第6話
「ジル!待って!」
石切場から出て直ぐ、山道でエイラはジルクニフに声を掛けた。ジルクニフは振り返る。
「なんだ?」
「さっきの話、本当なの?なんか、違和感があるっていうか」
だが、違和感の正体がエイラには分からなかった。でも、考えれば考えるほど、「変」に思えてならなかった。あまりに都合が良すぎる。なんだが、ご都合主義の昔話を読んでいる様だった。ジルクニフは蔑むような眼でエイラを見た。
「当然だろ。あんなの全て嘘っぱちだ」
「え!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「ちょっと、どういうこと?結局、何も解決してないってこと?」
「本当に分からないのか?」
「分かるわけないじゃん!説明してよ」
やれやれという様子で、ジルクニフは話し始めた。
「解決はする。だが、解決に至る方法として、彼らには間違ったことを教えただけだ。俺の話は、それっぽい仮定に更に仮定を繋げただけの、まさに空想だ」
「え、ちょっと、まって。余計にわけわかんないんだけど?」
エイラは眉を寄せた。意味が分からない。どうしてそんな回りくどいことをしなくてはならないのか。
「俺が最初に言ったことだ。『被害者には成長はない』だから、嘘を吐いた」
未だに意味が分からない。被害者に成長がないからなんだというのか。エイラの様子を察してか、ジルクニフは面倒くさそうに説明をつづけた。
「俺はエルスタインが、この石切場に着く前に、奴の所へ行って、一つ質問をした。「どうして、こんな嫌がらせみたいなことをしているのか?」とな」
確かに、エルスタインが来る直前、ジルクニフの姿は見えなかった。その時に、質問をしに行っていたのだろうか。でも、なぜ?分かり切っていることだ。
「それは、さっきジルが言ってたでしょ。石切場そのものが目的だって」
「それは嘘だ。奴は『単なる嫌がらせ』だと言っていた。嬉々とした表情でな」
「そんな……」
「案外。そんなものさ。冷静に考えてみろ、無理難題を押し付けた所で、そんな簡単に石切場の利権は手に入らない。ニックが断固拒否すればいいだけの話だ」
確かにそうだ。幾ら契約の不履行で負債を抱えても、権利を得るにはニックの署名が必要になるはずだ。
「じゃあ、どうして嘘を?」
「お前でもわかるように、例を挙げて話そう」
エイラは馬鹿にされているようで、むすっと頬を膨らます。構わずジルクニフは続けた。
「ある日、大事にしている宝石が盗まれた、犯人になぜ盗んだ顔尋ねると、「ニーラ人への嫌がらせ」と答えた。お前はその時風に考える?」
エイラは、しばし考えて、
「「諦めるしかない」「どうしようもない」って感じかな」
「それじゃあ、「売って金に変えるつもりだった」と犯人が答えたとしよう。今度はどう思う?」
「「ふざけるな!」って感じだとおもうけど」
エイラは即答した。
「だろ?だから、嘘を吐いた。犠牲者や被害者であることは悪じゃない。でも、その状況を受け入れて、慣れてしまうことは、あってはならないことだ。ニーラ人はニーラ人であること弊害だと思っている。本質的に、シュルト人とニーラ人は何も変わらない。何一つとして優劣はない。なのに、ニーラ人はニーラ人であることを悲観する。これほど、馬鹿気た話はない。俺は、彼らには一人の人間として生きて欲しい。誰にも屈せず、ニーラの血が体に流れていることを誇りに思って生きて欲しい。嘘を吐いたのは、彼らの意識を少しでも変えるためだ。被害者のままでいるのは簡単だ。抗う必要がないからだ。だが、そのままでは彼らは成長できない。諦めは何も生まないからだ」
ジルクニフの表情は変わらない。それでも、そこには力強さがあった。エイラも、ジルクニフの考えを全て理解できたわけではないだろう。今だって、「どうして、こんな面倒なことを」と心の片隅で思っている。彼はニーラ人ではないのに。
そこで、エイラは肝心なことを思い出す。
「まあ、何となく嘘を吐いた理由は分かったけど、根本の問題の解決はどうするのよ?エルスタインの目的が石切場目的じゃないなら、ジルが石切場を買ったって意味がないじゃない」
「そんな回りくどいことしなくたって、シンプルに解決法がある。お前も、少しは頭を使え」
(回りくどいって、ジルにだけは言われたくないけど……)
とはいえ、そんなシンプルな方法があるだろうか?エイラは、腕を組んで考えた。
(銀行に借金をして一時しのぎをする?契約を破棄にする?もしくは、誰かに石切場を売って……いやいや、それはジルが離してたことだし……)
ゴッ!(痛っ!)
ジルクニフの背中に、頭をぶつけた。背骨に当たったようで、鈍い音がした。考え事をしていたせいで、ジルクニフが立ち止まっていることに気づかなかったのだ。
「ご、ごめん」
とりあえず、エイラは謝った。
その時。
数十メートル先に佇む、豊満な肉体に目が留まった。エルスタインだ。
石切場にもいた影の薄い二人も一緒だ。どうして彼がここに?という疑問を口にする前に、ジルクニフが小声で答えた。
「最初に、質問をした時に、ここで会う約束をしたんだ。あの石切場を利用して一儲けできる方法があるって言ってな」
「それだけで、良く会ってくれたね」
いきなり、「儲け話がある」なんて話かければ、まともに取り合ってくれないだろうに。
「前もってターナーに紹介状を書いてもらっている」
「なるほどね」
ターナーの父、ウォーロンは東部を治める重鎮だ。その息子の紹介状となれば無下にはできない。エイラは小声で言う。
「で、何する気?」
「お前は俺の後ろで見てろ」
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