仲間の思い

 村の中央には、ベンチや切り株で作られた円卓が置かれている。

 普段は年寄りがいて談笑に耽っているが、夜は静かなもので虫の鳴く声だけが聞こえる空間となる。


 キャンドルに火を灯して、俺たちは摩耶の部屋で作ったご飯を食べる。


 カリフラワーを米代わりにして作った炒飯。

 あさりの味噌汁。

 大豆で作ったハンバーグ。


 質素だけど、これが美味いのだ。


「摩耶がね。海外のアクセサリーショップと契約結んだんだって」

「へえ。どこの?」

「イギリスの……、どこだっけ?」


 元志が聞くと、もそもそハンバーグを食べながら答える。


「ロンドンのデザイナーショップ。壁とか、床の模様とかもデザインしてる所で、デザインの権利売ってくれって」


 摩耶は19歳にして、デザイナーだった。

 本当は大学に行きたかったらしいけど、そっちに行くより、やりたい事が見つかって即行動を起こした結果、こうなっていた。


「蛇と薔薇が合体した気色悪いやつ」


 摩耶が意地悪っぽく笑う。


「手続きが終われば、200万は入るから。村の維持費に回せるよ」

「それ村長に言った?」

「過呼吸なってた」

「……だろうな」


 一昔前みたいに、否定的な大人は日本村にいない。

 なぜなら、老若男女問わず、協力し合って生きていくぞ、と言った名目で集まって出来上がった村だ。


 こんなのは、全国各地にある日本村でもで、そもそも意地の悪い大人は村には住まない。


「あんま驚かしてやるなよ。あの人、60? だっけ。もう歳だからさ」

「ひひ」

「権利売るとか勿体ない気がするけどなぁ。踏んだくれそうなのに」

「いやいや。権利売るって事は、責任も売るってことだから」


 自分の頭を指し、摩耶が言う。


「発想の源は全部ここにあるから。よゆー」


 ヘラヘラと笑う顔を見て、何だか俺は自分の事が情けなくなってきた。

 勉学は、そもそもモニター授業と登校の選択で、単位制だから卒業はできる。

 だけど、摩耶と元志みたいに、何かを作る力がない俺は、将来の事を考えると少しだけ焦ってしまうのだ。


「俺は何やろうかな」

「やりたいことないの?」

「う~ん」


 ない、……とは言いたくなかった。


「ヒモになろうかな」


 冗談っぽく言うと、摩耶が手招きする。


「おいでぇ」

「いや、冗談だって。そんな情けない真似できるかよ」


 将来のことを考えると、やっぱり不安になる。

 生きるためにやる事は、すぐ頭に浮かぶ。だから、怠けるつもりはないし、食い物づくりに生きるのだって悪くない。


 けれども、歳が近い奴らは皆が一様に、物創りに勤しんでいる。

 俺も何かしたかった。

 何か役に立つことがしたい気持ちがあって、でも何も浮かばなくて、ずっと悶々としている。


「ま、焦らなくていいじゃん」

「そうそう。みんなで生きる事が第一目標なんだから」

「だったら、せめて可愛い彼女がほしいね」


 摩耶がにまっと笑う。


「アンタモテるじゃん」

「モテてたら苦労はないって。学校に行ったって、ロクに話せる奴らいねえもん」


 外国の人間が八割は伊達じゃない。

 俺と元志と、他10数名以外は、全員が外国人だ。

 文化、宗教、考えが全く合わないのに、仲良くなる以前の話だ。


「まあ、親切は心がけてるよ。こっちから親切はしても、親切にされるのはご免だけどね」

「やーい。ひねくれ者」

「ていうか、お前らがいればいいよな? 楽だし」


 すると、元志が険しい顔で言うのだ。


「いやいや。オレは嫌だよ! 彼女欲しいっつうの! 女とヤリたいんだよ!」

「……女の前でそれ言うかねぇ」


 呆れる摩耶に元志が顔を真っ赤にして力説し始めた。

 女と肉体関係を持つことしか頭にないビーストは、艶めかしさを所望のようだ。


 そんな二人を眺めていると、俺は本当に心から思うね。

 友達がいればいい。

 彼女は、適当に顔の良いのができたらいいな、と。

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