第4話 わたくしがやさしいとか言うのは殿下だけですわ。
思い返せば10才の時、政略結婚の相手として初めて引き合わされた時からずっとそうでしたわね。
わたくしを見ての第一声が「なんてキレイでかわいい子なんだ!」でしたもの。
その後、何度か会ったら「なんてキレイなんだ! しかも頭いいし、なんでも知ってるし、いい香りがするし、君はいつも最高だよ」に褒め言葉が増えて。
そして今では……。
ああ、殿下がわたくしに向けて発する言葉の数々を思い出そうとしただけでクラクラドキドキしてしまいますわ!
わたくしの全てを称賛する言葉の数々を雪崩のように浴びせてくるんですのよ!
あんまり露骨に言われるので、どうしていいか判らなくて、身の置き所がなくなってしまって。
何度も何度も、そういう事は、露骨に言ってはいけないと苦言を呈しているのですが、その度に。
「うん。その通りだね! 君は本当に真っ直ぐで正直で素敵な人だね! これからも遠慮せず言ってね!」
とうれしそうに言われてしまうんですの……。
あんな無能な人ですけど、一応、わたくしが言えば改善しようという努力はしてくれるんです。
でも、不調法で頭が悪くて、注意力もとぼしい人なので、こっちを改善すると、あっちを忘れ、あっちを改善するとこっちを忘れてしまうんです。
それでも! わたくしが始めて会った頃に比べれば……少しは良くなってるんです。少しですけど!
みなさんはどこも変わっていないと仰いますけど、わたくしだけは判っているんですのよ。
救いようのない愚鈍から、何もしないでいてくれれば問題がないくらいまでは!
ダンスだってわたくしの足を踏まないくらいにはなりましたのよ!
誰も気づかないくらい遅遅とした歩みですけど、改善してるんですのよ!
「今日もさ。登校した時挨拶したら。この前、ボクが送ったペンダントをつけててくれたんだよね」
登校時の挨拶とランチを一緒にする時と下校時くらいしか会いませんものね。
幸い、殿下は成績が悪――ごほん、もとい中の下なのでわたくしとクラスがちがうんですもの。
一日中あんな風に称賛されてたら体が保ちませんわ!
不思議なことに、他の殿方に称賛されても、全然そんなにはなりませんの。
彼らの方が、見た目も中身もわたくしに相応しい方々な筈ですのに、なぜなのかしら?
わたくしをいたたまれない程にドキドキさせるのは、殿下だけなんです。
「ボクって全くセンスがないからさ、おつきの人に選んでもらうほうがいいんだろうけどね。
でも、それでも、つけてくれたんだ。うれしかったなぁ」
コーディネートに全くあってない……というか、どんな風にしたら合うのか想像がつかないシロモノでしたわ。しかも明らかに安物なんですのよ。
でも、あの人がわたくしのことだけ考えて、選んでくれたものですから。
しかも、店に自分で行って、たっぷり時間をかけてあれこれ迷って選んでくれたんですのよ。
そこまでされて一度も付けないで仕舞ってしまうなんて礼儀をわきまえた淑女として出来ませんわ。
あれでセンスがあってさえくれれば! ずっと付けていたっていいんですのに。
今度、殿下がわたくしへのプレゼントを見繕っている時、偶然を装って同じ店へ行って、自分の好きなのはこれ、と教えてさしあげようかしら?
そうすれば、いつでも付けてられますし……。
わ、わたくしったら何をはしたないことを、筆頭侯爵家の令嬢であるわたくしが、殿下におねだりなど……。
しかも一緒に行動するなんて、こっ恋人同士みたいですわ! ありえませんわ!
わ、わたくしと殿下は政略結婚! 政略結婚なんですからね!
そうでなかったらあんなどうでもいい方と婚約していたはずはないんですからね!
ま、全く、それもこれもみんな、殿下が不調法でセンスがないからいけないんですわ!
「(なんでそんなウザイ惚気を私に)……あ、せっかく選んでもセンスが悪いってけなすんですね! なんてひどい!」
あらあら泥棒猫さんその態度はダメですわよ。
こめかみをひくつかせてると、何を考えてるのか丸わかりですもの。
殿下は気づいていらっしゃらないと思いますけど。
「うん。いつも言われるよ。でも、それなのに絶対に一度はつけてくれるんだ。ボクにはもったいなく素敵でやさしい人なんだよ。
だって、さんざんセンスがないって言いながらつけてくれるんだもの」
え、いや、あのやさしいですかわたくし?
そんなことを仰ってくださるのは殿下だけなんですけど。
どちらかと言えば、わたくしは周りの方々にキツイとしか言われていないような。
影で悪役令嬢とか言われてますのよ。
殿下に対しても、全く言葉を飾らずズケズケビシビシ言っていると思うのですけど。
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