9:癒やしを見つけたぼく(いつから癒やしだと錯覚していた?)
「あっ、あのっ! 工藤くんっ、今日はよろしくお願いひまひゅっ!」
「あざとい、このむっつりあざといよ」
「だ、だから私はむっつりじゃないよっ、有紗ちゃんっ!」
朝家を出れば、息のあった掛け合いで逆木千尋と御剣有紗が現れた。
可愛らしい顔立ちで、茶髪のボブカットでくりくりとした瞳が小動物系の千尋と、小○生でも通じてしまいそうな体型で緑のウルフカットに半眼の有紗だ。
彼女たちを前にすると、昨日までの出来事が如何にSATSUBATSUとしていたか。
――二人だけがぼくを囲ってくれてたら良かったのに……。
『あらあら~』
『ほほう』
『ふふっ』
ぞくぅっ!
今、名状しがたき悪寒を感じた。
「どうしたの工藤くん、顔色が悪いよ?」
「きっと千尋の名状しがたき劣情を感じたに違いない」
「ちっ、違うよぉっ!」
「だけど隙あらば?」
「触りたい……」
「ほら、ね?」
半眼でもドヤ顔だと分かった。
「あ、あはは……」
「まっ、待ってね!? 違うからねっ、工藤くんっ!」
確かに千尋はむっつりであるのかも知れなかったが、あの
だからこそ御幸もこのようなことが言えたのだろう。
「……えっと、逆木さん?」
「んっ、んっ、何? 工藤くん」
「それ」
「え?」
「だからぼくのことは名字じゃなくって、御幸で良いよ。えっと、御剣さんも」
「分かった、御幸。じゃあ、御幸も私のことは有紗で良い」
「あっ、あっ、私も千尋で良いよ。……御幸、くん。あぅう……」
「あざとい」
「酷いよ有紗ちゃんっ!」
「あはは……、じゃあよろしく、千尋さんに有紗さん」
「うむ、苦しゅうない」
「もう、有紗ちゃんは……うん、御幸くん……」
ジン、と噛み締めるように。
御幸は久しぶりに癒やしというものを感じた気になるのであった。……
――それがどうしてこうなった?
◇
「えっ、ちょおっ、千尋さんっ!?」
「はぁっ、はぁっ、御幸くんが悪いんだよ? 私をこうさせたのは御幸くんなんだから……」
ありのままに今起こったことを話せば、今日は比較的平和な一日だったなと思いつつ二人と共に家路についた。
これまでは登下校事に一人ずつ親睦を深めていたが、どうやらそれを恥ずかしがった千尋が二人合わせて登下校を共にすることにしたらしい。
『あざとい、この女、あざとい……』
と有紗は言っていたが、そう言いつつも付き合う彼女には好感が持てた。
そうして帰宅したところ、御幸は癒やし枠だと思った二人に、
『ちょっと、上がっていく?』
『えっ!?』
『まさか、躰目当てっ?』
小学生体型の有紗が躰を抱きながら言うと本当に洒落にはならない。ただしその目は半眼のままである。その有紗は、
『御幸は調子に乗っている。だから現実を見た方が良い。私は帰る。代わりにこのむっつりを置いていく。喰われてしまえっ!』
『言っていることが酷すぎるよ有紗ちゃあんっ!』
そう言って千尋は置いていかれ、御幸の部屋に入ってドギマギ、感動しつつ見ている様子で、御幸が飲み物を用意して戻って来たところ、
『はぁっ、はぁっ、御幸くんの匂い……』
くんかー、すーはー……
御幸の枕に顔を埋めて恍惚とした表情を浮かべていた。
それに御幸が固まれば
『こっ、これは違うのっ!』
と慌てた様子でやって来て、わちゃわちゃともつれ合ううちに御幸は千尋にベッドに押し倒される形となった。
そこで、
――カチリ、
と。
千尋のイケナイスイッチが入ってしまったようなのであった。……
「だっ、駄目っ、千尋さん……」
「あぁっ、御幸くん、可愛い……だ、大丈夫だよ、天井の染みを数えているうちに終わるらしいから、ねっ?」
――ねっ、じゃない。
が、はぁはぁと息を荒ぶらせて目を見開いている千尋には迂闊にツッコめない。何せ突っ込まされそうなこの状況なのだから……ゲフン。
「それに私たちすぐに結婚するでしょ? 皆がいれば子育てだって大丈夫だから」
「ちょっ、ちょおぉっ!?」
素っ頓狂な声を上げるも千尋は止まらない。御幸の腰に跨がって、女の子のそこを擦りつけてしまう。
「だっ、駄目……千尋、さん、くぅう……」
「あっ、御幸、くん……ふふっ、やっぱり男の子……」
とろんっとした面貌は何を言っても止まらなさそう。
まるで絡みつく蜘蛛のようになって、彼女は上体を倒しはじめる。
茶髪のボブカットがさらりと揺れ、可愛らしくも情欲に染まった貌が御幸に向かって堕ちてクる……。
――うっ、うぁっ、うぁあっ、お父さんお母さん、ぼく、今から男になります。
御幸も御幸で本気の抵抗は行わない。
柔らかそうな千尋の唇が近づいて、御幸に重な……、
『待ったぁあーーーっ!』
びくぅううっ!
