第18話 担当妖精はGSB

「おじいちゃん長生きだね」とハナちゃん。

「ふぉっふぉっふぉっ」


 ジジイの笑い声と言えばこうだろう。パイソンは空気を読むジジイだった。


「あと、クラインベック……っておじいちゃん外国の人だったの?」

「ダイジョブ、ワタシ、ニホンゴ、チョットワカル」


 外国人のしゃべり方といえばこうだろう。パイソンはノリのいい外国人だった。


――クラインベック⁉ 確かドイツの方の家名よね。ということは同郷ってことか……


 エゲレス出身のエリザベスは、彼のことをだと認識して、意外なつながりだと思った。


「おっと、それより異能という欄を見よ。人化は変身のことじゃが、もう一つ」

毒薬どくやく?」


 ハナちゃんは、漢字で書かれたそれを読み上げた。


「普通に読めば『どくやく』じゃが、どうやら『どくぐすり』と読むのが正しいようじゃ。わしもずっと『どくやく』だと思っとったから薬も作れるのに気づいたのはずっと後じゃった……まったく、この性悪妖精が」

『お言葉ですが、私に責任はありません。読み方に関する情報はネットワークからは開示されていませんから』

「で、本題なのじゃが、ハナちゃんのステータスも知りたい」

『露骨に話をそらしましたね……ですが、それはできません。契約対象以外のステータスは取得の権限がありません。ご存知のはずですが……ボケましたか?』

「一言多いわ。この子は転生者じゃ」

『なるほど、契約ですね』

「うむ」


 そこで、パイ爺はハナちゃんの方に向いた。


「契約、というと何か重大なことのように思えるが、早かれ遅かれ転生者は迷宮にかかわらざるを得ない。少し早いが、力を把握するのは悪いことじゃない」

「わかるよ。みんなを守れるかもしれないんだよね?」

「そうじゃ。わしは惑わされたが、ステータスを見ることで異能の使い方を理解する助けになるじゃろう」

「私に……あるのかな、異能」

「ある、と思う。昨日の魔獣との戦いで使ったじゃろう?」

「でも、あれ以降一回も強い雷が出ないよ?」

「だからこそじゃ。いつ発動するかもしれん力を、使い方を知らんままでいるのは危ない。ハナちゃん自身の安全のためにも、ここで契約しておくべきじゃ」


――確かに危ないかも


 ハナちゃんは思った。普段みんなの前で雷を使うことはないが、水を出したり、風を出して涼んだりはある。その時に突然規模が大きくなったらみんなにケガをさせてしまう。


――あと、異能が使えればダンジョン探索とか面白そう


 さっきはまだ早いと納得していたが、実はハナちゃんは結構前向きだった。


「じゃあその契約っての、やります」

「では、手順があるんで……そうだな、ノトロブが詳しいはずだから聞いておいてくれ」

「はーい」

『では説明いたします。最初はやり取りを聞いていて問題ありません。あなたが最初に発言してもらいたいのは……』


――あんまり変なことしないで欲しいんだけどなあ


 心配するエリザベスの元にパイソンがやってくる。


「何よ?」

「あの子を良く見ておいてやってくれないか?」

「そんなの言われるまでもないわよ」

「いや、想像しているのとは違うじゃろ。たぶん、あの子は迷宮に早晩通い始めるじゃろう」

「そんなの許さないわ」

「ふん……まあいい、もしも、の話として考えておいてくれ」

「万が一でもそんなことはさせない……けど、まあ気を付けておくわ」

「頼む、精霊魔導士


 やはり、この人は同郷だ、とエリザベスは思った。

 自らの愛称に秘められた秘密を理解している。

 パイ爺はそっとエリザベスの元を離れ、ハナちゃんに説明している妖精に近づいた。


『……で、出てきた妖精はどんな姿かもわかりませんが決してびっくりしたり嫌がったりしないでください。妖精にも心があるので、傷つけてしまうと仲良くなりにくくなります』

