第3話 ほほが熱くなってしまいますわ!


「でっ、でもその……そうです! こ、心が穏やかになりますよ」

「うん。ねむくなるってみんなに言われるよ」

「みなさん、ひどいです! 殿下をけなすなんて! 侮辱されてるんですよ!」

「事実だからね」

「そういえば婚約者の人も影でそう言ってましたよ」

「ボクにも面と向かっても言ってくれるよ。彼女の裏表がないところがボクは好きだな」

「そういうんじゃないです! 裏でも表でも悪口を言うのはよくないです!」

「悪口じゃなくて単なる事実だよ」


 いつも思うんですが、なんでしょうこの会話は?


 困ったことに、殿下がうすぼんやりしているのは事実だし、優秀でないのも事実だしで。

 当の本人がそれをよく判っているので、それらが悪口に感じないらしいのです。


 ちょっとは怒ったりして、改善しようと目覚めたりしてくれれば……望み薄ですけど。

 いえ、あれでもやってるんですのよ?(疑問形になってしまうのを抑えられませんが)


「え、ええと……そ、それが変なんです! いくら正直だからといって言っていいことと悪いことがあります!」

「なにが?」

「ねむくなりそうな顔なんて侮辱です! 本人に言っていいことじゃないです! あの人は殿下を馬鹿にしてるんです!」

「どうして? さっきも言ったけど単なる事実だよ。それに彼女はボクの婚約者だからね。

 彼女は、色々気を遣える人なんだけど、ボクにだけは正直でいてくれてまっすぐに飾らず話してくれるので。うれしいんだ」


 眠そうだとか毒づかれてうれしいとかどうかしてますわ。

 困ってしまうじゃありませんか。

 わたくしだっていつもは猫を何十匹とかぶって暮らしてますのに、なぜか殿下の前では正直になってしまいますの。

 あの無防備で眠そうなお顔がいけませんのよ!


「婚約者でもっ」

「ボクだって彼女に素敵だね、優秀だね、最高だね、何でも似合うね、流石だね、キレイだね、ステキだねっていつも正直に話してるよ」


 あらまぁ。あらあら。

 ほほが赤くなってしまいますわ。


 殿下は、わたくしが何をしても心から褒めるてくれるんです。

 わたくしが試験で一番をとるたびに、自分の事のように喜んでくれますのよ。

 食事をしている時も、わたくしの所作に見惚れているだけでなく、見惚れていると口に出してくれますしね。

 ま、まぁ確かにわたくしは常に優雅でステキで豪華ですけど!

 殿下が余りにもぼんやりしてるんで、婚約者であるわたくしが頑張るしかないじゃありませんか!


「いつも綺麗だし、化粧してても綺麗だけど、化粧してなくてもやっぱり綺麗だし。

 指の形とか、ちょっとした仕草とか、そういうのも素敵だし。

 声も聞いてて音楽みたいだし、いい香りがするし、頭もいいし、気遣いもできるし、親切だし、ほめるところしかないからね。

 しかもね。それがね。もって生まれたのそのままじゃないんだよ。

 すごく努力して、めいっぱい素敵でいてくれてさ。

 一ヶ月前より昨日、昨日より今日、今日より明日、明日よりあさってとどんどん素敵になるんだよ。

 ほめるだけで一日終わりそうだけど、そうすると彼女に迷惑だしね。実際、やめてくれっていつも言われるし」


 あら、あら、まぁまぁ、じ、事実ですけど! 事実なんですけど!


 彼女の顔がどんどん険しくなるのと反比例して、わたくしのほほがどんどん熱くなってしまいますわ。


 あれが婚約者への礼儀から仰ってくれているなら慣れるのですが。

 誰に対しても、もちろんわたくしの前でも、心から仰り続けられるので、困ってしまいますの。

 わたくしを褒め殺しにでもする気ですか!

 わたくしを褒める時だけは、あの眠そうな目がキラキラして。どうかしてますわ。

 周りはわたくしの錯覚だと言うのですけど。

 わたくしには、そう見えるんだから仕方ないですわ!

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