弱者救済プログラム

 困っている人がいたら、助ける。

 社会的に弱い人がいたら、皆で助ける。


 これって、人として当然の事だから質が悪い。

 

 日本の現状をさらに分かりやすく言おうか。

 日本の法律は、日本の人間、土地に課せられるもの。


 じゃあ、になっている現在の日本で、どこまで日本の権力が通じるだろうか。


 弱者救済プログラムは、『法律』だ。

 さらにいうなら、『法律』である。


 ややこしいことに、『日本は認めていないために、日本の領土と定めた地域には、適用されない』のである。


 このプログラムは何かといえば、あらゆる意味で『弱者』と定められた人間を保護するための法律。


 弱者として認定された者には、『保護者』が割り当てられる。

 保護された者は、保護者に対していかなる危害も一切加えてはならない。


 この法律が施行されているのは、現在『日本のみ』である。


 *


 拘置所に入ってから、どれだけ経ったか。

 二日、三日。もっと長いかもしれない。


 都会はもっと多いんだろうけど、俺の住む田舎では弱者認定され、保護待ちになっているのは、俺だけだった。


 正直、自殺は考えた。

 こんなクソみたいな認定されると、就職や社会活動は保護者がいないとできない。


 だけど、姉代わりになってくれた摩耶とか、馬鹿話で盛り上がる元志とかの事を考えたら、死ぬより、どうしようと思考が巡る。


「くっそ。あのアバズレ。何が目的で、こんな真似しやがるんだよ」


 恨めしいったら、ありゃしない。

 学校から保護官の車に乗せられる俺は、さぞかしニュースで見かけるような犯罪者に映っていただろうよ。


 憎しみを抑えて、ずっと考えていると、あっという間に何時間も経っていく。


 不意に部屋の前に、人の気配がした。


「一番。出ろ」


 保護待ち番号で呼ばれ、俺はのそのそと起き上がる。


 薄暗い廊下を歩いて、突き当りで手錠を外される。

 手錠がなくなったってことは、保護者が決まったんだろう。

 案外早かったな。なんて、暢気に考えながら、案内されるがままに道を歩いていく。


 俺が連れて行かれたのは、待合所みたいな部屋だった。

 隅には二人の守衛が立っている。

 部屋の外には、さらに二人。


 俺は守衛が見守る中、保護官の人にチョーカーを首にはめられた。

 なんだっけ。『GAチョーカー』だっけ。

 GPS付きで、俺の居場所がすぐに分かるよう、保護者がアプリを持っているんだ。


 そして、目の前から保護官が離れ、俺を保護するであろう、そいつが椅子から立ち上がって振り向く。


「……お、まえ」


 唖然とした。

 信じられるか?

 

 俺の前にいたのは、『俺にレイプされたと証言した女』だったのだ。


「えへへ。きちゃった」


 モジモジとして、カリナがはにかんだ。

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