第2話 璃田彩香 15歳
私は
「彩、これ参加してみたら?面白そうじゃん。彩、確か野球好きだったよね?」
「んー、見せて。…これ、どこにあったの?」
「えっと、1階のチラシ置き場。」
「へえ。」
「私はちなみに、吹奏楽応援に応募したいんだよね。
またトランペットやりたくなっちゃって。」
友達の
小学校のクラスはずっと違ったけれど、6年でやったブラスバンドの時に同じトランペットで、仲良くなった。中学は2人とも受験せずに公立に入って、3年間同じクラスだった。
「へえ。」
今見せられているのは県単位で開く少女高校野球大会。近くのエリアで区切りトーナメントで戦う、というものだ。
チアと吹奏楽の応募も受け付けている。で、今私がやってみたら、と言われているのは選手。
実は私、勉強は国語と英語以外いまいちだけど、運動が得意。走るのも投げるのも、全部中学までは学年トップだった。野球が好きで、阪神タイガースのファンだ。
小学生の頃は女子OKの野球チームに入って、ショートとして結構活躍していた。
でも、段々体格とか体力的なもので、男子に負けていった。
今は、ただのタイガースファン。
「めちゃめちゃ生返事じゃん…。」
「んー、ちょっと考えてみるわ。」
「Ok。」
その日の帰り。
「何だありゃ?」
普段空き地のはずの場所に、建物が建っている。
「…思ひで屋?なんだろう…?」
昔の看板や信号がたくさん壁に取り付けられていて、まるでここだけ異世界の様だ。
しかも、周りの人からはおそらく見えていない。
…入ってみよう…
「お邪魔します…。」
コンコン。
「あ、入って良いですよ。」
キ―。
古いドアが開いた。
「お邪魔します…。え⁉」
「いらっしゃい。すごいよね…?」
「こんな所、初めて見たな…!」
内装はまるで古い喫茶店か、昔のドラマのセットの様だ。
年季の入っている、木の机と椅子はカラメル色に輝いていて、
3つの机のすべての花瓶に花が活けてある。花瓶も古いガラス製の重たそうな物だ。
おばあちゃんの家にあったもう電話線が繋がっていなかったものを見たことがあるだけの黒電話の赤い箱版みたいなものもある。
「ここに座って。」
中にいた女の子はポニーテールで、少しレトロなセーラー服を着ている。
真ん中の机の右側の椅子を指さした。自分は左側に座る。
座ってみると、とても良い気分に包まれた。
…不思議な部屋…
「わたしは登紀樺。よろしくね。」
「私は彩香。よろしく。」
「本題に入るけれど、ここは「思ひで屋」。
思い出を歴代の店主…えっと、ちなみに私は13代目なんだ。が集めていて、来たお客さんにそれを渡すの。お代は無しなんだ。だってこっちが、集めるときにも渡すときにも楽しんでいるから。それで、えーっと、彩香さんのの思い出は…。」
そう言うと、店の奥から小箱を取り出してきた。
「あったあった。これか…?写真?」
あっ!
「あ…!」
「えぇっと、彩香さんが10歳の時に、初めて満塁ホームランを打った時
…すごいな…の写真。
えっと、こんな感じで思い出をあげるんだ。」
「わあ、懐かしい…。」
「良かった。」
「あ、戻らなきゃ。またね。」
「はい。…会えるかわかりませんけれど、さようなら!」
「お邪魔しました…。」
キィー。
「…懐かしいな。」
…やってみようかな、少女高校野球大会…
大会終了後の事。
母親に新聞を取ってこいと言われ、渋々郵便受けへ行って来た妹が、先ほどとは一転した表情で戻ってきた。
「あ、お姉ちゃん!のってる!のってるよ!」
「え?なにが?あ!本当だ…。」
妹の差し出した県の新聞には、
『少女高校野球大会、チーム南丞・碧山高校が優勝』という見出しで、あの日のように満塁ホームランを打った私の写真が、載っていた。
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