91日目 武勇伝



 妖精ぺぺは、ある山の上にある小さな神社に住んでいる。


 妖精なので、ほとんどの人間には見えない。



 早朝、ぺぺがいつものように長い階段を上ってくる参拝者を待っていると、1人の男性がランニング姿で走ってやって来た。


「まさか天狗さんじゃないよね」


 何度も天狗さんの変装に騙された経験があるぺぺは、どうしてもランニング姿の者は疑ってしまう傾向があるのだ。


 そんなぺぺにコマさん達が目を細めて、


「あれは、天狗ではないぞ」


 と教えてくれた。


 コマさん達の態度が気になり首を傾げていると、あっという間に階段を上りきったランニング姿の男性はその場で足踏みしながら元気よくコマさん達に挨拶した。


「コマ犬殿、おはよう! 今日もいい天気だな!」


 そしてぺぺへと顔を向ける。どう見ても目が合っている。もしかして自分のことが見えるのではないかと喜んで近くに行こうとすると、コマさん達が止める。


「ぺぺ。近づかないほうがいいぞ」

「え?」


 意味が分からずにいると、ランニング姿の男性の方がぺぺへと顔を近づけてきた。


「お! 初めてだな。お前は妖精だな。よろしくな!」


 ぺぺは嬉しくなり、ランニング姿の男性の周りを飛ぶ。


「お! なんだ俺に会えてうれしいのか? では俺の生い立ちを話してやろう。そこのベンチに座ろう」


 そう言ってぺぺをベンチに誘い自分も座る。


 そこからがぺぺの地獄が始まった。


 ランニング姿の男性の生い立ち、武勇伝を何時間もずっと聞かされる羽目になったのだった。


 解放されたのは、もう太陽も真上に来た昼間だった。


 死んだようになっているぺぺにコマさん達が言う。


「だから近寄るなと言ったのだ。あの者はずっと自分の武勇伝を話す癖があるのだ」


 それを先に言ってと思うぺぺなのであった。





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