御幸と千尋、共に電気ショックを受けたように跳ね上がった。
むろん、御幸の部屋のドアを開けて押しかけてきたのは、
「ふっ、千尋さん、あなた、やはり」
「それは譲れないと~、私は思うな~」
「扠、この場合市中引き回しの上に打ち首獄門が適応されよう」
「そうだったらあなたは市中を何周しないと行けないのだろうね。……ってことは置いておいて、この、むっつりがっ!」
「ひぃいっ!」
飛鳥、まひる、愁、そして有紗に囲まれて、千尋は追い詰められた鼠のような悲鳴を上げた。
「さあ、そこを退きなさい、そこは私の場所よ」
「あっ、飛鳥ちゃんは別に御幸くんに恋愛感情を持っていないって言ったじゃない!」
「私が御幸くんを好きじゃないって、いつから錯覚していたのかしら?」
「……なん、だ、と……?」
ノリ良いなぁ、と千尋に跨がられたままの御幸は思ってしまう。
だけど、
――って、あれ? うぇえええっ!? 好き!? 飛鳥がぼくのことを好きってぇっ!?
と彼の新たな困惑を他所に、
「違うよ~、そこは私の場所よ~、さ、御幸くん、私に御幸くんの赤ちゃんをちょうだい」
「違う! 私が先だ、はぁっ、はぁっ、私はいつだって準備万端だ」
「と二大痴女が申しております。ちなみに大きなお姉さんが怖かったら小さな女の子はどうでしょう」
痴女二人に負けじと有紗もあっぴるを繰り返す。
――こ、これがモテ期って奴!? だ、だけど……。
あまりにも殺伐臭臭いのは気のせいか。
「いやぁっ! ここまで来たら退きたくないぃっ!」
「むっつりがオープンになった、だと?」
ここまで来れば千尋も開き直っていた。が、
「ほら~、退く時間よ~、まずは生徒会長が生徒の長として堪能するから~」
「職権乱用甚だしいっ! 風紀委員長として風紀の乱れは見過ごせんぞ! こうなったら御幸きゅんの御幸きゅんは私の中にないないしないと……」
「どうやらあなたの武器はブーメランだったようね」
「ほら、退く、むっつりからオープンにクラスチェンジしたむっつり」
「いやぁああ~~~っ」
わちゃわちゃと。
千尋が御幸の下腹部に乗ったままメンバーが姦しい。
そして千尋の女の子の場所が、膨らんだ御幸自身を擦り続けた。
「あっ、あっ、ちょっ、待って。マズい、本当に拙いからぁっ!」
「退くの~」「退けぇいっ!」「退きなさい」「ほら、退く」
「嫌ぁあああ~~~~っ!」
そうしてついに、
「あっ、だっ、だめぇええっ!」
御幸が大きな声を上げた時、
「えっ!」
わちゃわちゃとしていた千尋が声を上げて固まった。それどころか彼女は窪んだ箇所にフィットさせるとその震えを味わった。
「み……御幸、くん……」
「い、言わないで……」
急に様子が変わった二人に他のメンバーが怪訝な表情(かお)を浮かべる。
すると、
「すんすん……匂うよ匂うよ~、これは、罪の薫りかな~?」まったく朗らかではない様子で糸目の生徒会長が。
「……む、無駄打ち……、それは私の中で出してくれるものだろうっ! なんて罪深い」外で出すのは罪であると、それは聖書にも書かれている(創世記38:9~10)。
「え? どうしたのかしら、二人とも、妙な薫りがするとは思うけど……でも、何かもっと嗅ぎたくなるような薫りね」
「ピュアに見せかけて天然スケベ。これが呉林財閥令嬢……そこに痺れる憧れるゥ!」
「あぁっ、あっ、こんな感じなんだぁ……、これをお腹の中でされると、御幸くんの赤ちゃんがぁ……」
「うぅう……、もうお婿に行けないぃ……」
『貰ってあげるから大丈夫!』
そこでメンバーの声は完全に一致していたのだと言う。
◇
その後は、小さくなり続けていた御幸がシャワーを浴びて――部屋に戻って来れば五人で揃って御幸のベッドの下を探っていた。仲良く並んだ五つの制服のお尻に、先ほどの事があった後でも健全な男子高校生である御幸は、端的に言ってムラっとした。
そこでニヤニヤとした視線を向けられてまるでチベットスナギツネのような顔になった。
そうこうしているうちに母親が帰って来て、彼女たちを含めて夕食を取った。父親はちょうど彼女たちが帰っていく際に帰宅して愕然とした顔をしていた。
今度は彼も含めて食事をしようと言うことになって、今日のところはお開きとなった。
御幸はベッドでごろりと横になる。
今日信じられない粗相(?)をしてしまったベッドである。
もはやお婿に行けなくなるような致命的な粗相だった。
しかし彼女たちは自分を貰ってあげると言ってくれた。
――嬉しかった。
――恥ずかしかったけれど。
しかし、夕食までのやり取りでも、彼女たちが本気であることがひしひしと伝わってきた。
まひると愁は分かっていたが、どうやら千尋と有紗も自分のことが好きらしい。そして飛鳥に至っては
『気に入ったわ』
そう言っていた。
好きと言われて悪い気はしない。その上あんな美少女たちだ。
彼女たちに一夫多妻で囲われるだなんて夢のよう。
御幸のことを好きな彼女たちは、彼女たちで同盟を組んで今の状況を選んだのだと言う。この関係を形成するにあたって彼女たちの間に蟠りはないようだ。
しかし、
――ぼくは皆のことが好きなのだろうか。
それを考えてしまう。
考えてしまうのだが、……
「……いや、好きだよな」
これまで取り柄のないモブであると――思い込んで生きてきた御幸にとって、彼の好きな人とはまずは自分のことを好きになってくれる人である。それにこれまでのやり取りでも、彼女たちのことを好ましく思えた。
だから、
「皆の結婚か……贅沢だな」
御幸は照れくさそうに微笑むと、今日と言う一日に目を閉じるのであった。
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