歩く相棒の姿を眺め僕は自分の作った兵器によって破壊された自然たちに目を向ける。
アマテラスの威力は最大10であるが、今回はその半分である5でこの威力。自分で作っておきながらこの威力は危険であると判断する。
力は何かを変えることができる……その何かが何であるかはその人次第であるが、僕の兵器は生態系を変えた。意図せず、いやこの結果は予測ができていたため意図的に破壊されてしまった自然に僕は胸を痛めるのだった。
ポケットに入れていた機械が雑音を鳴らす……雑音と言ってもソレは人類にとってこれ以上ない警告の音であった。
取り出したのは針の振り切れた小型のガイガーカウンター。ヂヂッ……ヂヂッ……と音をたてその空間が汚染されていることを警告する。幸い僕のパイロットスーツは宇宙放射線に余裕で耐えられるモノなのでこの程度で慌てることはなかった。
「当分は人が住めない土地となったか……」
エイリアンに奪われた土地が人々に返還される日はまた遠退いた。
「お前は……この戦いを見て何を得た。それでも僕の技術に立ちはだかるのか?月の王様よ」
誰も話し相手の存在しない戦場の跡地で一人空に向かって呟いた。返事を期待はしていない。ただ、ボソッと口にすることで体内に溜まったモヤモヤを張らせる気がした。
その頃には次の走者である月が既に太陽からバトンを受け継いでいる。
今日は美しい満月だった。
「フッハハハ!アハハハハッ……!見たか彼らの戦い方をアレがあの天才と呼ばれた男の戦い方か?笑える」
「D2と彼のデータは破壊寸前のアルファより送られてきましたが……現代の技術では再現不可能な数値が」
「そうか。ではその数値を各企業に配っておくんだ……アレを超える戦力が今は必要だからな」
男は指先で資料を弾くと低重力によってゆっくりと彼の秘書であるマリナ・ベルネットの下へ流れていく。
彼女はソレを受け取ると部屋を後にした。
男は一人になったタイミングを見計らい隠していた感情を表に出す。乱暴な狂気を心に住まわせる彼は感情的になり手に持っていたスコッチの入っているグラスを床にたたきつける。しかし、上品で弾力性のあるカーペットが衝撃を吸収してグラスが割れることはなかった。
一人で使うには広すぎる社長室は前任が嫌う場所であり、私にとってはお気に入りの場所だ。こんな優越感に浸れる場所を嫌うとは前任の気が知れない。
だが、前任はヤツを愛していた……だからこんな場所でなくともヤツがいる場所を好んでいた。
スコッチがこぼれたカーペットを見ると赤い模様、前任の忘れ物が付着していてソレが目に入る度に私は爪を噛んでしまう。爪を噛めば
「なぜだ!なぜお前は私に付かない!?私と共に世界を手に入れられるというのになぜお前は私を拒む!」
敵でありライバルとなった彼の古き友人に対しての怒りが沸々と湧き上がり彼をより感情的にした。ビジネスの関係でもいい、彼はその友人に対して妥協をすることもあったが友人は彼に銃口を向け「僕の引き金は軽い」と答えたのであった。
友人もまた彼女を愛していた。決して口には出さず態度も変えずだが、二人は確実に分かり合っていた……その仲を引き裂いたのが彼であるなら友人の怒りも理解できる。
感情的になり取り乱した男であったが前任の死により自分に引き継がれた会社の今後を考えれば、彼を落ち着かせることができた。彼はより高度な地位を望み月を掌握した彼は本気で地球人類を絶滅させるつもりであった。
月と地球その間に位置する3つの小惑星が並ぶ宙域は大変にぎやかだ。不謹慎かもしれないが、今まで以上に活発であることは事実、そう表現するのが適切である。
「失礼します会長。地球のユーラシアが再びビアに攻め込んだとの報告が」
「また無駄な消耗戦を……わが社のΔ部隊に対処させよ。宙域を乱す者を対処するのに確認はいらないと前に伝えたはずだが」
「それが、コズモ・フロント社が既に問題を解消させたと」
「随分と彼ら耳が早いじゃあないか。まるで最初から予測しているように……前回も彼らが対処していたか?」
「はい。いずれも彼らの管轄外であるビアで彼らが指揮をとっています」
「なるほど……良いビジネスの話が来たか、受け継ぐ活発な白人の血が騒いだのか。どちらでもいい監視は怠るなよ。どうも最近、月では存在しないはずのネズミとコウモリが大量に発生している」
「承知いたしました。我がグループに伝達します」
宙域だけでなく月もにぎやかになったと男は笑みを浮かべる。これは謂わば政戦、月のトップに君臨するのは兼城グループであり月に本社を構える他企業は彼らに土地を借りている状況であった。ソレを面白く思わない企業も多数存在し月の天下を取ったはずの兼城でもいつその企業が束になって反抗するのか、その地位が転落するかは予測できない。
不穏分子はいつの時代も存在する。会長と呼ばれた男はそう割り切って先人たち、戦国の世を生き抜いた者たちの知恵を学びその地位を確固たるものへと変えようとしていた。
「なあ、星那……桜。お前たち今の私を見てなんと言う」
広い部屋でひと際目立つ大きな窓、そこから見える景色は存在するはずのない月に根を張る大樹の姿であった。
新たに注いだスコッチ入りのグラスを手に持ち、ソレを掲げ彼は微笑みながら大樹に向かって一人乾杯する。
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