第3話

 マリーのトマトとキャベツ、豆類、肉の実の燻製ベーコンもどきで作った特製野菜スープと、フレッドが買ってきた焼き立てのパンの組み合わせは絶品で、久々の四人での朝食は楽しいものになった。


 「僕の部屋に来た時から気にはなっていたんだけど、いつもよりご機嫌だね。」


 「うん。だって今日は総合支部に冒険者仮登録と、本登録のための初心者講義の申し込みに行くから楽しみでしょうがないの。」


 朝食後に気になっていた事を妹に問いかけると、今にも歌いだしそうなほどご機嫌な返事が返ってきた。


 「本当に申し込むだけで何もないのに・・・」


 「いや、その時に総合支部や冒険者について何か聞けるかもしれないし、総合支部の地区は父さんへのお使いでしか行ったことないから楽しみなのは俺も同じかもしれない。」


 総合支部(正式には総合神殿カディーム王国王都中央区支部)に仮登録や講義の申し込みに行くだけなのに、なぜそこまでご機嫌になるのかと疑問を口にすれば、フレッドがはにかみながらも少々早口に答えた。

 どうやら妹だけでなくフレッドも楽しみだったらしい。


 「あらまあ。総合支部といえば、その名の通り多くの役割を担っている場所ですし、子供の職業仮登録は大切な大人への通過儀礼みたいなものですからね。

 最初の装備品、主に服などですね、これは各ご家庭で準備することが多いので職業によっては、耐火性や防水性、耐久性などが必要とされます。最低限の初級の物が好ましいとされているとはいえ、それはそれは大変な・・・いえ、とても大切なことですので、この時期の服屋や防具屋は仮登録予定の子供たちやその保護者などで大賑わいなのですよ。」


 みんなで洗った食器を片付け終わったマリーが、台所から出てきながら言った。


 「あっマリー。私たち、マリーたちと一緒に行くんだよね?」


 「そうなの?」


 「あらまあ。坊ちゃまはご存知なかったのですねぇ。

ええ、本日はお二方もわたくしどもと手続きに行き、必要な買い物まで済ませる予定です。」


 「えっと、普通家族で準備するものなんだよね?

 それなのに私たちが一緒で、マリーたちの邪魔にならない?」


 さすがに妹も、マリーたちの家族の時間に割り込むかたちは気が引けるらしい。


 「あらまあ。大丈夫ですわ。わたくしの夫やお二方の父君のような立場の方などは、使用人などに丸投げも珍しくありません。

 ですが、そのお心遣いはとてもうれしく思います。」


 優しく微笑むマリーは、母親の顔をしていた。


 「第一、夫に手続きや仕事に必要なものはともかく、日常の必要なものの買い出しなんて無理です。

 お二人の父君も仕事の準備以外、書類に必要と書かれている物しか買わない方ですので、普段使いの服は少し大きめにして裾を上げるなんてまず考えもなさいませんもの。」


 他にもと例えるマリーは、苦いものを食べたような顔をしていた。

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