第1話

 ザアザアとまるで滝の様に降る雨は、何もかもをも洗ってゆく。


 街道に覆いかぶさるようにしげる木々も。


 横転している大破した馬車も。


 雨音に負けないほどに泣き叫ぶ赤子達も。


 その傍らに佇む男の事も。


 その全てを。




 - 十年後 -




 ・・・知らないはずなのに、どこか懐かしい夢を見た気がする。

 僕と双子の妹は、十年前赤ん坊の頃に今の父に拾われたらしい。

 らしいというのも、父は寡黙かもくな人でほとんど話さないし、拾われ孤児は珍しくない。

 十年前の『』からは特に。

 寝起きの頭で身支度を整えていると、


 ガタン バタバタ


同じ二階の隣にある妹の部屋が騒がしくなってきた。

これは早めに身支度を整えた方が良さそうだ。


 バタン タタッ

 コココン ガチャッ


 「おはよう、お兄ちゃんっ。私先に下行ってるからねーっ。」


 予想と違わず、廊下は小走りでノックは速すぎてつながってしまっている上に、返事より先に開けては意味がない。


 「父さんに恥じない淑女になるんじゃなかったのか。」


 ハッ!きっと音にすればこんな感じだったと思う。

 勢いよく閉じようとした扉を静かに閉めて


 コン コン コン


 「・・・・・・どうぞ?」


 カチャリ


 「おはよう、お兄ちゃん。私先に一階に降りているからね。」


 やり直した。

が、やり直したにしては・・・いや、その心意気が大事だと思おう。


 「おはよう。慌てて怪我しないようにね。」


 あの勢いだと階段を踏み外すか、扉に激突くらいはしそうだ。

本人もそう感じたのだろう神妙な顔で頷き、慎重に扉を閉めて行った。

そこまでしなくても大丈夫だろう。多分・・・おそらくは。

頭の中を過去のあれやこれやがよぎる。

・・・うん。慎重に越したことはないな。

自分の中で結論がでるのと、残りの支度を整え終わるのは同時だった。

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