髪の毛
美容師になって2年目。少しずつ担当させて貰えるようになり、僕を指名してくれる人も増えてきた。嬉しい限りである。
本日初めて来店してくれた若い女性のお客様、髪が長く顔立ちも整っている。腕が鳴る、とはこのことだろう。
「お客様、初めてのご来店ありがとうございます。本日担当させていただきます、田中と申します。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「本日はどのようにしてこちらのお店へ?」
「行きつけの美容院が潰れてしまいまして。田中さんはTVとかって見られますか?
最近ニュースでも流れてるのですが、その美容院の店主がお客の切った髪の毛を使って自宅でウィッグを作って、売っていたんだそうです。了承の上ならまだしも、私の髪の毛とかも家に持ち帰っていたと思うと気持ち悪くて、許せないです。それでその美容院は営業停止になりました。」
「ほうほう、それは気持ち悪いですね。」
「それで私の好きな女優のA子さんが行きつけの美容院としてこちらを紹介されてましたので、本日伺いました。」
「ほうほう、そうですかそうですか、それはありがたい限りですね。それではお客様は本日はどのようなカットをご希望ですか?」
「そうですね、毛先を整えたくて、前髪もだいぶ伸びてしまいましたので。」
「そうですか、なるほどなるほど。ここで1つ私の方から提案させていただいてもよろしいでしょうか?」
「提案ですか?」
「はい。お客様は非常に顔立ちが整っております。余計なお世話であると重々承知なのですが、髪をバッサリいきましてショートカットはいかがかな、と思いまして」
「ありがとうございます。ショートカットですか。うーん、少し憧れはあるのですが、私はきっと似合いませんので。」
「いえいえ、そんなことないと思いますよ。絶対に似合うと思ったのでこのご提案をさせていただいたのです。あまり大きな声では言えませんが、あのA子さんの担当も私がさせていただいてまして、彼女にショートカットを提案させていただいのも私なのです。」
「そうなのですか!?たしかに最近イメージを変えて、また綺麗になったと思ってました!」
「はい、そうです。決して無理にとは言いませんが、絶対に似合う自信がございます。」
「分かりました。それでは私も意を決します。元々興味がありましたし、そんなに仰っていただけるのであれば。それにA子さんと同じ担当の方にご提案いただけるなんて奇跡ですから。ぜひ可愛くお願い致します。」
「はい、分かりました。」
「このような仕上がりになりましたが、いかがでしょうか?」
「最高です。たしかに私、この髪型の方が似合ってるかも。」
「それは良かったです。」
「でも、こうやって床に落ちた自分の長い髪の毛を見ると、まんま捨てちゃうのも確かにちょっと勿体ない気もしますね。前の店長を許すわけじゃないですけど。」
「そうですか??」
「冗談ですよ、こんな毛でウィッグなんか作らないですよね」
「はい、ウィッグなんか作りません。私の今日の夕飯ですから。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます