大好き、で繋がる輪_2

 週末。家族連れでにぎわうアトラクション類を横目に、一人、テーマパークの入り口付近に立っていた。悲しいかな、オレは独り身全う中の成人男子だし、加えて彼女がいるわけでもない。そんなオレが、テーマパークの入り口に一人、立っている理由。それは……


「先輩!お待たせしてすみません!!」


 目の前のこいつ……後輩(こちらも成人男子)に呼び出されたからだ。


 ******


 事の発端は、数日前の飲み会へと遡る。


 その飲み会は、オレが仲のいい後輩の一大プロジェクトが終わり、そのお疲れ様会という名目のもと、自分らの趣味を大いに語りつくす(予定の)飲み会だった。俺も後輩も、好きなものが世間では『子ども向け』とされるもので、だから頭のお堅い上司たちの前で口を滑らそうものなら、『キミら、まだそんなものを見ているのか』みたいな腹の立つことを言われる。昨今そんなこと言うやつの方がおかしい、とオレは秘かに思っているけれど。


 とにかく、オレは好きなものが特撮のヒーローで、後輩はモンスターアニメ(最近20周年を迎えた、長寿アニメ番組だ)が大好きなので、お互いの好きな物は理解できるし、その話をしても何ら不思議がられることも無い。そんな社会人において貴重な関係性のオレらの飲み会に、後輩が珍しく別の人物を誘いたいと言った。


 それが後輩だった。


 なんでも、一大プロジェクトを一緒に乗り越えるうち、同期の彼らは色々な話をするようになり、仲が随分と良くなったのだという。その時、深夜の作業中、後輩後輩にぼやいた。


「このプロジェクトの納品、この日の午前中には終わるよな……?」

「え、あぁ、まぁ。計画じゃあそうなってるな」

「……いける……か……?」

「は? 何が?」

 そこで初めて、後輩後輩に打ち明けたという。


「……この日、ヒーローショーなんだよ。今の演目、最終日なんだ」


 そんな話を聞いて、自分もモンスターアニメが好きな後輩は深夜テンションも加わって『え、ヒーローショー!?』と食いつく。後輩自身、モンスターアニメの話になるとアニメはもちろん、映画やゲーム、原画展やイベント情報等にも敏感で、だから何となく親近感がわいたらしい。そうして仕事の合間の息抜きに、お互いそういう話をしていた時、先輩オレもヒーローが好きだというのが話題に上がったんだとか。そこで次の飲み会は一緒に、と言う流れがあって、先日の飲み会に後輩もやってきた。


 その日の飲み会の時、オレはほとんどはじめて後輩と話しをしたけれど、これがまぁ、盛り上がった。そりゃそうだ。同じヒーローが好きという接点があるのだから。オレ自身はその『ヒーローが大好き』という気持ちを再確認してから日は浅い。だからまだまだ情報などには疎いところも多かった。


「ヒーローショー行って、写真撮るのが趣味で」

 そういった後輩の言葉に、ヒーローショーが眼中になかったことに初めて気が付いたくらいだ。それに気が付いて思わず、

「え、でもいいなぁ、ヒーローショーか。行ったこと無いな」

 と、ぼやいたオレ。すると後輩が前のめり気味に言った。

「あの!今度よろしければ週末、是非!一緒に行きませんか!!」


 ******


 ……てなわけで今。オレと後輩は、週末の家族連れで賑わっているテーマパークの入り口で待ち合わせていた。後輩の首には素人目にもわかるそれなりのカメラがぶら下がっていて、恐らく背負っている大きめのリュックはカメラバッグなんだろう。


「さ、行きましょうか!」

 後輩の熱量は、今の時点でもうかなり高めだった。一方オレはまだ、正直ヒーローショー自体があまりどういうものかをわかっていないから、好きなものが見られることはわかっているものの、まだそこまでのテンションの高さへと持っていくことができないでいた。

「お、おう……」

 戸惑いを隠しきれないまま、後輩に半ば引きずられるようにして、園内へと入っていった。


 ――それから、数時間後。


 オレはまだ、夢の中にいるようにフワフワしていた。

「先輩、大丈夫ですか?」

 後輩が困り顔で問いかけてくる。あまり心配をかけたら申し訳ないと思って、『全然大丈夫』と応えるけれど、正直戻ってこれないのが本音だった。

「ちょっとここで座って待っててください。なんか飲み物買ってきます」

 近くのベンチに座らされ、後輩は数メートル先のショップへと入っていった。それをぼーっと目で追いつつ、脳内で先ほどのヒーローショーを思いかえす。


 ……いや、もう。なんていうか。語彙力全部無くすくらい、かっけぇかった……


 ショップは空いていたのだろう、後輩はすぐに戻ってきた。

「コーヒーで良かったですかね?」

 『一応、お茶もあります』、そう2つのカップを目の前に出されて、ありがたくコーヒーの方をいただいた。

「わり、さんきゅ」

「いえいえ、全然」

 後輩はそういうと、オレの横に腰かけて自分もお茶を飲み始める。そうして少しお互いに息をついたくらいで、後輩が切り出してきた。

「あの、どうでした……?」


 目の前に出てくる怪人たち。ちびっ子たちがキャーキャー騒ぐ中、オレも声には出さずとも『おぉ!』だの『うわっ!!』だの、そりゃあもう楽しんでいた。と、思ったら、敵幹部まで登場して『まじかぁああ!』とボルテージが上がり。そうしてそこにやってくる、待ち望んだ大好きなヒーロー。

 

 ショーが終わった後は、写真撮影を兼ねつつ握手タイムもあって。あぁ……オレ……


「ヒーローと、握手、しちゃった……」

 そう言った声が、ちょっとだけ震えてて。オレの大好きなヒーローはやっぱり、いつになってもずーっとかっこよくて。

「……ショー、ハマりそう……」

 そう思わず呟くと、後輩が言う。

「また近々、ショーの情報入ったら、先輩にお声がけしますよ」



 そうしてまた、オレの世界はほんの少し、広くなったんだ。

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