大好き、で繋がる輪
CHOPI
大好き、で繋がる輪
「おはようー」
「お疲れ様ですー」
はて、と不思議に思った。今は朝。特に特別なことが無ければ『おはよう』の時間だと思う。なのに、目の前の後輩は今、『お疲れ様です』と言った。
よくよく観察してみると、昨日から着替えられていないであろう、ヨレヨレのワイシャツ。目の下には黒いクマ。デスクの上には3本ほど、エナジードリンクの空き缶。……流石に察した。
「まじでお疲れ」
「今日は俺、プロジェクト落ち着いたんで、流石に一回帰ります……」
そう言って後輩はフラフラになりながら荷物をまとめ、『お先に失礼します』と言ってエレベーターの方へと向かって行った。後ろから見ていてあまりにもフラフラしていたので、『タクシーで帰れ、経費で落とせるだろ』と声をかける。『わかりました』の返事の声は、いつもよりもはるかに小さかった。
自分のデスクに座る。今回、そのプロジェクトから外れていた俺は、先ほどの後輩の姿を思い出して、どことなく罪悪感を覚えた。
……アイツが少し元気になったら、また飲みにでも誘うか
そんなことを考えながら、今日も仕事に取り掛かる。と、斜め前の席から小さな寝息が聞こえてくる。
……あー、こっちは家までもたなかったか……
寝息のする方に視線をやれば、案の定もう一人の後輩(先ほどの後輩と同期だ)が寝ていた。確か記憶が正しければ、2人は同じプロジェクトメンバーだったはず。……その証拠に彼のデスクにも、エナジードリンクの缶が散乱していた。
「あーあ……、寝ちゃったか」
思わず声に出てしまったか、と思ったけど、それは杞憂だったとすぐに思い直す。目の前には先輩がいて、後輩にブランケットをかけているところだった。その姿を見ていると、先輩と目が合う。
「流石にまだ、慣れないわよね」
苦笑交じりにオレに話しかけてくる先輩。『今起こすのもかわいそうよね』とオレに同意を求めてくる。
「そうっすね。オレも初めの頃、よく落ちてました」
懐かしい。今はだいぶ慣れて、ちゃんと朝の電車で帰れるくらいには体力もついたけど。初めの頃は体力が持たなくて、気が付いたら社内で夕方……なんてこともあったっけ。みんな優しいから無理に起こしてきたりしない分、永遠と寝られちゃうんだよなぁ……。
「……!?」
お昼休憩も終わった頃、斜め前の後輩が飛び起きた。
「すいません、今何時ですか!?」
随分慌てて時間を確認するな、と他人事のように思いつつ、『昼休み終わりくらいだぞ』と応えてやれば、『あー、急いで帰らなきゃ!!』と慌てて荷物を片付け始める。
「なんか用事でもあった?」
先輩が声をかけると、『全然!私用なんで、大丈夫なんですけど!!』と言いつつ、荷物をまとめるスピードは落とさない。
「すいません!今日はこれで失礼します!」
そのまま後輩は荷物をまとめ切ると、驚きの速さでエレベーターホールへと去っていった。会社内の情報共有用のホワイトボードを見ると、彼の欄は『午後・半休』とあって。あー……気が付かなかった、起こしてやればよかったかな、なんてちょっと後悔をした。
******
それから数日後。先日の計画通り、後輩を労わる名目の飲みに誘うと、二つ返事で了承の返事が返ってきた。この後輩、結構趣味が似通っていて、そういう好きな物の話が気兼ねなくできるってことで、そういう仲間意識もあるので、誘いやすいしのってくれやすい。
「いつもの店で良いか?」
「はい!」
そんな会話をしていると、たまたまデスク横を通った先輩が『あ、またあそこで飲むの?』と会話に入ってくる。この先輩も好きな物の話で盛り上がれる人で、だから『あ、先輩も来ますか?』とフランクに誘う。
「ごめん、今日はパス。ちょっと早めに上がれそうな今のうちに、一体作りたい子がいるのよ」
先輩は特撮系のドラマに出てくる、怪獣などの人外系のキャラが好きで、その造形をふわふわのぬいぐるみに落とし込むのを趣味としている。この関係性で一番気がラクなのは、お互いがお互いの趣味を理解しているからこそ、誘いに乗ろうと断ろうと、気を遣うことが無いところだ。
「了解です、そしたらまた今度」
「うん、もちろん」
「先輩、あの。俺の同期も一緒に行っても良いですかね?」
「へ?あ、別にいいけど」
珍しい、純粋にそう思った。後輩がオレと飲むとき、他に誘うのは先輩ぐらいだったから。
「なに、プロジェクト通して仲良くなった、とか?」
そう聞くと後輩は、『まぁ、そんなとこです』と笑って、それから俺の斜め前の席の後輩に声をかけた。
「な、これから先輩と飲みに行くんだけど。一緒に行かね?」
「え、あ、えっと……」
「大丈夫。この前話した通りだし」
「あ、じゃ、お邪魔じゃ無ければ……」
そうして3人、会社から出て、いつも行く安いチェーン店の居酒屋へと向かった。
「じゃ、お疲れ様でした、ってことで。かんぱーい!」
カチン、と3人グラスを合わせる。各々が飲み物を喉へと流し込み、飲み会が始まった。
「ほんとお疲れ。あれ、めっちゃ大変だったろ?」
「俺、本当に今回、初めて本気で死ぬかと思いました……」
「大丈夫。嫌でもこのあと、どんどんそういうのは更新されてく」
「マジですかー!いやだー!!」
そんな風に騒いでいるオレたちを他所に、もう一人の後輩はマイペースにグラスを空けていた。
「あ、お前、飲める口なんだ」
「あ、まぁ。嫌いじゃないですね」
そういって2杯目を頼んだもう一人の後輩(……めんどくさいな、
「そういやさ。プロジェクト終わった日、なんかあったのか?随分急いでたみたいだったし、午後半休だったの気が付いてやれなくてさ。悪いことしたかなって」
そういうと
「こいつ、先輩と同じで、ヒーロー系が大好きらしくて」
その言葉に思わず衝撃を受けた。その後、直ぐに上がる体温。え、マジで!?
「え、マジか!?」
「あ、はい、マジです。」
その後『実は……』と続ける
「この間の半休、あれ、ヒーローショー行くために空けてて……」
ヒーローショー。その単語を聞いていよいよ
「ヒーローショー行って、写真撮るのが趣味で。あと、買わないんですけど、グッズの発売情報とかも、見るの好きなんですよね。」
その熱量に、思わずオレも熱くなってしまう。
「わかる。ヒーローのグッズ、大人向けのものってなんであんなにかっこいいんだろうな……、ま、値段も大人使用だけど」
それを聞いた
「え、でもいいなぁ、ヒーローショーか。行ったこと無いな」
そうぼやくと
「あの!今度よろしければ週末、是非!一緒に行きませんか!!」
******
こうして週末、初めてのヒーローショーを体験することになるオレ。
それはまた、別の機会に話そうと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます