92日目 ストーブのお餅



 妖精ぺぺは、ある山の上にある小さな神社に住んでいる。


 妖精なので、ほとんどの人間には見えない。



 めっきり寒くなり、本殿ではやかんが置かれたストーブが配置され温かくしてあった。

 そして参拝時間が終わると、住職さんはたまに、やかんをどかしてお餅を焼き始めることがある。

 そんな時はいつも、ぺぺ達はこぞってストーブの周りに集まってお餅を眺めるのが恒例だ。


「もうすぐかな。もう膨らむよね?」

「まだじゃないか? まだ真ん中が割れてきてないぞ」


 ぺぺ達妖精と小さな神様は、ストーブを囲みながらじっとお餅を見つめ、目をキラキラさせてその時を待つ。


 するとお餅がぷくーっと膨れはじめ、右側が大きく膨れ上がってきた。


 それを見たぺぺが大声をあげて喜んだ。


「やったー! 右側だ! 僕の勝ち!」


 ぺぺ達はお餅がどこが膨れ上がるかを競っていたのだ。


 そして当てた者がこの焼き餅を食べれるというルールだった。


「初めて勝ったー! お餅が食べれるー!」


 だが喜んだのもつかの間、お餅の下側が一気に膨れ上がり、その反動で右側は萎んでしまったのだ。


「最後は下が膨れ上がったから、下を選んだ初めて参戦の小さな神様の勝ちー!」

「やったぞ! 初参戦での初の勝ちとは縁起がいいぞ」


 喜んでいる小さな神様にぺぺはすり寄る。


「小さな神様ー。神様なんだから僕に譲ってくれるよね?」


 そう言って小さな神様を見ると、


「ん? なんだ? なんか言ったか?」


 小さな神様はいつの間にか焼けたお餅を食べているではないか。


「なっ!」

「餅はうまいなー」


 またお餅を食べるチャンスを逃したぺぺが悲しんでいると、小さな神様はお餅を半分に割り、差し出してきた。


「ほれ。半分あげるぞ」

「いいの? ありがとう!」


 ぺぺは大喜びでお餅をもらい口に入れた。


「おいしい!」


 蔓延の笑みで喜ぶぺぺを見て小さな神様は微笑む。


「小さな神様もやさしいんだね」

「今気付いたのか」


 そう言って笑い合うのだった。




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