「はい、わかりました」

『まあ、どんなに奇妙な姿であっても、死んだオウムの姿をした私に比べればましだと思いますがね。ハッハッハ』

「ハッハッ、ハァ……」


 妖精渾身の自虐ネタはあまりハナちゃんのお気に召さなかったようだ。


『ともかく、妖精と契約できたら、ステータスを出すように要求してください』

「ステータスを出して、でもいいの?」

『はい、問題ありま……』

「問題はあるじゃろ。ハナちゃん、その時は必ずミニでステータスを出せと要求するのを忘れてはいかんぞ」


 口をはさんだパイ爺の言葉に、妖精は口を閉じる。

 気になったハナちゃんはパイ爺に聞き返す。


「ミニじゃないとだめなの?」

「今すぐ迷宮探索に没頭したい、というのでなければやめておきなさい。それとも、ハナちゃんは村の生活が嫌いか?」


 ハナちゃんは首を振る。


「大好きだよ」

「ならば害になることの方が多い。いいね、必ずミニでと付け加えるのを忘れるなよ」


 そういって、パイ爺は沈黙するノトロブの鳥かごをつかんだ。


――妖精は転生者を迷宮の奥にいざなう、か……


 一部の限られた者たちで共有される文章の冒頭を思い出しながら、彼は自分の契約妖精を眺める。


――こいつらは敵ではないが、すべての行動がわしらの為ということでもない。今ハナちゃんに言うべきではないだろうが……


「では、始める。ノトロブ、良いな」

『了解です』


 パイ爺はハナちゃんの前に立ち、鳥かごを掲げる。


「パイソン・川原・クラインベックが求む」

『要請者の権限を確認。資格者であると認証されました』

「契約を前提として妖精を選定せよ」

『要請内容を確認。契約対象を指定してください』

「対象者は眼前の少女」

『確認。対象者は自分の名前を発言してください』


 事前に説明されていたことだ。ハナちゃんは名乗る。


「バンバ・ハナです」

『対象者を調査……完了。有資格者と認定しました。続いて契約の意思について確認します。対象者バンバ・ハナは妖精契約を望みますか?』

「はい」

『ここに必要事項は全て確認されました。妖精選定……完了しました』

「では妖精を呼び出してもらおう」

『了解。対象者に適した妖精を顕現します』


 そして、ハナちゃんとノトロブの間の床に、先ほどと同じように光があらゆる方向から集まり、その光は小さく丸く形をとった。

 その姿は――


「ボールか? それにしてはちょっと派手じゃのう」


 よく見る白黒のサッカーボールを想像してみよう。その白い部分が真っ黒で、逆に黒い部分が赤、緑、青、黄色、紫などの光を発している。発光は固定ではなく、同じところが次々に色を変えて光っている。

 形はサッカーボール。

 光る様子はミラーボール。

 そして、ハナちゃんの第一印象は……


「ゲーミングサッカーボール」


 前世で一時期流行った七色に光るゲーミンググッズは当然PCやその周辺機器に限られている。グラウンドで使うサッカーボールを七色に光らせも意味はなく、実際にそのようなグッズは存在しないのだが、妖精の姿に理屈は無い。

 黒が主体で、いろいろな色に切り替わるその姿は、どちらかというと悪そうな印象である。見ていたパイソンとエリザベスはあまりいい印象を持たなかった。

 しかし……


「かわいい」

「なんと?」驚くパイソン。

『私の時と、何たる違い』嘆くノトロブ。


 ハナちゃん本人は体力のこともあり、あまりできなかったがゲームは好きだ。流行っていたゲーミンググッズもかっこいいと思っていた。

 しかし、ゲーミンググッズはカラフルに光るだけではなくて、エッジが立ってカクカクトゲトゲした見た目であるのが普通だ。そちらはハナちゃん的になしだった。

 ということで、七色に光り、かつ丸いこの存在は、ハナちゃんの好みにバッチリ合っていた。

 妖精は、どっちが前かわからない見た目だが、くるりと回転して、ハナちゃんの方に前? を向けて飛び跳ね始めた。


『Hello, Hello……あ、日本語わかりますね。どうも、あなたの妖精だよ。こんごともよろしく』

「……はい、よろしくです」

『まずは、自己紹介を……といっても、私に名前はないよ。あなたがつけてちょうだい』

「えっと、私はハナです。フルネームだとバンバ・ハナ。で……あなたのお名前だけど、うーん……そうだ、七色だから虹でレインボウ、縮めてレインとかどうかな?」

『よろしく、ハナちゃん。じゃあ私はレインって名乗るね』


 ぴょんぴょん飛びながら七色に光るレインは心なしかうれしく見える。声もしゃべり方も相まって子供がいるみたいだ。

 ハナちゃんもうれしくなって手を叩いて喜ぶが、レインの向こうのおじいさんを見て思い出した。


「そうだ、レイン。私のステータスを、ミニで見せて?」

『最小表示でいいの? おっけー。表示するよ』


 そして、ハナちゃんの目の前に半透明の四角い板が現れる。

 ただ……


「板の方も七色じゃなくていいのに……」


 部分ごとにいろんな色に光るステータス表示は非常に見にくかった。

 それでも何とか確認すると……



 名前:バンバ・ハナ

 種族:転生者

 年齢:11

 異能:人化、モフ芸



「なにそれ?」



 

 

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