飼われる

学校生活

 リモートでも良かったのだが、俺はあえて学校に通う。

 これには理由があって、学校に通っている日本の人間がいるからだ。


 本当は人種なんて、いちいち意識なんかしたくない。

 でも、まとまる所でまとまっていなかった結果、現在の様な社会になってしまったのだから、俺は大人たちみたいに逃げたくなかった。


「おう。ジョージ!」

「うす」


 アメリカ出身のグループに声を掛けると、軽く片手を挙げてくれる。

 続いて、大きな声で挨拶を繰り返していく。


「避妊はしなよぉ」


 女子グループがいた。


「カトリーナ、おっはよ!」

「あ、シンちゃん」


 逃げ出さなきゃ、何だってやれる。

 大人からは聞いてるんだ。

 学校で知り合いや友達、人脈を広げていないと、困っている仲間を助けることだってできやしない。自分自身だって、虚しい思いするだけだ。

 社会に出た時に、本当の地獄が待ってるって知っていて、行動しないわけない。


 だから、体当たり。


「お、おはよ」


 小さい声で、同じ日本人が挨拶してくる。

 俺は大げさに笑顔を作って、肩を叩いた。


「おはよ! 今日は、クソハゲの授業あるべ?」

「うん。やだなぁ」

「はっ、洗剤混ぜた水廊下に撒くか?」

「怒られるよ」


 後輩のために、いくらでも道を作ってやる。


 *


 二限目の授業のこと。


「やめとけって」

「あいつ、バカだろ」


 何やらクスクスと笑いながら、一番後ろの席にいる男子二人が、前の席に向かって紙ヒコーキを飛ばしていた。

 先端がモジャモジャとした髪に刺さって、それが面白いらしく、笑いを堪えていた。


 からかわれてるのは、日本村から通っている男子だ。


 俺は考えた。

 一年生の頃は、頭にきて身長180cmの奴と取っ組み合いになった。

 俺はせいぜい160cmちょっとで、デカい奴相手に立ち向かうのは、それなりに勇気が必要だった。


 中学の時は、見てみぬふりをしたことがある。

 それが最悪に胸糞悪くて、死ぬほど後悔して、だったら俺もイジメられていいかな、って吹っ切ったのが始まり。

 高一では喧嘩をしたことがある。


 ……負けたけどな。後悔は全くしてない。


 そして、色々あって、イジメてた奴とイジメられていた奴の事を知って、どっちとも仲良くなった。


 だから、こういう時はやり方があるんだ。


「ジョージぃ。お前の彼女、昨日ラブホからおっさんと出てくるの見たぜ」

「は?」

「見間違いだったらゴメンな。でも、それっぽかったわ」


 大嘘だ。

 このジョージって男子は、元はイジられる側の人間だ。

 話すようになったから、それが分かった。


 餌を与えたら、授業中だってのに、周りは「やーい、寝取られ~」などと、ヤジを飛ばしてからかい始める。


 紙ヒコーキを刺されていた男子が振り返って、俺と目が合う。

 小さく片手を挙げて、会釈していた。

 俺は親指を立てて、さらに追い打ちを掛ける。


「つか、校舎裏でお前ら何やってんの? ねえ。もしかして……」


 大袈裟な仕草で、口に手を当てる。


「おま、ふざけなんなよ!」

「うぅわ、マジでやってんの?」

「引くわ~……」

「違うんだって。こいつが勝手に――」


「授業中だぞ! 静かにしろ!」


 先生に怒られて、皆が静まり返る。

 だけど、見てない所でスマホを弄り回して、グループチャットでからかい始める。


 なめんなよ、バカヤロウ。

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