鏡①
明日から期末テストが始まるが、俺はというと全くもって勉強が捗っていなかった。勉学にうるさい親ではないが、前回相当悪かったから今回は赤点を取りたくはなかった。
しかしテスト期間になるまで焦らないのも俺の性でして。絶賛大焦りで勉強中である。するとリビングから親が何か言っていた。
はぁ、風呂か。テスト期間中の風呂は、こんなにも面倒に感じるものだったか。勉強を中断し、風呂に入ることにした。
風呂場に入って、鏡の前に座りシャワーを浴びる。そしていつものように髪を洗い始めた。するといきなり声が聞こえたんだ。
『おーい、俺!おーい、俺!』
鏡を見たら俺がいた。当たり前だった。
でもなんだか笑ってる。不自然だった。
(え…?俺が喋ってる…?)
『聞こえてんだろ?おーい、俺!』
「…聞こえてるけど」
『あ!あんまり大きな声で話しちゃダメだぞ!母ちゃんが来ちまうからな!』
「…うん、分かった」
なんか普通に会話しちゃったけど、驚いていない訳では無かった。単に頭が追いついていなかったのである。
『えっと、聞きたいことはたくさんあると思うけど、簡単に自己紹介すると『俺』はお前ね。まぁお前は『俺』じゃあないけど、ウケる笑』
鏡の中の俺はコミカルに動き、テンション高くデカい声で話した。何より驚いたのが、学校での俺の立ち回り、話し方そのままだったのだ。
客観的に見ると、俺ってこんなにウザかったんだ。
「えっと『お前』はそんなにデカい声で話していいのかよ…」
小声で聞くと
『たぶん!大丈夫!俺の声はお前にしか聞こえてないからな。つーか、お前そんなに鏡に顔近付けんなよな。自分の顔、間近で見るの結構きついな。ハハハ』
「そうか、、」
事態を呑み込めているわけでは無かったが、こんなにも騒がしいやつ(俺)相手だと意外と落ち着けていた。きっと『こいつ』の声が俺以外には聞こえないというのも本当のことなんだと思う。鏡の中で、動いている『俺』を見ているからか、些細なことには疑問を持たなかった。寧ろ超常現象ってのは身近にあるものなんだなぁ、と感慨深くなっていたほどだ。
『何でも俺に質問していいぜ!』
「いや、いいや。別に」
『えっ、なんで!?』
「『俺』と話すのはちょっと面白そうなんだけど、生憎テスト期間中なんだわ。とっとと風呂出て、また勉強しねーと。」
『そっか、今ちょうどテスト期間中か。あ!でも俺テストのこと分かるよ』
「は?」
『明日の科目何よ?』
「明日は物理と地理と英語だけど」
『重い日だな。えっとね、まず物理からなんだけど、』
「お前出る問題分かるのか?」
『いや、何問かだけだよ。なんていったってお前の頭だからな』
「どうして分かるんだ?」
『あ、そうだ。まだそれを説明してなかったな。『俺』は1週間後のお前なのよ。だから1週間先の未来まで分かるわけよ。』
「マジかよ。じゃあさっそくだけど、思い出せる限りでいいからさっきの三教科のテスト教えてくれ」
未来のことが分かるという状況だが、今の俺は明日のテストが最優先事項だった。そして、メモなど無かったため必死で言う内容を覚えた。
「助かったわ『俺』。とりあえず今言ってた箇所はちゃんと勉強しとくわ」
『あと、徹夜はすんなよ。テスト中に睡魔に襲われたから。』
「分かったよ」
気づけば『俺』と普通に会話できるくらい仲良くなり、少し笑った。風呂の外から、親の声が聞こえてきた。
「わりぃ、そろそろ出るわ。」
『おう、じゃあまた明日な』
「え?明日も出てくんの?」
『いいじゃねーかよぉ、『俺』の話し相手になってくれよ』
「冗談だよ、また明日な 」
鏡の中で手を振る『俺』に、軽く俺も手を振って風呂を出た。そうか明日も『俺』に会うのか。もしかしてこれからずっとなのかな。それは嫌だな。
風呂を出て、『俺』が言っていた範囲を勉強し、テスト中寝ないように早めに寝ることにした。
そして、また翌日の風呂場。
「おい、来たぞ『俺』」
『お、俺じゃねーか!待ってたぞ!』
「俺を待つなよ気持ちわりぃ笑。でも『お前』のおかげでテストはバッチリ。ありがとな。」
『おう、それは良かった。』
「それで明日なんだが、、」
『はいはい分かってるよ。明日でテスト最終日だよな?』
「ああ。明日は国語と化学と家庭科だな。」
『待ってな、思い出すから。』
「たのむ」
そしてまたゆっくりと思い出しながら、テスト問題を教えてもらった。昨日の反省を生かし、今回はちゃんとメモを持参したため、そこに内容を書いていく。
『残りの家庭科に関しては、、ちなみに今何時くらい?』
「多分22時半くらいかな」
『家庭科は今日の23時頃に須藤が過去問を送ってくれるんだ。それをやっておけば大丈夫。』
「マジか!分かった。須藤さすがだな。ありがとう。じゃあここらで俺風呂出るわ」
『あっ、ちょっと待ってくれ。本題がまだだ』
「本題??」
『本題って言うほどでも無いんだが、明日試験終わったら須藤とかいつものメンバーでテスト終わりの打ち上げってことでカラオケ行ってくれねぇかな?頼むわ』
「え?まぁ『お前』に頼まれなくても、多分行くと思うけど。」
『そうか、それならいいんだ。』
「おう、また明日もいるんだよな」
『あぁ、お前のことを待ってるぜ!』
「やかましいわ笑」
そう残して風呂場を出た。
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